59.圧倒的な力の差
「は、はは……どうしてこんな、こんなに力の差が生じているっていうの? 一体何が……」
最初に逃げ出した風のシルフィードの空間。
彼女に対して、俺は怯むことなく得られた力を出すことが出来ている。
過去から戻り、トルエノとの再会を約束した後、地神マリムと火神のフレイム、そして水神コリエンテの力を降し、俺の魔力は格段に上がった。
「ま、元々そういう運命が備わっていたんだろうさ!」
「気に入らないけど、しょうがないもん……」
「何があったかは聞きたくないですけど、召喚士ライゼルに宿すことにするです」
過去も含めた俺の召喚の力、実力は、全てトルエノの力を借りていたに過ぎなかった。
アフルを忘れていたのも呪縛に囚われていたらしかったが、彼を消してしまった過去のトルエノを消し、今のトルエノとの契りも解消したことで、俺は初めて本来の召喚士として目覚めたということになる。
悪魔のトルエノ、光のルムデス、全ては憎悪にまみれた俺の召喚による契りだった。
トルエノ曰く、闇の力が多数を占めているのに、光のルムデスを傍に置けたのだけは理解出来なかったとか。
「――三人の力を得ただけでは、こんなに強くなるはずがないのですが……」
「終わらせますか? シルフィード」
「黙りなさい!! わたしは三つを束ねる風のシルフ。あなたを見極めるまでは、弱めるつもりはありません!」
地、水、炎を得た俺に、風のシルフは凄まじい風圧を向けて来る。
魔力を強め耐性を得たとはいえ、全身はよろめき、態勢を崩されてしまう。
翠眼のシルフが見る俺への攻撃意思は、迷いも何も無い偽り無き姿に見える。
俺を試すとか言っておきながらここまで一切力を弱めて来ないのは、それほどまでの覚悟があるということか。
「――答えなさい」
「……?」
「召喚士ライゼル。あなたは世界をどうするつもりがあるのです? 人間を滅し、闇を強め、光無き強さを振るうつもりですか?」
トルエノとだけいればそう思っていたのかもしれない。
だけど今はもう違う。
母さんの行方もそうだし、散り散りになったみんなとも会って、また旅を続けたい。
闇の力でなくても、俺を滅ぼそうとする人間たちを光に還すことは出来るはずだ。
「召喚の力だけではない力を使って、世界の脅威を無くす。それは闇だけじゃない、光も使う。光を使って、他の人間たちを改めさせる!」
「それがあなたの答えですか」
「人間全てを許すことは出来ない。でも、俺が親から受け継いだものは、きっと……」
「これに耐えられたら、あなたに屈す……降りましょう。喰らいなさい! ウィンドシア!!」
俺の周りを囲んでいた真空の渦が、急激な変化を起こす。
大した装備をしていない俺の全身は、細かい風で切り傷を付けられていく。
一つ一つの痛みは大したことは無く、そうかと思えば、蓄積した傷の痛みが時間を追うごとに変化していくような感覚に陥っている。
「この痛み程度なら何も問題は無い……シルフは知らないでしょうが、人間はこれ以上の痛みを伴わせて来る……」
「――!? お、お止めなさい! 人間への憎悪を膨らませては、闇を呼ぶことになります!!」
「闇? いいえ、闇じゃなくてもシルフの風を止められますよ……」
「ど、どうするつもりが――」
酷かったのはイゴルたちだけじゃない。
未だにのうのうと暮らし、俺を目の敵としているロランナ村のギルドが残っている。
自らが撒いたことだが、ロランナ村は全て光に還す。
それに今さら人間が俺の味方をするはずが無いが、かと言って、闇に呑まれるわけにはいかない。
『我が声に目覚め、神聖を目覚めさせた光のエルフよ、我が声に応え、我が元に!』
今度こそ正式に召喚させる。
俺の声が届くのなら、彼女はここに現れてくれるはず。
「な、何を呼び出したというのですか!?」
「闇では無く、光の主……ですよ」
心が届けば間違いなく、真のルムデスが俺の元に来る。
『――あぁ、やっとわたくしをお呼び頂けたのですね。ライゼル様』
せ、成功した!
ルムデスの気持ちが俺に伝わって来る。
「ルムデス! 本当に君なんだね!」
「ええ、これが正しき召喚なのですね」
「そ、そういうわけだから、風のシルフに光を――」
「え? シルフに……ですか? それは出来ません……」
「へ? そ、そうじゃなくて、俺が君を召喚したのは、目の前の敵……というか妖精に向かってもらう為に……」
「ですから、わたくしの力は妖精には向けられません。え?」
あの冷酷さは消え失せ、慣れ親しんだルムデスなのはいいけれど、妖精に攻撃が出来ないとかそれはどういうことなんだ。
これじゃあせっかく成功しても、シルフを降すなんてことは敵わないんじゃ……




