166.冥闇への光と選ばれし者 後編
悪魔の女王トルエノがこの手段に出るとは。
俺は一瞬、自分の目を疑った。
あろうことか、あのトルエノが雑魚悪魔の力を浴びて、自分の力としたことだ。
そして今、雷獣なる化け物に喰らわれようとしている。
『くくく、我が意外か? ライゼル』
その言葉を放った直後、トルエノは雷の獣にその身を喰われた。
彼女の姿はそこで消え、懐かしの彼女ではなくなる……そう思っていたがそうじゃないようだ。
『ハァァァァ……! くく、ライゼル。貴様を喰らうには我程度だけでは足りぬ。意外と思ったか? 貴様が考えるより、我は貴様から奪った力をすぐに失くしてしまったのだ。慣れぬことに力を費やした……それだけのことだ』
トルエノが慣れないことに費やした力が何なのか、それは彼女を倒してから聞くことにする。
見た目こそ変化は無さそうだが、雷獣を喰らったことで彼女の全身からは、逃がす場所のない雷が放電しまくり、辺り一面の光景と雑魚悪魔を全て焼き尽くした。
雷をまともに喰らったところで、俺はどうもならないが気を緩めるつもりはない。
様子見などしないで、すぐに戦いたがっている彼女に召喚をぶつけるか、あるいは――
『ふん、死にぞこないのエルフが邪魔をするか』
俺が動こうとしたその時、気配を感じさせないダークエルフの男だけが姿を見せた。
ユーベルの姿が見えないが、崖に落ちて行ったのだろうか。
いや、考えればユエという男が、ユーベルを助けるために一緒に落ちて行ったはず。
そう考えれば、彼女はどこかにいるのだろう。
ユエという男の体は所々に傷があり、どうやら助ける時に手傷を負ったものと見える。
『雷の悪魔……オレが消す』
『……くくく』
割って入られたという意味では、戦いに水を差された形になったが、勝負は一瞬でついた。
恐らくユエは、雷の獣を喰らった直後を狙っての奇襲だったのだろうが……。
ダークエルフの強さは、俺の精霊たちが警戒するほどの力だった。
だが今のトルエノに勝てるほどの強さではない。
雷の鎧をまとったトルエノに近づくこともままならず、ユエという男は衝撃によって全身を強く弾かれていた。
トルエノ自身は動きを一切見せていないにもかかわらず、ダークエルフの男は彼女に近づくことさえ叶わなかったようだ。
『くくく、我に敵う者などいない。くく、いるとすれば……』
もはや俺だけしか気にしていないらしい。
ダークエルフの男は、全身に火傷と麻痺を伴って、そのまま地上に落ちて行く。
俺もトルエノも化け物と化してしまった。
『もう……終わらせよう、トルエノ』
『我に喰らわれるがいい! そうすれば、貴様は我の中で――』