165.冥闇への光と選ばれし者 前編
『我、冥闇のキュリテ……天と地、大気に眠る焦熱を以って、我が支配に抗いせし存在を滅せ!』
俺の前に姿を見せたトルエノは、初めて出会った時と同じ小さな悪魔の姿をさらけ出した。
懐かしむでもなく嬉しさを表すでもない妙な感情が、俺と彼女で渦巻く。
最強の力を得た俺を果ての地にまで追いやり、全てを失わせた理由と意味を知らせてもらう。
そうすることで、もしかすれば再び仲間として共に過ごすことが出来るのではないのか。
そんな気持ちを少しでも見せた俺に対し、トルエノが出した答えは破滅への唱えだった。
『――っ! 雷と闇の柱に当たれば冥界行きか』
どうやらさっき交わした言葉が、戦いへの口火を開く合図だったようだ。
俺に敵意を向けた彼女は黒翼を広げると同時に、闇黒から異形のモノたちを呼び出し、俺を目がけて放った。
だがそのほとんどは、精霊の加護によってはじかれ、悪魔の羽根もろとも散り散りに消えていく。
俺の全身には精霊の他に、闇と光の守りが存在している。
低級の悪魔は一瞬で塵となり、上級かつ女王の側近クラスだとしても、俺に近づくことは出来ない。
それを分かっていても、トルエノは闇黒と冥界の2つの闇勢力から次々と眷属なるモノを俺に向けて来る。
眷属やそれ以外の魔物を仕向けながら、隙を狙って再び俺を闇に取り込む算段だろう。
『我が眷属どもよ! 召喚士ライゼルなる人間の片腕を落とし、我に捧げるがいい!!』
トルエノ自身は動こうとせず、無限に呼び寄せた眷属に煽りの言葉を投げ放つ。
『ギャヤャ!! 人間、ウデ……オトス』
数百の群れを連ならせた餓鬼に似た悪魔は、灰と塵になることが分かっていながらも、俺に対して執拗に攻撃を仕掛けて来た。
悪魔たちは鞭に似たものを集団に持たせ、漆黒の空に向けて叩いて鳴らし続けている。
それをすることで何の効果があるのかは分からないが、自らの鼓舞あるいは女王であるトルエノに向けて何かの合図なのか、一斉に突っ込んで来ようとしているようだ。
「……何だ? 何を狙っている……」
変化は急激に訪れた。
無数の悪魔たちが鳴らし続けた鞭の音が、トルエノの雷鳴と共鳴を起こし、雷獣に似た獣をここに召喚する。
『くくく、我の元に下り、その身その魂ごと喰らうがいい!』
『――トルエノッ! やめろ!!』