19.下級召喚士、悪魔の女王に連れ去られる
上級召喚士であったルジェクを打ち消した俺と、アサレアを含めた彼女たちはル・バランを離れた後、そこから遠くない街道沿いにあった、イックスという小さな町にたどり着いた。
俺が召喚した彼女たちはトルエノを筆頭に、人間が何故一緒に付いて来るのかとずっと反対し、拒んでいたものの、俺のせいで村から出る羽目になったということを説明したことで、とりあえず納得をしてくれた。
アサレア自身も、最初から俺と同行するつもりでルジェク一行に嫌々ながらついて来たらしく、一人だけ帰すのは危険だと判断して、付いて来てもらうことになった。
宿に着くと、トルエノやルムデスたちは羽根を伸ばしたいとかでどこかに出て行ったこともあり、残された俺は、アサレアと散歩をしながら話をすることにした。
「ねえ、ライゼル。これから先も歩いて進むの?」
「それしかないからそうなる」
「召喚士なら、魔法か何かで楽な移動方法とかあるんじゃないの?」
「出来るはずないだろ。ルジェクたちはどうやって来たんだよ?」
「馬とか馬車に決まってるじゃない! 呆れた……あんな一瞬で人を消したり出来るのに、歩きだけで世界を歩こうとしているだなんて、どうかしてる! あり得ない!」
近くの村や町なら歩いて行くのも悪くないと思っていただけに、アサレアの言葉はもっともだった。
俺の両親の行方はもちろん、これから先に進む上で情報を聞き出す為には、足になる馬車も必要なのかもしれない。
オリアンを消した後に追いかけて来たギルド連中やルジェクは、歩いていただけの俺たちに追い付いて来るのが早かっただけに、残りの上級召喚士であるイゴルが追い付いて来るのも、時間の問題だ。
「その辺は何とか考える。でも、アサレアが来ることは予想していなかったわけだし、お前も何か考えがあるんだよな?」
本当は人間のアサレアも召喚しようと思っていただけに、強くは言えない。
「うー……何か、ライゼルが偉そうになった気がする」
「何でだよ?」
「あの上級召喚士を倒した辺りから口調も変わったし、男らしくなったというか弱さを感じなくなった気がする……」
口調の変化というほど変わったつもりは無く、村にいた時はスキルも弱ければ力も弱かっただけに、どうしても強気になれなかったことが関係している。
アサレアの言う通りルジェクを消した直後から、俺の中にくすぶっていた弱い自分を、いい加減無くしたいと思うようになっていた。
だからといって、トルエノに対しても強気な態度を取れるわけじゃないので、それも強さに関係があるとしたら、態度による強さは自分自身の成長次第なのかもしれない。
「ねえねえ、今もワームばっかり呼ぶんでしょ?」
「す、少しは強い獣も呼べるようになった。合成で薬でも作ってくれるとか?」
「何でもいいよ。ライゼルの召喚が失敗で弱い獣ばかりだとしても、わたしが何とかするし! だからライゼルは召喚スキルを磨いて、旅を楽にしてよね!」
「……召喚のスキルは俺には無いけどな」
トルエノの言っていたことが本当なら、俺が召喚士として生きることを選んだ時から、召喚の為のスキルなんか無くても獣を呼ぶことが出来たってことになる。
「ん~! いい天気だよね。あんなに雷が落ちまくっていたのに、今は青い空しか見えないんだもん」
「青い空……空に向かって召喚すれば、俺も飛べるのかな」
「さすがにそれは無いんじゃない? 空に手を掲げてみるだけでも試してみたら?」
「……やってみる」
以前、意識がぼんやりしたまま間違って、空に手を上げたことがあった。
偶然だったのか、それがきっかけでトルエノを呼び出せたけど、今みたいに意識がハッキリした状態で召喚をしても、何かが呼べるとは考えにくい。
「――えーと、天に請う。求めるは、空の羽ばたき。力無き我に閃きを与えよ――」
「へー……それが唱えの言? それで何が来るの?」
「さ、さぁ……」
「決まってないの!? 危険な竜とか来たらどうするの? イックスみたいな小さい町なんかすぐに壊滅して、無関係の人を追い出してしまうんじゃないの? 取り消して! 早く!」
「む、無理……言を唱えたら何かが起きるか、起きないと分かるまでは消すことなんて出来ない」
「な、何か危ないのが来たらライゼルが何とかして!」
村にいた時からこんなに口うるさかっただろうかと思うくらいに、アサレアがうるさい。
しかし現実問題として、一度でも言を唱えたら何かを呼んだことになるので、様子を見守るしかない。
『フフフ……ライゼルの望み、我が叶えて差し上げますわ』
「へっ?」
「ちょ、ちょっと!? だ、誰? と、飛んでる!?」
しばらくして何も起きないと思っていると、俺とアサレアが見上げる空に、見慣れない黒翼をバサバサと羽ばたかせた女性が目の前で飛んでいた。
『さぁ、我が主様……しっかり掴まってくださいませ……フフッ』
「わわっ!?」
その場から逃げる間もなく、黒翼の彼女に抱えられながら空に向かって連れて行かれてしまった。
「ライゼル!? え、ちょっと!」
「アサレア、多分大丈夫だから! 宿で休んでていいから」
「もしかしてそれが召喚の? せ、成功したんだ……あは、はは……」
前に一度だけ姿を見たことがある彼女だとすれば、俺を抱えているのは間違いなく悪魔の女王に違いない。
「ト、トルエノ?」
「フフッ、我を望まれたことを嬉しく思いますわ」
「ど、どこへ行くの?」
「主様の望むまま、飛び続けて差し上げますわ」
「え、えーと……飛べるのは分かったから、どこかに降りて欲しいなぁ……」
「高い所が苦手でしたのかしら?」
「は、はい……」
「分かりましたわ、それでは誰の邪魔も入らない所へ……くく……」
「た、頼むよ」
小さな女の子の姿のままで慣れ過ぎていたのもあるけど、まさかこんな品性のある大人の女性がトルエノだなんて、こうして抱えられていてもにわかに信じられないでいる。
それにしても空を飛んでいるだけで、今まで歩いて来た場所にあっさりと戻って来られるなんて思わなかった。
トルエノの力があれば、これからの移動も楽になりそうな気がする。
「……ライゼル様。では、こうして真の姿をお見せした記念に、あそこに見える村を滅して差し上げますわ」
「はっ? ちょ、ちょっと待って!? あの村ってまさか……」
「あの村の人間を滅せば、全てが終わるのでしょう?」
「い、いや、それはその……だ、だけど村の人が全部悪いわけじゃなくて、だ、だから……俺の手で必ず――」
ロランナ村を空から見るとは思わなかった。
それはともかく、トルエノの言葉は本気なのだろうか。本気だとしても、村ごと滅されてしまうわけにはいかない。
「……村の近くに降りますわ。そこでもう一度、我と契りをお結びくださいませ……くっくっく……」
「もう一度? そ、それならするよ。だから、落ち着いて」
俺はロランナ村で最弱と呼ばれながら育った。
だからと言って、村の人間が悪いわけじゃない……悪いとすれば、それは俺のことを追い出したイゴルと、ギルドだけだ。
ここは冷静になって、トルエノの言うことを聞いてあげないと村が消失しまいかねない。
「落ち着いて。トルエノの言うことを聞くから」
「フフフ……」
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