167.最強召喚と雷の女王
雷の獣に喰われたトルエノは、自らを差し出したかに見えた。
しかし獣の力を体内に閉じ込め、力だけを上手く利用している。
元々トルエノは雷の女王と称し、初めて出会った時も雷で存在を示していた。
今回、俺との戦いで限界まで体内に取り込んだ、というのが正しいか。
『このまま空中がいいか、ライゼル?』
『出会ったときと同様に、地上がいいな』
『……くくく、いいだろう。貴様の家があった辺りで着けてやろう』
俺としても風の精霊の力を借りたまま戦うのは、負担が大きい。
全力の召喚をするには、地上に降りて確実な召喚獣を呼ぶべきだと思った。
「俺の家を知っているということは、過去に呼び出した頃のことも覚えているんだな?」
「……ふ。貴様というより、貴様の父親への柵のせいだ」
「また親父のことか」
「あの辺り、他の家と離れている場所が貴様の家だったはずだ。そうだろう?」
「あぁ、そうだ」
詳しくは分からないが、俺が召喚士を目指した時の初めての召喚獣が、悪魔トルエノだった。
父親との関わりがあったとはいえ、初めからトルエノとはそういう運命だったのだろう。
家はすでになく、あったらしき場所に着いた。
トルエノとの距離はさほど離れず、声を張らずとも届く。
「くくく……ライゼル。貴様の最強の召喚を我に見せてみろ! 無駄な動きと防ぎなど無用ぞ。我は避けるもせぬ、足掻きもせぬぞ! さぁ、呼べ!!」
「……分かった。お前の雷獣ごと全て喰い尽くしても文句は言うなよ?」
「ふん。言うようになったものだな、ライゼル」
トルエノとの攻撃で、剣を振り上げるとか拳でどうこうしようだとか、確かに無意味だ。
相当な自信があるか、もしくは……。
『我、四精霊を統べる者……偉大なる統べの神、現前たる災いに力を示せ、精霊神ヴィシュヌ!』
狭い洞窟の中や、限られた場所で顕現させたヴィシュヌ。
今回は制限など無い広大な所での召喚だ。
四精霊はすでに俺の中にあり、精霊神を出すことで消耗する要素は無い。
これならトルエノであろうと……。
「――ふん、どんな攻撃か見てやるとするか」
トルエノは動こうとせず、ヴィシュヌから発される凍てつきの風と眩い光。
そして激しい轟音による地割れにより、彼女が立つ辺りは立っていられない。
震動が起きると同時に、耐えられない地面からは亀裂が入り始めた。
「ほぅ……? それが貴様の最強召喚か」
「……そのまま亀裂に呑み込まれてしまうと、修復はされない。それでも何もしないつもりか?」
「くだらないことだな、ライゼル」
トルエノ自身は、その場から身動き一つしていない。
確かな形で、亀裂の出来た穴から落ちて行くように見えるが……。
「いくらトルエノでも、地中に落ちてしまえば――」
「我が精霊神ごとき見掛け倒しの手ぬるい攻撃で、素直にやられるとでも思ったか?」
「――!」
「くく、精霊神で最強を騙るとは、我も優しくされたものだな」
亀裂から地中、地下底に落ちて行ったトルエノだったが、
「ライゼル。貴様は何一つ変わっていない……」
精霊神の帰還を前に、地底から突き刺すような雷がヴィシュヌに当たっていた。
それだけでは致命的なダメージにはならないはずだったが……、
『精霊の神を名乗りし紛いものよ……闇に呑まれ、我と我が身を苛みの糧としてみよ!』
『……な、あ――!?』
四精霊の属性だけではない力のあるヴィシュヌだったが、底から放たれた強大な闇の槍のようなものに引っ張られてしまい、動きそのものから精彩を欠き始めている。
精霊神ヴィシュヌは、俺の意思よりも自らの意思で動く神だ。
そこを突かれたことで、俺の帰還の言が届かずにいる。
『――ふん、精霊ごとき神が、我に勝とうとしたつもりがあったか』
底に落ちたはずのトルエノが姿を見せ、ヴィシュヌは地底の闇に囚われたのか、俺から姿が見えなくなった。
帰還をさせてないまま、闇に呑まれてしまったのか。
「トルエノ……何をした?」
「知れたこと。貴様が我を侮ったまで。動かずとも精霊ごときで、どうなるものでもない」
「……侮ってなど――」
「精霊神が最強? 我は嘘をつく貴様に失望しかけている。我の半身が気付いていたはずだ! さぁ、我を滅することの出来る貴様の最終召喚を見せろ! それすら無いのであれば、今度こそ”次”は与えぬぞ」
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