76.バルカ段丘の急襲
「……やはり彼女の存在そのものによる影響だったみたいですね」
「そうか、そうだよね」
「わたくしは湿地帯までは存じておりました。ですがルオンガルドもそうでしたが、この先全て存じません。ライゼルさまにとっては悩ましいことかもしれませんが、人に頼るしかありません」
「う、うん……」
龍人リヴェルナを新たに加えた俺たちは、凍える地帯を離れ、迷宮都市リエンガンを目指して歩き出した。
迷宮都市がどこにあるのかは皆目見当がつかない。
人づてに聞くしか無いものの、この先は全てが新天地。ルムデスの言うように、気を抜かず進むしかなさそうだ。
「ライゼルは不安? そうならそれを――」
「だ、駄目だからね! ルナの気持ちは嬉しいけど、空洞のように全てを消そうとするのは、良くないことなんだ」
「エルフもライゼルに従っている?」
「え、ええ……わたくしは、ルムデス・セイクレッドと申します。どうぞ、お名前で……」
「それを決めるのは我であり、ライゼルだぞ。そう呼ばれたいというなら……我のことはサーシャ! ルナと呼ぶのはライゼルだけだぞ!」
「は、はい。ではサーシャ。わたくしはライゼルさまに従って動いております。それ故、わたくし自身がライゼルさまのご意思に逆らう事などありません」
「……逆らわないのはいい! 我もそうするぞ!」
なるほど。口調はトルエノっぽいと感じていたけど、空を見るのは初めてと言っていたし、外に出て間もないルナにとっては、言葉遣いもまだ安定していないということか。
年齢的なモノは分からないけど、ルムデスに慕ってくれれば、ルナはいい仲間になりそうだ。
寒かったとはいえ、歩きやすかった所から比較すると、随分と歩きづらいところに来てしまった。
「砂が足を取る……くぅっ! あ、歩きづらいな」
「本当ですね。知らない土地、知らないことばかりです」
「歩きにくいのか? 人もエルフも歩くことに気を取られては、駄目なんだぞ!」
「はは、気を付けるよ」
「そうですね」
砂が混じった地面と、上下に激しい丘を歩き進んでいると丘を下る度に、深みのある茂みがあることに気付く。
僻地から歩いて来たおかげで人も魔物にも出会えていなかった。
それだけに、もしかしたら……何かが潜んでいるのかもしれない。
ここは俺が気を張らないと――
そう思った瞬間、林の茂みから何かが光った。
「ルムデス、ルナ!! 屈んで!」
「ライゼルさま!? どうし――!」
「屈む必要など無い。でもそれがライゼルの望みなら、従う!」
ルナの強さならその必要は無いと感じたものの、思わず叫ぶほどの光が目に飛び込んで来た。
そして一瞬の視界を遮ったと分かったのか、何者かが飛び出し始めた。
慣れない砂地での動作を嘲笑うかのようにして、砂塵を巻き上がらせながら柄の長い羽音を見せるようにして、俺たちに振り下ろす。
急襲されまくりもいい所だが、ここは様子を見て過ごすことにする。
ルムデスとルナにも視線で制し、大人しくさせた。
『貴様ら、バルカの地に何をしに来た?』
バルカという国、もしくは土地に入ったということなのだろうか。
長身の男は、俺たちを一瞥しながら、特にルナに対して警戒を強めているようにも見える。
そしてどうやら、俺のことは知られていないみたいだ。
「俺は旅の召喚士。この地に知らずにたどり着いた。迷宮都市リエンガンへの道を尋ねたい」
すんなり教えてくれる気配ではないが、茂みの奥にも感じる数人を守るかのように、男は口を開いた。
『ここより遠くの都市のことは知らん。ここを通るのならば、ここで果てるか魔物を倒していけ!』
身なりからして段丘面に潜みながら、ひっそりと暮らす人間たちにも見える。
獣か何かの骨を腰に引っ提げ、段丘では数少なそうな草布と、羊か何かの皮を幾重にもなめした物、それらで作られた胴着で身を守っているようだ。
槍はみすぼらしく、ずっと使われていなかったものにも感じる。
「ライゼルさま、力をさほど感じる相手ではありません。どうされるのですか?」
「ふっふん。人間が勝手に支配する地など、我にかかれば……」
「駄目だよ、ルナ」
「んうう……」
「ここは彼の言う通りにするよ。敵を無駄に作らずに進みたいからね」
「わたくしはライゼルさまに従います」
力を示せば全てがまかり通るとすれば、話し合うことなど叶わなくなる。
槍で威圧を見せているとはいえ、この地に潜む者たちとしては、強さの威を感じられない。
まずは大人しく連れて行かれることにする。
アサレア、そして魔剣士の待つ迷宮都市にたどり着くには、道を知らなくてはいけないのだから。
『下手な動きをすれば、その身が削れると思うがいい!』
「とにかく、俺たちは何もしません。話を聞かせてください」
『……女二人も妙な動きをさせるな。すれば帰さん。バルカの地にて危険にさらす』
召喚士を襲うといった人間ばかりじゃないと知れたことだし、まずは知ろう。
知ってどの辺りにたどり着いたのか、そこからだ。
『そこの細い林を通って奥へ進め。他を見ずに歩くことだ』




