100.魔剣士の企み
ルムデスの気配に気付いていればこんなことには……そう思っても、今は黙って従うしかなさそうだ。
それというのも、リオネではなく壁際で殺気を放ち続けている女たちの足元には、それぞれが手にする剣が置かれていて、いつでも襲い掛かれる姿勢になっているのが目に見えるからだ。
「キャハッ! 心配しなくていーよ? 化け物じみた召喚士くんに襲い掛かったところで、雑魚な魔剣士には通用しないわけだし? それに君は女相手には本気を出せない」
今までの戦いを見られての見透かしということか。
「……それで、俺は何をすればいいんだ?」
「外に出て敵を消してもらう。ここには敵対する連中がよく来るんだよねぇ。まぁ、今回は裏切り者を消してもらうだけだからぁ。簡単だよ?」
「……裏切り者? 俺の力を抑えておいて、簡単?」
「君にとっては戦いやすい相手だしぃ、男だから遠慮なく消していいよ。まぁその前に、ここに来た連中の憂さ晴らしを受けてもらおうかな。そうすれば君も力を出すと思うしぃ?」
何を言っているんだと思いながら外に出てみると、意味をすぐに知ることとなった。
『出て来やがった! かかれ!!』
ギルドから外に出ると、取り囲んでいた冒険者の男たちが一斉に襲い掛かり、勢いのまま身動きを封じられることになった。
ギルドからの手配書を握りしめているところを見れば、リエンガンにいる連中ではないことが分かる。
「……ぐ、うぅっ……」
見るからに弱そうな連中が多勢で覆い被さって来ること自体思うはずも無く、俺はなす術がないまま取り押さえられていた。
「おらぁっ!!」
「兄貴の仇だ、くそ野郎が!」
「何が最強召喚士だ、逃げられるとでも思ってんのか? 弱い奴が隠れもせずに迷宮都市なんぞに逃げようが、所詮は限界があんだよ!」
「てめえのような召喚士のせいで、俺らのような召喚士も不遇を味わうことになるんだよ、ボケが!」
「最弱な野郎は役立たずで最弱のままでくたばっちまえ!!」
――などなど、複数の男たちによって、相当な痛みを感じる程の攻撃を受けている。
倒されたまま男たちを見上げると、見たことのあるような顔が見えた。
「ルジェク……!?」
「へっ、俺は兄貴じゃねえぞ、最弱!」
あぁ、そうか。
ルジェクにも兄弟がいるよな……この時点で、ロランナ村の連中もここに来ていることが分かった。
それはともかく、通常であれば精霊たちの守りによって物理的なダメージはもちろんのこと、魔法による攻撃を受けても、俺自身には全く痛みを伴うことは無くなっていたはずだった。
しかし魔剣士の企みにより、精霊の力は封じられ、召喚による守りの恩恵は受けられなくなっている。
ロランナ村で受けていた”最弱”扱いを、まさかリエンガンの地で受けることになるなんて、これは自分自身の油断によるものもあるが、知らずに罪を重ねて来たことの罰なのかもしれない。
冒険者連中からのダメージを受けてしばらく経った。
リオネから渡されていた木剣と盾には多少の防御力があったのか、重傷を負うところまでには至っていない。
「ハァハァハァッ! これだけ蹴られてしぶとい野郎だ……だが、あいつらに渡す条件だ。とどめはさせねえ」
「……生温いこと言ってんじゃねえよ! 兄貴の仇なんだぞ?」
「ギルドの平和、ロランナ村の為に……コイツはここで俺らが――」
『キャハハ、平和~? どうかな、それは』
地面に倒されたままで物理的攻撃を受ければ、自力で起き上がることが難しくなるのはロランナ村で学習済みなのだが、奴等のしていることを嘲笑いながら見ているであろう魔剣士たちは、何故何も言って来ないのか。
そう思っていたが、男たちの攻撃が止まったと同時に、辺りが静まり返っていることに気付く。
俺のダメージは蓄積されていて、僅かに目を開けることしか出来ない。
『おいおい、酷いな。リゼル、大丈夫か? いや、ライゼル……でいいんだったか? 待ってろ、すぐにかざしてやるぞ』
聞こえて来る声はクラヴォスのようで、何らかの回復魔法を俺にかけているような感じを受けている。
「う……んん……クラヴォス?」
「おう! すまなかったな。リオネに任せていたが、まさかこういう奴等だったとは知らなかったものでな」
「え、あれっ? 連中は……?」
俺への手が止まるまでは、多数の連中が俺を取り囲んでいた。
しかし起き上がって周りを見ると、クラヴォス以外、誰の姿も見えなくなっている。
「連中は監獄街区に連れて行った。奴等程度なら、お前の召喚で蹴散らせるんだろう?」
「か、監獄?」
「それはそれとしてだ。その剣と盾は、リオネからか?」
「そ、そうです……外したくても外せなくて、力が封じられていて……」
「ふむ、そうか。確かに弱体魔法がかけられているようだな。そうでもしないと、お前を倒すことなど出来ないとみたか。あいつらしいやり方だが……」
「弱体魔法……そ、そうですか」
クラヴォスも魔剣士のはずなのに、何故俺を助けてくれるのだろうか。
「ライゼル、木剣と盾を正面に構えろ。そのまま動かさずにいろよ?」
「えっ?」
『むんっ!!』
クラヴォスの言う通りに構えたまま動かずにいると、クラヴォスは木剣と盾に施されていた紋様に向けて、何らかの魔法をかけた剣でそれらを解呪したかのように、あっさりと手から外れて地面に落ちた。
「こ、これは……?」
「呪紋だ。俺の片腕にもあるが、リエンガンの魔剣士には各々で紋様が施されている。しかしライゼルが手にしていた剣と盾の紋様は、呪紋というやつだ。弱体というよりは、お前の力を吸収していたというのが正しいか」
「リエンガンの魔剣士……魔剣士の都市ですか!?」
「何だ、気付いていないままここに来たのか? ふっはははは! お前は噂に聞くほど、闇を持つ召喚士では無いようだな」
「す、すみません……」
「さて、と……力を取り戻したライゼル。お前は俺が正々堂々と戦い、倒してやろう。リオネの企みなど、知ったことではないからな!」
「そ、そんな……俺を助けてくれたのに、どうして戦わなければならないのですか!?」
俺を助けてくれたクラヴォスと、どうして戦うことになるのか。
「――それが魔剣士の生き方だからだ」
「俺は戦う意思はありません! 助けてくれたのに、そんなの――っ!?」
俺の言葉を遮り、クラヴォスは己の剣の切っ先を示すかのごとく、俺の顔をかすめるようにして突進して来た。
鼻先には、魔法剣の威力を物語るかのような焦げ臭さが残っている。
「力を戻した召喚士なら、戦うことだ。ここには大事な何かを取り返しに来たのではないのか?」
「――え」
「ロランナ村の合成士だったか? あの娘の命は、ライゼルにかかっている……そういうことだ」
「……く、うううう――」




