14.下級召喚士、ぬくもりの森に魅了される
「はぁっ、はぁっ……はぁ~……」
「何故疲れている? 召喚するだけで息を切らせるとか、どこまで弱い奴なんだ」
「い、一応、スキルを使いますし、精神的に疲れるし……全く疲れないことは無いというか、ずっと立ってるので……」
「ちっ、素材になりそうな獣をまともに呼べないとは、召喚士として認められていないんじゃないのか?」
「そ、そうかもですね……」
「森の中ならしやすいとか、土が多い所が来やすいとか、そういうのがあるのか?」
「い、いやぁ、手と口が自由に動けば、どこでも召喚出来るはずなんですけど」
召喚場所選ばずとはよく言ったもので、村の中であろうと町の中だろうと、呼ぼうと思えば呼べるはず。
「くそ、あたしはとりあえずギルドに戻る。お前はここで待ってろ! あたしが戻るまでに体力を戻せ」
「は、はい。あの、名前を教えてくれないんですか?」
「……知ったらお前を殺すまで狙い続ける」
「へ? そ、それでもいいから名前だけでも……」
「……ユーベル。召喚士、そこら中に深い森が見えるが、迂闊に入るなよ? 迷っても助けない。それだけのことだ」
「わ、分かったよ、ユーベル」
「とっとと休め、人間」
旅の始まりで初めて立ち寄った城塞国ル・バラン。
冒険者ギルドでもあれば、入って話でも聞こうかくらいの気持ちだったのに、そこで出遭ってしまった闇エルフさんの命令に黙って従うしかなく、意味も無く召喚をし続けていた。
ルムデスが俺を見守ってくれていることを、しきりに闇エルフさんは気にしていたものの、召喚しまくりの俺に対して、途中で邪魔をするようなことはして来ないこともあってか、ルムデスが近くに来ることは無かった。
うーん……ルムデスを探して何とかしてもらうしかないのかな。トルエノは城に行ったままだし……。
ロランナ村の彼女のことを思いながら召喚をしていれば、人間だとしても呼べたんじゃないかと期待していたけど、結局呼ぶことは出来なかった。
トルエノを呼んだ時みたく、何かの条件みたいなものがあるとすれば、今はまだ呼べないということなのかもしれない。
「ライゼルちゃん、こっち~」
「えっ?」
俺のことをちゃん付けで呼ぶのはイビル母さんしかいない。
イビルと言えば、土に戻すとかでルムデスが外に連れ出していたはずなのに、声が聞こえるということは、回復したのだろうか。
「こっち、こっちよ~!」
「イビルだよね? ど、どこなの?」
イビルの声が聞こえて来るのは、明らかに深そうな森の中からだ。植物妖精の彼女にとって土も含めて、自然の中にいる方が落ち着くのかも。
「ライゼルちゃん、こっちに来てね。早くおいで~」
「わ、分かったよ」
「もっともっと進んでね、うふふっ!」
「ど、どこまで進めばいいの? どこにいるの?」
イビルの声だけをたよりに、どんどんと深い森の奥へ進んでいることに気付くはずもなく、ひたすら彼女を探し回った。
森の奥へ奥へと歩き続けると、そこに見えて来たのは何故か俺の家だった。
「……へ? あれ? ここは……俺の家? いや、まさか……」
「ライゼルちゃん、お家の中に入ってね」
「う、うん」
誘われるがままに家の中へ入ると、そこにはイビル母さんが座ってくつろいでいた。
「あらあら、どうしたの? ボーっとして。立っていないで、私の所においで」
「うん……」
「疲れたのね。さぁ、私が癒してあげるからね」
「……」
これはイビル? 違う、俺の母さんだ。母さんの温もりが、疲れ切った心と体を癒してくれている……
召喚の疲れはともかく、心も体もずっと休めていなかった気がする。
そんなこともあってか、イビルなのかそうでないのかを気にする余裕も無いまま、まるで大樹のような大きな存在に包まれるような感覚で、しばらく癒されていた。
「まぁまぁ! ライゼルちゃんはおねむなのね?」
「うーん……? はっ!? え? イビル? あれ……」
しばらく眠っていたらしく、目を覚ますとそこにいたのはイビル母さんで、毒を全く感じさせないような柔らかい笑顔を見せていた。
「ライゼルちゃんは人間なのだから、森に入り込んで来るのは危ないの。人間が自然を侵しに来る……それだけで、木々や妖精は敵意を剥き出しにするわ。ライゼルちゃんは私の主さんだから許されたけど、今度からは入っちゃ駄目! うふふ、ほら! あそこの人間みたくなってしまうの」
