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太宰と僕の自殺対談  作者: マルチネスモニカ
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プロローグ

死ぬなら5月の下旬から6月中旬の暖かくも寒くもなく、抜群の心地良さをもたらしてくれるこの時期の夜空に感謝しながら広大な土地にハンモックを立てて、近くにランタンを置き安楽死したいと思ったのはいつからだっただろうか。

僕よりも辛い人がいる。僕よりも悲しい人がいる。僕よりも大変な人がいる。

そんなありきたりな言葉の波に流されながら社会人を騙し騙しやって来て、ふと天気が良く涼しそうだと思い外に出て椅子を出して都会でも田舎にも属さないそんな半端な夜空を見ながら心の中から唐突に漏れたの理想の自殺についての考えや願望だった。

痛いのは嫌だ。安楽死が理想だ。寝たら死んでるが理想。となると睡眠剤か?いやしかし、葬式の金も用意せず尻拭いさせるのはダメだ

こんな風に考える内にいつからか次第に死に方は定まってきて、季節や死に方についてはこれ以上の変更をすることはもう無くなった。

閑話休題

ここまで来てようやく、始まりのハンモックに乗って安楽死したいに繋がる。しかしここまで決まったものの残る問題はまだまだ山のようにある。

最初に死体の処理。こればっかりは自分でやる訳にも行かないので業者か医療関係者が理想なのだろうが、僕の身近に自殺を良しとする医者はおろか、死神もいないのでここでつまづく。

次に遺産や資産についての事だ。これも金に誠実な男が近くにいない故にあちこちの公認会計士にでも駆け込もうかと思ったのだが、その金でより理想の死に近づくことが出来ることに気がつくと最後。投げ捨てて野となれ山となれにしてもいいのではといった考えも浮かんでくる。

もう1つとして人間関係だ。以前読んだ本では葬式とは死者が現世に未練を残し、生者に取り憑き残らないように決別をする儀式であり、死者生者共に意味のある儀式だから怠っては行けない儀式だということを知り、省く訳には行かなくなったのだ。万が一未練を残した為に現世で迷惑をかけたとなると死んでも死にきれないのでこれだけは何があっても必ず行う事は決めている。

最後に人間関係についてだ。こればっかりは切っても切り離せないものだから仕方ないのだが、何処まで仲の良い人間に葬式を行う旨を伝える手紙を業者に頼んで出すか。自殺した理由でも残しておくべきなのか。

非常に面倒臭い。すぐさま死ねない理由の第1位だろう。おててつないでみんな仲良しが大人になったらおてては鎖に変わって自分を縛る枷でしかなかったのはなんとも皮肉だろう。

これらが僕を今現在自殺を躊躇している理由かつ、7つ玉を揃えてでも消したい理由だ。

「よし、これにて今日の分は終わり。」

そう言って僕は添削を施し、はみ出た蒲鉾を綺麗に整えた職人のように完成した文を死んで読まれても恥ずかしくなく分かりやすいようにまとまっていることを確認して今日も今日とて書き終えた。

その後の僕のスケジュールは簡単だ。

歯を磨いて、トイレに行って、ライトを消してベットに潜る。

あとは泥のように安楽死を祈りつつ眠るだけだ。

どうか終わりますように。この現実が。

僕の中で溢れかえった苦痛を取り除きたいので終わりますようと何度繰り返して、何度朝起きて溜息をついたかもわからない文句を繰り返してから眠りについた。

次の瞬間にはいつもの朝だと諦め混じりの死んだ目を閉じた僕だったがこの時だけは違った。

夢を見た。少女が綿あめを食べながら空を自由に駆ける夢でもなく。宇宙飛行士になって宇宙に行くわけでもなく、ただ単純に。

真っ白が世界で1番表現として正しい部屋に椅子が2つ並べてあり、後ろには遠く離れた所で地に足をつけずに背中の羽をパタパタさせながら昔ながらの手回し式の映画フィルムを椅子の後ろの壁に写していた。

しかし何も写っていないフィルムをずっと回している天使は表情はないもののどこかどんよりとしていて幸せの福音を鳴らすには些か明るみに欠けるものがあった。

夢だとわかっていながら不思議と見たこともない光景につい考える事を放棄せずに眠る頭を回転させた代償としてハテナで頭を爆発しそうになった時、靴音がした。夢の中なのだから僕しかいないはずだ。

しかし椅子は2つあるということは僕が心の深層心理で望んだ、もしくはこうしたかった人物が来るのだろう。まさか幽霊やお化けなんてもんが夢の中でこんな明るい場所でお話するために来るわけでもあるまい。

そんなことを行ってる間に足音は近づいており、その足音からパリッとしたスーツに合うような革靴を履いていることが分かったけどそれ以外はさっぱりだ。

せっかくなら誰か楽しみにしようと思い椅子に座らず目を閉じて待っていると男は椅子の近くで立つ僕を訝しげに周りをぐるりと一周した後、男は迷いもなく椅子に腰掛けた。そろそろ目を開けようかと思った所で男から声がかかった。

「さっさと目を開けて座ったらどうだそこのお前」

返事の代わりに目を開けて、振り返ってみるとそこにはスーツの中にベストを羽織り、ネクタイを緩めて着崩した男がいた。目が死んでいて僕と一緒だと思うと同時に誰だという感想が強かった。

僕の知り合いにこんな奴は居ないし、ましてや死んだ目をしているやつなんて尚更知り合ったことも無い。

我慢できずに僕は接着剤で張り付いたかと思う口を開くと言葉を発した。

「えーと、どちら様で?」言いながら馬鹿だなと思ったがこんな所で2回転ひねりの入ったジョークを出会い頭に出さなかっただけ僕は良い奴だろう。

すると男は眉を今日に片方だけ釣り上げると怪訝そうに答えた。

「知らないのか?太宰だよ。自殺の大先輩。」

はい?しかし相手は太宰だと言うんだから何かしら返さなきゃ会話は成り立たないだろう。使い切った脳みそをフルに使って言葉を発した

「は?」

ごめん脳みそ使い切った。




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