68.召喚士、癒し鳥獣に刻印づけされる
「さてさて~パパを助けるのー!」
ん? パパって誰のことだろう。
自分のことをタンちゃんと呼ばせた羽毛姿の女の子は、艶びやかな純白の羽を大きく広げたかと思えば、そのまま俺に覆い被さって来た。
「え、ちょっとタンちゃん!?」
「ジッとしているの!」
「は、はい」
力も無くなされるがままな俺には、彼女が放つ言葉と動きに抗う手段を持っていない。
これはもう女の子の言うことを大人しく聞いておこう……そう思いながら、目を閉じた。
『強張らず、何も考えず……癒しの光に身を委ねなさいね……』
すると優しい声と温もりが、全身に伝わり始めてきた。
この力は癒し……それも、全快にする力!?
そうか、この子は癒しの鳥獣なんだ。
羽毛の中でふわふわと全身が弾んでいて、心地いいベッドに眠っているかのように気持ちがいい。
しばらく眠っていただろうか。
気付いた時には、ぬかるんだ湿地からいとも簡単に体を起こすことが出来た。
「……良かったです! ライゼル様っ!!」
「ルムデス? あれ……あの女の子は?」
「そのことですが、その……ライゼル様が呼び出した召喚は、どうやらガルダのようなのですが……」
「ガルダ?」
「鳥人獣で、あらゆる鳥人族の主と伝え聞いたことがあります」
「あれ、でもタンちゃんと呼んでと言われたんだけど……」
「そ、それはあの恐らく……」
ルムデスの様子がおかしい。
というより、赤らめた顔で困惑していると言った方が正しいのか。
「パパ~! 良くなった、良くなったのー?」
「それってまさか……」
「はぁ……まさか召喚されて、初めて見たライゼル様を刻印づけするだなんて……」
「ん? 刻印づけ? えーと、それはもしかして……」
「刷り込みと同じことだと……」
「だ、だから、パパ……? えええぇ!?」
俺を包んだ時は大人姿のガルダになっていたのに、今はすっかり親になつく子供の姿に戻っている。
その姿はここにいる他の鳥人族よりも人に近い。
俺をパパと呼ぶ彼女は、甲高くも聞いているだけで癒されそうな声をしている。
細く華奢な足で湿地を器用に跳ねているその姿は、タンチョウに似ているが、まさか――
「タンチョウのタンちゃん?」
「そうなの! パパは遠慮なく、タンちゃんと呼ぶの!」
「パ、パパじゃないんだけどね……」
治癒をする時ガルダになって、しかもその時のことはあまり覚えていないとか、不思議な獣を召喚してしまったようだ。
これまで俺が召喚した子たちの中には、回復をメインとした獣はいなかった。
そういう意味ではここから先で何かが起きた時には、頼りになりそうな気がしないでもない。
「治癒がメインでしかも刻印づけされたなら、連れて行くしかないのかな。ルムデスはどう思う?」
「しかし、ガルダはある程度弱っている者にしか治癒を使わないという面がありますし、この子を連れて行くのは躊躇いがあります」
「ええっ?」
相当弱っていたのは確かだったけど、魔力も体力も全快出来ている。
普段はふわふわな羽毛に触れられるだけでも連れて行く理由にはなりそうだし、連れて行くしかない。
「パパ~! 行く~? 行くの?」
「え、えーと……ラウカ村で十分に休んでからでも……」
「え~? でも治ったの! パパは回復したの」
「う、うん」
「ライゼル様、この辺り一帯はしばらく湿地が続きます」
「え、そうなの?」
「恐らく魔剣士どころか、普通の冒険者も寄り付かないはずです。全快されたということですし、出発しませんか?」
ルムデスはラウカ村に長くいるつもりは無さそうだ。
事実ここにいるのは鳥人族の子供たちだけで脅威こそ無いが、さしたるものも見当たらない。
むしろ湿地帯を利用して、他の村や町を目指した方が危険は回避出来るか。
「ライゼル様にも守るものが出来たことですし、少し大きめの町に進みませんか?」
「守るものって、タンちゃん?」
「わ、わたくしもお守りして頂きたく……」
「そ、そうか! そうだよね、出発しよう」
湿地で倒れていたままガルダを召喚して全快出来たことだ、魔剣士以外の敵が迫って来ないとも限らないし、早いところここを離れるのが良さそうだ。
「パパ、こっち、こっちを進んで~!」
「分かったよ」
子を持てばこんな感じなのかと迷いながら、ガルダことタンちゃんとルムデスとで、先に進んだ。
◇
「ルムデスさん、帰って来ないな……ライゼルに召喚されたってこと? ねぇ、あなたはどう思う?」
「さぁな……エルフとはいえ、あの女は召喚士の光。必要とされたからこそだろうな」
「それにしてもライゼルにも仲のいい旧友がいたなんて、知らなかったです」
「……ふ、俺は良く知っている。だからこそ、お前に協力している。会うのが早まれば、喜びに満ち溢れるだろうからな……」
「そ、そうですよね。旧友さんなら、早く会いたいですよね」
「早く会いたいものだ……会って、あいつを――」
◇◇
「精霊はまだ呼べませんか?」
「そうだね、精霊神を呼んだことによる消費は、半端なものでは無かったのかも……」
タンちゃんを先頭に歩きながら、精霊への呼びかけを試し続けていたが、誰一人応えてくれていない。
そうした思いをよぎらせていると、ルムデスが両頬に手を当てて、照れ臭そうに惚気始めた。
「うふふ、それにしてもパパ……だなんて、わたくしはママ……になるのでしょうか?」
「い、いやぁ~ど、どうだろうね。は、はは……」
「あの子は危険ではない先が見えていると思います。あの子が進む道へ参りましょう」
「うん、そうしよう」
今はとにかく、アサレアと再会することを考えなきゃいけない。
それまでにはもっと確かな強さをつけなければ――