家の中から外を見ると、そこに見えたのは追手らしき連中だった。
「う? あ、あれは、ルジェク!?」
追って来るとは思っていたけど予想より早い。
ルジェク以外は、村のギルド連中とは明らかに違う装備をしていて、雇われの傭兵のようにも見える。
イビルが指した連中は、蔦にからまっていて、進むに進めないどころか、森から抜け出せないみたいだ。
「ライゼルちゃん、あの人間が憎い?」
「そ、それは……」
「うんうん、悲しい目に遭わされたのね。それじゃあ、イビル母さんは頑張っちゃう!」
「イ、イビル? な、何を――」
「私に任せて、ライゼルちゃんはトルエノちゃんの所に行ってあげてね!」
「え、でも……」
「ライゼルちゃん、はい!」
「は、はい」
両手を広げたイビル母さんに吸い込まれるように抱きしめられ、そのまま俺の意識は落ちてしまった。
『ピギーー!』
「な、何だ!? 植物の化け物? くそっ、ライゼルの奴! この近くにいやがるのは間違いないのに、足止めの召喚が使えるようになりやがったか」
「ルジェク様! 体に痺れが……」
「くそが! い、一度立て直す。森から出たら、この辺りを焼き尽くす! 早く行け!」
『……あらあら、そんなことは許しませんよ?』
「「う、うわあぁぁぁぁ!? お、俺たちの、腕が……」」
――しばらくして深い眠りから覚めると、そこにイビルの姿は無かった。
見渡す限りに見えていた深い森の姿も、最初から無かったような感じで、俺は地面の上で眠っていた。
「ライゼル、ご無事ですか?」
「ルムデス? あれ……何でここにいるの?」
「ずっとライゼルを遠くより見ておりました。ですが、地面に倒れたと思ったらしばらく起き上がらなかったので、心配で居ても立っても居られなくなったのです」
「そ、そうなんだ。イビルは一緒じゃないの?」
「彼女でしたら、土の中へ入ったきりしばらく姿を見せていません。植物妖精ですから、その内出て来ると思います」
あれはイビルの幻覚だった? それにしては癒されたような、そんな気がするくらい体が軽い。
「ところで、闇エルフさんとは何かの因縁でも?」
「……彼女は危険です。いえ、エルフは人間を利用することしか頭にありません。ギルドにいるのも、利用するためだけのはずです」
「もしかして結構厄介な相手だったり? ルムデスより強いとか……」
「わたくしは闇に負けません。悪魔であるトルエノ以外の闇相手に負けるはずもありません」
「そんなに危険なら、ル・バランを出て他の町を目指した方がいいよね?」
光のルムデスの力が相当すごいことは、身をもって体験した。
それだけに負けるはずが無いと思えるけど、トルエノとは違う戦いづらさがあるのかもしれない。
「町へ戻りませんか? トルエノが宿でお待ちですよ。宿で話をしてから町を出ましょう」
「イビルは?」
「……そのうち戻りますよ。彼女は彼女なりにライゼルを想っているのですから」
「そ、そっか。で、でも、実は追手が近くに来ててそれどころじゃないんだよ! だから急がないと――」
「追手というと、わたくしが消した連中のことですか?」
「そ、そうだけど、連中よりは強い相手なんだ」
「どんな相手だろうとわたくしだけでも問題はありませんが、ライゼル自身で何とかしたい……そうお思いですか?」
「そうしたい……そうしたいけど、まだ確実じゃないんだ」
召喚士だからじゃないけど、出来ればあの二人には完全召喚で目にモノを見せたい。
トルエノやルムデス、それにイビル母さんに守られてばかりじゃ駄目な気がする。
「……分かりました。ではわたくしは、ライゼルが手を下す相手には何もしないことをお約束致します」
「あ、ありがとう」
「――ですが……」
『ちっ、お前がどうして外世界に……』
召喚の続きをさせる為なのか、闇エルフのユーベルはきちんと戻って来てしまった。
ルムデスがいることに気付いた途端、彼女とルムデスとでただならぬ気配を漂わせ始めた。
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