128.ルオンガルドの守護獣
アサレアを抱えながら慎重に降りて来ると、ルオンガルドの町のあちこちで戦いの音が響き渡っていた。
ルムデスたちが応戦しているとすれば、すぐに救いに向かわなければ。
そう思いながら人のいない町通りに足を着けると、賢者レーキュリの唱えのような声が聞こえて来た。
通りに面した建物には複数の魔剣士が剣を構え、一斉に襲い掛かろうとしているように見える。
『礎は連環を尊び、守護なるモノを根底より信じ得る者……災いを転じ、この地に舞え! セーンムルヴ!』
セーンムルヴ……ムルヴといえば、俺が召喚することが出来た鳥幻獣の名前だ。
母さんだけでなく、ムルブも俺をバリーチェと呼んでいた気がする。
トルエノに全てを奪われた時点で、ムルブとの契約も断たれたとばかり思っていたが……。
『守護するモノよ、我がルオンガルドに降り、災いの魔を吹き飛ばせ!!』
レーキュリが言い放つと辺りの気流が大きく乱れ、光景を一変させた。
上空を流れる雲は瞬く間に黒く濁り、雷雲が次々と魔剣士たちの上に形作られている。
逃げ場の無い状況に追いやられている様に見えるが、魔剣士はその場から離れるどころか、手にする剣を空に向けて一斉に掲げ始めた。
あれはエンチャント……?
いくら賢者でも、魔剣の返しにやられてしまうのではないだろうか。
『――! その場から動くことがないように!』
『あ、は、はい……』
てっきり気付いていないとばかり思っていたのに、戦いながらも気付かれていたみたいだ。
少しして予想していた雷の柱が、魔剣士たちの行き場を失わせる。
それにもかかわらず、動かずに反撃に転じようと企んでいるのか、魔剣で雷を誘導しているようだ。
「……あれは召喚士! リオネさまへの手土産だ。喰らえ!」
魔剣に蓄積された雷をレーキュリに向けようとする魔剣士の一人が、俺に気付き、魔剣の矛先を俺に変えようとしている。
「うっ……!?」
『ライゼルっ!!』
レーキュリが叫んだ時だ。
猛烈な突風が吹き荒れ始め、魔剣を手にする魔剣士たちがバランスを崩しながらその場に踏み止まることが敵わず、次々と空に吹き飛ばされ出した。
『お、おのれ、雑魚が――リ……オネさまぁぁぁぁ……!?』
「な、何だ!?」
『久しいのだ。余はずっと待っていたのだ! 相変わらず危なっかしいバリーチェなのだ』
アサレアを両手に抱えている以上何も出来そうにない俺の元に、覚えのあるモフモフした大きな足が近づいて来た。
幻獣セーンムルヴ……彼女は俺のことを忘れてはいなかったらしい。
彼女はゆっくりと俺に近づき、アサレアを優しく撫でている。
そういえば一番アサレアに懐いていたような。
『気持ちの悪い人間は吹き飛ばしたのだ。バリーチェは余の耳に触れるのか?』
これはもしや、人の姿に戻って獣耳に触れさせてくれるという意味かな。
俺は迷わず頷いて見せたが、今はそれどころではない事態のようだ。
ムルヴと出会えただけでも良しとして、ルムデスたちの所に向かわなければ。
『ム……? バリーチェは変わったのだ。今は変な人間を吹き飛ばすのが先なのだな? ならば余は我慢するのだ! カルナは余が守るのだ』
『ありがとう、ムルヴ! 俺は行くよ』
『ここにいる限り、バリーチェはいつでも会えるのだ! 頑張れなのだ』
もしかして俺との契りから離れた後、ルオンガルドの守護獣にでもなったのだろうか。
「召喚士ライゼル。ムルヴをここに繋いだこと、ごめんなさい」
「あ、謝らなくても」
「……ふふっ、ルオンガルドに集っているのは、鳥たちばかりになっていますね」
「そう言われれば確かに。そ、それはそうと、ルムデスたちと戦っているのは……もしかして」
「ええ。リエンガンから脱して来た、生き残りの魔剣士です」
「――やはり!」
「ですが、あなたも知っての通り、彼女らは力を与えられた者たちです。単純な力のぶつかり合いであれば、負けることは無いでしょうね」
「それって、ノワール以外はってことですよね?」
「……死霊術師の子供は、事前にですが私の部屋で休ませています。少なくとも、あの子が戦いに巻き込まれる事はありません」
レーキュリが気にしているのは、一体どういうことなのだろう。
死霊術師のノワールだけを、部屋に隠すなんて。
闇の力を使うあの子が姿を見せていれば、何らかの危険が生じるという予感でもあるのだろうか。
「では、私は一足先に氷姫龍の助けとなって来ます。あなたは、神聖のエルフの傍へ向かってください」
「そ、そうします!」




