前編
俺、須藤彰人は――現代日本から、平行世界に転生したことを除けば、普通の男子高校生だ。
この世界では、ラノベが教科書のように読まれまくっていて、ラノベを知らない者はほとんどいない。当然、ラノベ的展開も彼らにはご褒美だ。
そして俺は、旅行から帰ってきた両親のお願いで、両親が拾ってきた女の子を娘として、育てることになった。
いきなり、娘を育てることには困惑したが、お小遣いをチラつかせられたら、もう育てるしかない。
よしっ! 月一で五万は最高だ。もちろん、娘の養育費の横領は、バレないように気をつけるつもりだ。
俺の娘――須藤愛美は無口で物静かな子だ。学校に連れてきてしまっても問題はないだろう。
ラノベ的展開に理解のあるこの世界は、未成年の独身でも養子縁組がトントン拍子で進むし、学校に謎の子供を連れてくることがステータスと化している。
だから、色々と大丈夫だ。問題はない。
さっそく俺は――学校に愛美を連れてくることにした。
想像していた通り、俺が娘を連れてきたことが学校で注目の的になっていた。
幼なじみの男たちから、話しかけられる。
「よっ! 彰人。お前、ラノベ主人公じゃーん!」
「誰? 誰、その子? 超可愛い!」
人見知りの愛美が俺の袖を掴み、後ろに隠れた。
「娘の愛美だよ。旅行に行ってた両親が拾ってきたんだ。皆、愛美をよろしく」
前世の俺からしたら理解不能な世迷言だが、現世では完璧な挨拶だ。
「「「すごーーーーーいっ!!」」」
聞き耳を立てていたクラス中の生徒がわっと沸いた。
反応が悪いクラスメイトも数人はいるが、うちのクラスには様々なジャンルの主人公が完備されているだけだから、気にしなくていい。
「ちょっと、あなたたち! 教室では静かに喜びなさい!」
ヘアピンで前髪をまとめて、おでこを出した委員長に教室でのマナーを指導されて、クラスメイト全員がしょぼんとする。
「うちのクラスには、すでに子供がいるんだから、珍しくもないじゃない」
なにを隠そう、委員長も学校に謎の息子を連れてきていた。
「須藤くん。うちの息子とお絵描き勝負よ!」
よく分からない勝負を突きつけられたが、つまり、うちの子すごい自慢勝負だ。
俺はそれを予想していて、愛美を絵画教室に通わせていた。予想的中!
クラスメイトが審査員になってくれるようで、黒板には「ワクワクお絵描き勝負!」とチョークで書かれている。
いざ、お絵描き勝負の幕が上がる――。
絵が上手いのは俺の愛美の方だ!!
俺たち親組は机と椅子を子供たちに貸していた。愛美と委員長の息子が黙々と絵を描いている。しばらくして、ほぼ同時に絵を提出した。
愛美の作品にほっとする。線がとても綺麗で、女の子のツインテールの髪の毛先が美しく描けている。
でもどうして、そんなに黒いんだ? 女の子の顔が見えないくらい、全て黒で塗りつぶされている。
「色が黒すぎる」
「黒が濃いから、委員長の息子の方がいい」
やはり、消去法で委員長の息子の方に票が傾いてしまった。
今度は、二人の子供というテーマで描き始める。
やっぱり、絵は上手いのに黒い。でも、前回より黒が薄めになっている。
「すこし黒いけど、絵が上手い」
「黒さが気になるけど、綺麗だ」
やっと、愛美の絵の上手さが評価されたようだ。よかった。
複数の人物が最後のテーマだ。
愛美はたくさんの人間を描いても、線が歪むことはない。ただ、黒すぎる!! 黒い! 黒いよ!
これが愛美の個性なら、褒めて伸ばすべきだろうか。それとも、性格に歪みでもあるのだろうか。
後で、委員長に相談しよう。
愛美が元気なら、結果は惨敗でもいいんだ……。