91.ロザック旧市街・攻戦編 後編
ただ一人だけの魔剣士の男は、人質を取れなくなったことを悔しがりながら、隠し持っていたバゼラードを俺に見せつけている。
短剣にしては長い剣先で、握りの部分がグリップ状になっているところを見れば、ショートソードと言っても間違いじゃない。
「召喚士は武器を手にしても戦えねえんだよなぁ?」
「……短剣程度なら使える」
「へぇ? 面白ぇな。それなら、これと似た短剣をてめえに渡してやる。武器同士で戦いやがれ」
「何故そんなことをする必要が?」
「俺は魔剣士で魔法も使えるが、召喚士よりは劣る。だが剣、それも普段は使わねえ短剣同士なら、俺もてめえも楽しめそうだ。短剣程度が使えるってんなら、それで戦ってみやがれ」
召喚の言を唱えなくてもこの男一人くらいは楽に倒せそうではあるが、そうする意味が無いので、精霊の力だけでねじ伏せることにする。
「……そうしたいところだが、俺は召喚士だ。不慣れな武器で戦うつもりはない。それよりもここに現れたことの報いは受けてもらう」
「――ち、つまらねえ野郎だ。てめえが使わなくても、俺は遠慮なく武器を使わせてもらう! 召喚を唱えさせる暇も与えねえくらいにな!!」
「――っ!」
魔剣士の男は手にしているバゼラードを、勢いだけで振り上げて来た。
咄嗟の動きに土精霊の壁を出すことしか出来ず、防戦一方になってしまう。
「土の壁ごときで守るなんざ、ざまぁねえな! 短剣ごときと侮りやがったてめえは、所詮そんな程度だろうが! 弱さをずっと憎んだまま死にやがれ!!」
魔剣士の言う通り防ぐことしか出来ていないが、相手からの攻撃ダメージは全く無い。
このことに気付いていないのか、間髪入れずに何度も切り刻みの動作を続けて来ている。
素早い動きの連続攻撃は、何層にも重なる土壁を徐々に剝がして行く勢いがあった。
勢い任せに正面攻撃をして来る程度なら問題は無く、反撃に出ようと思えば、いつでもやれる感じさえしている。
「……無駄な攻撃を繰り返しても、俺には効かない」
「だろうな。そうやって守っているだけなら最強だろうが、土の守り程度で防げるとでも思ってんのか?」
「武器を使わなくても、俺には精霊の守りがある。このまま無駄な攻撃をやめないなら、お前を無力にする」
「――なるほどな。普通に攻撃しても、それすら効かないってわけか。だが、その程度の精霊でいい気になるな!!」
「う……っ!?」
それまで全く破られようとしなかったマリムの壁が、突然崩れ、切っ先が微かに届きだした。
「召喚士……魔法剣の存在を忘れたのか?」
魔剣士が手にしていた短剣は、これまでとは打って変わり、風魔法を帯びた状態に変わっている。
「大剣じゃないのになぜ……ぐ……っ!?」
「だから短剣を手にしとけって言ったんだけどなぁ? 精霊属性にも強弱の相関があるってことを、てめえは学んでいなかったのか?」
「ぐ……」
さすがに油断しすぎたせいで、魔導ローブを貫かれ、僅かな痛みを胸部に感じてしまう。
短剣に弱点属性を付与されたことで、まんまと崩されるとは、思いもよらないことだった。
『ライゼル! 無事? 無事なのか~!?』
水壁に守られているノワに心配されているのは、さすがにまずい。
「ミゼラが言っていたもんと違って、大したことがねえな。てめえもあのエルフのように、身体中を切り刻んでやるよ! 魔剣の力を使わなくても勝てる相手だったとは、がっかりだぜ」
「――あのエルフ……?」
「何だ、もう忘れたのか? ネルヴァの洞窟でこの俺自らが、エルフに傷を――」
この男がルムデスを捕らえて、傷を……。
コイツか、コイツ一人が彼女を傷つけていたのか。
「思い出して悔しがってんのか? 心配すんな、てめえも俺の手で……」
「滅す……滅してやる……」
「俺を消す? 精霊に守られている召喚士ごときが、俺を消すってのか? 面白ぇな! その前にてめえはここで――」
「――闇黒の闇に蠢動する亡者よ……我は告ぐ、彼の者の生命を奪い、その身を滅せ……」
ルムデスのことで我を忘れたせいか、闇召喚の言を唱えた後、意識が暗転する。
「な、何……!? アンデッドを召喚しやがったのか? くそが……分が悪いモンを出しやがって……召喚士! 今は退いてやる。せいぜい足掻きやがれ」
俺の意識が薄れていく中、身動きが取れないまま、魔剣士の男は姿を消していた。
この後の意識と記憶はよく覚えていないまま、その場に倒れ込んでしまったらしい。
「アンデッド? ライゼルが召喚? 召喚したの?」
「あらあら~どうしましょ~」




