58.召喚士と自我の目覚め 後編
「くそっ! 消えろ!!」
「いけませんことですね。そんな言葉で相手を威圧する男の子じゃなかったはずです。あなたの内に眠っていたのは、闇の力? それは誰かの力であって、あなたが強くなったわけじゃないです」
「何……? 俺が弱い……だと? 妖精ごとき虫に言われる筋合いは無い!!」
俺は俺だ!
アサレアも彼女も関係なく、俺だけの力で強くなった。
妖精どもを降さなくても相手になる奴はいない。
俺を小馬鹿にしたギルドの奴等も、今度こそ消滅させてやる。
「駄目ですよ? 召喚士の男の子は、そういう強さは求めていないのです。闇の中に置いて来たライゼルの強さを返してください!」
「黙れ、雑魚が! 禍つ闇より来たれ、俺に従いし――」
「呼ばせませんよ」
「ガッアッ……」
碧い衣を身に付けていた妖精の女は、その姿を突然崩し、自分の全身を液体に変えた。
そうかと思えば俺の動きを封じるつもりなのか、俺の手足と胴に水流を向けて水圧で動けなくして来た。
「――ちっ……水ごとき」
「……動くんですか? ライゼル……」
「うるせぇ! 俺の名を気安く呼ぶな!! たかが水だろうが! こんなもの、すぐに――」
いつもならこんなくだらない攻撃でやられていないはずなのに、もがけばもがくほど動けなくなっている。
「どうしました? 最強さんなのではなかったのです?」
「ほざくな、雑魚が!」
「……雑魚では無いです。ですけど、そう言われるのは嫌いなので、あなたはエンテの水で浄化することにしました。そのまま封じられたまま、あなたの闇は消えていくことになりますよ」
「く、くそ、くそがぁぁぁ!!」
「いけませんね、本当に……純粋な男の子だからこそ、力になりたいと思って姿を現したというのに……もういいです。召喚士ライゼルは闇の自我に目覚めてしまったようなので、全てを流してあげます」
俺は弱いまま、闇黒で得た力を全て失うのか?
これでは彼女に会えず、彼女の名前を思い出すことなく力が消え失せるだけではないのか。
妖精の女がトドメを刺すと言わんばかりに、水流の力を強めて来る。
闇黒で出会えた彼女――俺はもらった闇の強さを失いたくない。
『あっあああああああ!!』
「さぁ、エンテの清浄なる水はあなたをのみ込みますよ……それとも、諦めて言葉も失ったのです?」
「エンテ、ライゼルから離れな! 何か、ヤバい」
「……え? そんな力は感じませ――」
「いいからっ、気配を消せっ!!」
見えていた妖精が俺の前から見えなくなり、俺の四肢を封じていた水流も途端に消えていく。
どういうことか分からないが、この機に俺は、闇の力を解放してその名を叫ぶ。
『お、俺を……俺の闇の力を君に返す! だから、もう一度俺の前に姿を見せろ!! トルエノっ!!』
――トルエノ……? どこかで聞いた覚えのある名前だ。
制御の効かない闇の力で、俺は自我に目覚め自我に支配されていた。
だが、そんな状況でも思うような強さを得られず、目の前の妖精に成すすべが無かった。
思い出すことも無く、何をどうするべきか分からないまま敗北して死を選ぶのは屈辱。
それなら記憶に残された名を呼び、闇の力を返すしかないと思っていたらその名を口にしていた。
妖精どもは気配を潜め、音も風も途絶えている。
何かがここに来ようとしているのか、部屋を形成していた空間に歪みが生じ始めた。
『くくく、我の名を呼んだか? ライゼル・バリーチェ』
「トルエノ……悪魔のトルエノ――お前は、俺の……何だ?」
『……まずは貴様の力を貰う。そして、我の名と心を返してやろう。貴様の過去の呪縛も返してやる……』
やはり得られた力を奪われるか。
しかし名前と心を返されるとはどういうことなんだ?
アフルのことで自我を失っていたのは、過去の呪縛としてだったとでもいうのか。
そうして禍々しい黒い翼を広げた悪魔トルエノは、俺に近づき息を吹き込んで来た。
息を吹き込まれると同時に、力の大半をも奪われていく感覚が俺の全身を駆け巡る。
『我を召喚せしライゼル……我の名を今一度与え、キサマ自身の強さを解き放つ!』
以前にも聞いたことがある言葉だ。
俺はこの悪魔を知っている……彼女は小さな女の子の姿をしていて、彼女は俺と召喚の契りをした。
「トルエノ……?」
「我を思い出したか? ライゼル・バリーチェ」
思い出したと同時に、目の前に見えていた妖艶な悪魔は、小さな女の子の姿になっていた。
「ほ、本当に? あれ、でも俺……俺の力はこんなに無かったはずなのに」
妖精に向けていた溢れ出る闇の力は、どこかに消え失せていた。
しかし今すぐ何かを召喚出来るくらいの力が、俺の中で解き放たれたような感じがしている。
「くっくっく……貴様との契りを絶っただけのことだ」
「ち、契りを?」
「貴様の強さは、貴様の親から継いだ光によるものに過ぎん」
「それはもしかして、母さんの……」
「闇の力を使いこなすことの出来ない貴様は、受け継いだ強さの底を上げろ! 過去で呼び出した我よりも強くなり、過去では無い我と再び契りを求めれば、我は貴様の完全なしもべとなる」
トルエノを忘れていた――ではなく、アフルを滅してしまった彼女の存在は、俺に課せられた呪縛によるものだった。
「い、今のトルエノはどこにいるの?」
「くく、まずは召喚士として精霊を降すことだ。そうすれば、我は貴様の元へ現わす……貴様が知りたがっていることを全て明かしてやろう……」
「え、トルエノ!?」
俺自身を失わせていた闇の力は消え、トルエノもどこかにいなくなった。
代わりに感じている力は、光の強さと熱さだ。
この感じ方はルムデスの光に近いが、まさかルムデスが――




