77.召喚士、魔物を従えて味方を得る
砂地に足を取られながら進み続けた段丘は、何者かが待ち受けていた。
新たな仲間となった龍人リヴェルナ・サーシャは、力の強さが段違いな女の子だ。
この場では大人しくさせ、敵の出方をうかがってから判断するしかない。
男の言う通り、段丘の奥に広がる林を進むと、男は俺に問いかけた。
「お前、魔物を使う奴か? それとも止めを刺すだけの残虐者か?」
「魔物……」
「答えろ! それによってお前の定めは、今と違ったものとなる」
魔物というかエルフと悪魔は魔物とは違うし、龍人に鳥獣は神に近い存在だろうから、魔物を使うのとは違うはず。
「んー? ライゼル、ルナに何か言いたいのかー?」
「いや、何でもないよ」
思わずルナをチラ見してしまった。
彼女は魔物とは全然違うし、残虐者ではないよな。
「どちらも違う」
「……なるほど。どちらにせよここを通りたくば、バルカの魔物を従えるか、数を減らす協力をするかを選べ」
「ええ? どういうわけなのか、見えないんですが……」
「辺りをよく見てみろ!」
彼の言う通り段丘周辺をひととおり眺めると、魔物の群れがエリアの境界辺りに、のさばっている。
林の茂みに身を潜めている人間たちは、この段丘から出られないということなのか。
「そこの者。わたくしたちは害を及ぼす者ではなく、遠き地に向かっているだけにすぎません。何用あって、主に問いを投げるのですか?」
「そうだぞ~! 我がライゼルへの侮辱は、我が許さないぞ」
しばらく黙っていたルムデスとルナが、不明な拘束に腹を立てているようで、声を荒らげ始めた。
「魔物が段丘周辺にうろついていますが、どういう……?」
「俺たちはバルカで、羊を狩りながらひっそりと暮らす遊牧の民。だがいつからかここに魔物が出没し、棲み着くようになった」
「そ、それが俺たちに何の関係が?」
「ここは静かな地だった。しかしお前のような身なりの者が、魔物を呼び、その魔物を倒すことなく放置していった」
俺の身なりで思いつくのは、召喚士か魔物使いか。
「そのせいで、俺たちは移動も叶わず、限られた狩りと採集で隠れ住み続けるようになったのだ!」
何というとばっちり。
魔物使いには会ったことはないけど、確かに召喚士に近い装備をしていると聞いたことはある。
だからといって、ここを通る旅の者に一体何を求めているというのか。
「似た格好というだけの俺に、あの魔物の群れを倒して欲しい……そういうことですか?」
「そうだ! お前がもし魔物使いだったならば、魔物を元の場所に戻してもらうと思っていたが、そうではないとすれば、魔物を倒してもらいたい」
「それはつまり、倒すか戻すかしないと、どのみちここから他へは行けないということですよね?」
「……そういうことだ」
なんてことはない、魔物を出しっぱなしにされて倒すことも敵わない民たちが、ここを通る冒険者に頼みたかっただけということみたいだ。
「それなら何故、わたくしたちを襲うのですか? そうまで必死に助けを請うのならば、素直に頼めばよろしかったのでは?」
「見て分かる通り、バルカ段丘は砂地で歩きにくく、高低差も激しい。ここを避けて行く者ばかりで、滅多に人が通らない。だが、お前たちはここを通った。攻撃ではなく、威嚇のつもりで気を惹きたかったのだ。許せ」
「はあ、まあ……そういうことなら」
確かに何もされなければ、魔物に気付くことなく過ぎ去ったかもしれない。
そうだとしても、強引過ぎる。
「偉そうな人間に腹が立つぞ! ライゼルが命令するなら、辺り一帯を消す!」
「待った待った!!」
「ライゼルは許すのか?」
「うーん……というより、魔物がうろついているのは確かだし、ここが危険な場所になっているのは、違うかなとね」
面倒なことではあるが、これを解決すれば人間たちの中にも、敵ではなく理解者が現れてくれる気がする。
魔物使いではなく召喚士だけど、魔物を召喚出来たら、今後は優位に働きそうだし、やるしかない。
「魔物を倒してくれ。倒さずとも、従えさせてもいい! 出来たら、礼をする」
「いいでしょう」
「ライゼルさま、わたくしも助けを!」
「いや、大丈夫。それに、確かめてみたいからね」
「はい」
迷宮都市に急ぎたい思いもあり、俺は魔物の群れに近づいた。
「グルルルル……」
「ウウウウ」
見た感じは完全に、野に放たれた野犬にしか見えない。
仮にどこかの魔物使いが、コイツらをテイムしたとしても、なぜ放置したままでいなくなったのか、かなり気になる。
ここは召喚の言を唱えて、理性のない野犬を動かしてみるか。
『我、精霊と獣を統べる者……弱きを捨て、強き者に従うならば、再びの主を、選ばせたりうる者なり』
野犬の中に少しでも利口な奴が紛れていれば、俺の召喚に従う要素は残っているはず。
しばらくして――
「はぁっ!」
「ふふ、龍人に向かう犬はいないのかー?」
召喚の言に従わず、俺の元に飛びかかろうとして来た野犬は、ルムデスに動きを封じられ、光に還されていた。
ルナは凄まじい威圧を放っていて、怯んだ野犬は自然と逃げて行ったようだ。
「くぅん……ハッハッハッ!」
群れの中で、ただ一匹だけが召喚の言に従って、大人しそうな野犬となっていた。
群れの中でも利口な野犬のようだ。
「――召喚士が魔物をも使役とは、お見逸れしたぞ!」
野犬の群れを退かし、その中の一匹だけを従わせていると、これまで隠れ潜んでいた民たちが、ぞろぞろと姿を見せ始めた。
そのまま俺の前で平伏し、一様に讃え出す。
「バルカの民は、魔物を従え窮地を救わせた召喚士ライゼルに、大いなる加護をもたらすものとする!!」
どうやら初めて、人間たちの味方を得られたようだ。
魔物使いの放置野犬は、召喚の力によって制することが出来た。
これでこの子は、いつでも呼べる。
名前も後で付けてあげるか。
今回はとばっちりな出来事ではあったが、魔物を召喚獣として得られただけでもよしとしよう。




