24.迷いの召喚士、小さな町を陥没させる?
ルムデスを泣かせてしまったとはいえ、彼女の献身的な想いは俺の心を確かに救った。
迷い出したら止まらない俺の気持ちは、あともう少しの所で晴れそうな気配を感じさせている。
このまま目の前で俺を見つめるルムデスの心を掴めば、何かが目覚めそうだ。
「ルムデスはアサレアのことをどう思っている?」
「……ライゼルの幼馴染の人間ですか? 何とも思っておりません」
「好きでも嫌いでもない……?」
「ええ、ですから害を加えるつもりもありませんし、何かをすることも無いです」
「彼女がキミに歩み寄って来たらどうする?」
「近寄らせないだけです」
「そ、そうか。危害を加えないのならいいんだ。いいんだけど、俺の味方をしてくれた彼女でもあるから、優しく接して欲しい」
これ以上は何も言えなかった。
エルフは元々、人間はもとより、違う種族とは相容れないと聞いていた。
それだけに、無理やりその人間の考えを押し付けては行けないのかもしれない。
「ギルドとはどのようなお店なのでしょうか?」
「あ、あぁ、そうだった。冒険をする人間の支援をしたり、力の使い方を示してくれる……と言ったら分かりやすいかな?」
まぁ俺の場合は、スキルが低すぎるのと、上級召喚士連中の邪魔者扱いをされて所属出来なかったけど。
「ギルドに対しての嫌悪感、喪失感をライゼルから感じます……それでもギルドに行きたいのですか?」
「――ん、でもそれはロランナ村だけの話なわけだし……」
「本当にそう思われますか?」
本当にルムデスは何を言っているのだろうか。
確かに俺は、見知らぬ村や町にたどり着いては、ギルドを探すことから始めていた。
でもそれは俺の中でのくすぶり、心残りがあったからこその行動じゃないのか。
「トルエノ……あの悪魔の言葉を使いたくありませんが、ここの所のライゼルは、迷いながら先を目指している様に感じます。力だけならすでに、悔しい思いを抱えさせた人間を消すことが出来るはずです。それが迷いを生じていることで、ライゼル自ら力を封じている様に思えます」
迷いの召喚士……そういうことか。
トルエノと二つ目の契約をしたのに、強さを感じることが無かったのは迷い始めてしまったからだった。
「俺はどうすればいい?」
「ライゼルが強くなることは、召喚されたわたくしたち、獣の望みでもあるのです。主が望まれるのであれば、わたくしは後押しをして差し上げることだけです」
闇の力よりも、心の中に飼っていた闇を見逃さない所は、さすがは神聖のエルフといったところだろう。
「お願いするよ、ルムデス」
「……目を閉じ、わたくしの唱えに続いて復唱を」
「う、うん」
「唱えの言葉に迷いが生じれば、あなたはおろか、この地にどういったことが起きるかは想像に難くありません」
「わ、分かった」
まさか町が滅びるとかじゃないよな。
「「神なき光、光になりし心に問う! 惑いと迷い……願う者が示す道、其れを証として示せ!」」
迷いの心があったのは確かで、残るイゴルを消すことが出来ればいいだけだと思っていた。
しかしルムデスの言う通り、それだけでは収まらない気持ちが俺の中にはあった。
「主ライゼル。その目を開き、疑うことなく現実のものとして受け止めてください……」
『あ……あぁぁぁぁぁ……そ、そんな!』
今の今まで歩いていたイックスの町は全て地面に飲み込まれ、全てが陥没していた。
俺の心に迷いが生じていた結果がこんなことになるなんて、みんなは無事なのだろうか。
「あなたは闇に呑まれかかっていた。悪魔が何をし、何を言ったかは知り得ませんが、目の前に映っている光景があなたの迷いでもあったのです」
「そ、そんな……そ、それよりも生存していそうな人たちを探さないと!」
「無駄ですよ……」
「――え」
「光の断罪……これに呑まれた町、そこにいた全てのモノはそこから抜け出せません」
「くっ、くそおおおおおお!」
「……ライゼル。迷いを捨て、あなたに向かう悪しき存在、悪しきを助ける存在に惑わされることなく進むと誓いますか?」
「ち、誓う! 俺は迷わない!」
俺のせいで無関係な人間たちと、町を失ってしまった。
みんなは助かっているのだろうか。
「召喚士ライゼル。一つを二つに……わたくしの右手と左手、二つをあなたの手でクロスさせ、繋いでください」
「あ、あぁ」
差し出した手と手はまるで十字架のようにクロスした形になっている。
何かの儀式かのごとく彼女の全身が眩い光に覆われると同時に、俺も光の中に覆われてしまった。
「あなたの望みは我が望み……聖なる光に誓いて、これを捧ぐ……」
あっと言う間の出来事だった。
陥没で姿を消した町は、まるで沈んでいなかったかのような様相を呈していた。
「な、何だこれ……陥没したんじゃ?」
「ええ、確かにしました。ですけれど、わたくしは悪魔と違い……本来は神に使える身。主の望みと誓いを果たし、再生を施したに過ぎません」
リジェネレーション? あれ、これって確か俺の永久スキルに付与されていたような。
「そういうことです。あなたには再生を望む心があるのです」
「こ、心を読んだ?」
「ええ、二つの契りを果たしましたので。悪魔に出来て、わたくしに出来ないはずがありません」
「そ、そうか……俺はてっきり闇を支配して、世界全ての町も人間も滅ぼすことになるかとばかり……」
「確かにライゼルは闇属性が強いです。ですが、わたくしとも契りを果たした。闇に呑まれる心配は無いのです」
「はぁ~~……よ、よかった」
トルエノを一番近くに感じていただけに、このまま闇支配の王にでもなるかと思っていた。
闇と光、どちらも支配して世界を支配することが出来れば、その時は自分も変われるのだろうか。
「あ、あの……ライゼル」
「どうかした?」
「わ、わたくしも主様の施しを頂きたいのですが……」
「うん? 施し……?」
何やら体をクネクネさせながら、ルムデスは俺からの何かを待っている。
「悪魔にしたことをわたくしにもして欲しい……のです」
「あー……み、見ていたの?」
「二つの契りはわたくしたち獣の知るところなのです。ですから――」
「じゃ、じゃあ……えーと」
何故かルムデスは長身の体を屈めて、目を閉じて待っているようだ。
これはもしかしなくてもそういうことらしい。
「はわっ!? そ、そうではなく……み、耳は確かに強くありませんが……あの」
「わ、分かったよ……そ、それじゃあ」
「――流れ込んで来ます……主様の心の温かさがわたくしの中に……」
トルエノにされたことを真似るように、ソレをジッと待つルムデスに向かって施しをした。
同じ人間であり、幼馴染のアサレアとですらしたことのなかったキスという行為。
それを獣である彼女たちにしているのは、どうしてなのか。
これも召喚する者とされる者で交わされている運命とでも言うべきものなのだろうか。
俺からされたルムデスは顔を赤くしたまま、何度も口に自分の指を触れているのが何とも言えない。
『くくっ、光の”味”を味わったか?』
「ひっ!? ト、トルエノ……いつからそこに?」
「エルフが言ったはずだ。二つの契りは知る所と」
どうやらこれで、光と闇を従えたことになったらしい。
さらにはムルヴという神鳥を加えたことで、俺も彼女たちも力を上げたということになる。
「……残すはイビル母さんか」
「くくく、妖精を懐柔する必要は無い。すでにキサマはそれすらも得ているのだからな」
お読みいただきありがとうございます。




