57.召喚士と自我の目覚め 前編
「……おっ! どうやら戻って来たみたいだな」
「ふ、ふん。召喚士が召喚されるなんて、本当にそんなことになっていたなんて、馬鹿げてるし」
消えたアフル、そして偽のアサレアを最後に俺は意識を落としていた。
再びの目覚めを待っていた俺を上から覗き込んでいたのは、人間の姿をした人間ではない何かだった。
一人は僅かながら見覚えがある。
恐らく俺は、見覚えのある何かを既に降し、召喚の力としているのだろう。
だがもう片方の女、それも少女に似た何かは、不貞腐れたような顔で俺を見下している。
つまり俺の敵であり、今すぐ消すべき相手だと感じた。
「戻って来て早々だが、ライゼルに紹介してやりたい奴が――」
「その前に、レイムと決着をつけてもらうのが先だと思うけど?」
「まぁ、そうだけどよ。ライゼルの潜在的な力に変化が……うっ?」
あぁ、やはりそうか。
アサレアもそうだったように、少女に見えるコレは俺の敵だ。
まずはコレを消しておく必要がある。
体を起こし、召喚の言を唱えてすぐに消し去ってやる。
「マリムが許しても、レイムは許さないもん……今すぐ溶岩流で熔けちゃえ!!」
不思議なことに、痛みも何も一切感じなくなっている。
これは俺の元々の強さなのかあるいは力が開放されたことで、敵が繰り出すあらゆる攻撃そのものを無効としているのか、今は考える必要性を感じない。
「……今何かしているのか? 女」
「な、何……え、お前……マリムに助けを求めていた召喚士? 違う、違う!」
「お、おい。ライゼル、お前――」
「お前? 貴様らごときが俺をお前呼ばわり? 面倒だな、まとめて消してやる……」
俺の意識はアフルの最後の姿を見た後、何かに操られるように、制御の効かない奴と化していた。
『闇黒より眠りし悪の女王、冥界に君臨せし漆黒の翼を広げ、唱えの言を聞き、見えるる炎に覆い尽くせ!』
「よ、止せ!! 妖精を滅せば、召喚は出来なくなるぞ」
「知ったことか、雑魚め……」
これが俺の本来の力だったのかと思うほどに、内の底から闇の力が溢れ出て来ている。
目の前の妖精らしき何かは、必死に乞う姿を見せているがこうなった以上、炎ごと消してしまうのが正しいだろう、そう思った。
「消えろ!!」
迷う事など無く、闇黒から流れ出ている力を、目に見えている妖精に浴びせた。
『あぁ、危ない。危ない男の子になったんですね。駄目ですよ? 光を求めていながら、闇に呑み込まれて戻って来たなんて、エンテは許したくないです』
誰だ?
生意気な炎を繰り出す妖精を、この手で消した手ごたえを感じていたが、炎は無く一面に広がるのは水たまりだ。
「――ったく、遅いぜ、エンテ!」
「遅いのではないです! 時機を見計らって待っていただけなんです。降されたマリムがやるべきことなのに、見ているだけだなんてそれでも地神なのです?」
「い、いや……それはだな」
「とにかく、召喚士として覚醒したのはいいことですが、闇に呑まれそうなのは頂けません! 全て流して、男の子のあるべき姿に戻さないと悲しいことになりますです!」
「た、頼むぜ、エンテ」
誰か分からないが、俺の邪魔をする妖精は全て消す。
それが彼女の望みだ。
彼女……アサレア……違う、違う――彼女?
俺は――




