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1.最弱召喚士、前日より弱くなる


「な、何で……? 昨日よりもスキルが20も下がっている……!?」


 俺は召喚士ライゼル。と言っても、周りからは認められていない。


 召喚はよほど危険な精霊を呼ばない限りは、村の中でも召喚することを許されている。召喚をし続けることで、熟練度といったスキルがわずかながらに上がっていくからだ。


 そんなことが続いていると、仲間でもない連中からは自然と罵られるようになる。友達でも無く、それでいて基礎だけは一緒に学んだことのある三人だ。


 召喚士のスキル値は、ギルドに所属した時点で初期値の0に戻され、その後のスキル上げをこなすことで自然と上がっていく。


 スキル値は個人の能力や家系に関係しているので、初めから1000を越えている者も少なくない。


 イゴル、ルジェクの二人は特に初期値が高く、精霊を呼ぶことが出来る上級召喚士。ギルド所属で0にされても、すぐにスキルを上昇させていたことが何よりの証だった。


 それに比べ、どういうわけか召喚すればするほど俺は日に日に弱くなり、500まで上がっていたスキルは初期値に近づくくらいにまで下がっていった。


 当然ながら呼び出す獣も低級ばかりになるのが自然だ。

 

「おい、見ろよ! ライゼルの奴、野ウサギをわざわざ呼び出してるぜ? それも昨日より低級! やはりスキル値がいつまでも低いままだけのことはあるな!」


「召喚してペットにでもするんじゃねえの。しかも呼び出したままで逃げられてやがるよ! あれじゃあ、どっちが召喚されているのかって話だぜ。ライゼルは時間の問題だな。とてもじゃねえが、俺らのような上級召喚士になれっこねえな。手本でも見せるか? オリアン」


「野ウサギじゃなくて、熊でも呼ぶとかか? ライゼルごときに面倒くせえな」


「低スキルすぎるライゼルにはこの俺、イゴル様が特別に見せてやってもいいんだぜ? こんな感じで自然風から風精霊を呼び出すだけ。楽勝だろ? ほら、やってみろよ! それが出来ねえと、俺らまでが恥ずかしい召喚士だと思われちまうだろうが! やれよ、グズなライゼルでもそれくらい出来んだろうが!」


「で、でも、俺はイゴルみたく精霊使いでもないし……」


「それなら、ルジェク! ライゼル様に雷でも落としてやったらどうだ? 雷に打たれて覚醒するかもしれねえぜ?」


「それも悪くねえが、村の中では禁じられているからな。俺にも慈悲くらいは与えろよ」 


 生まれ育ったロランナ村では、偉大な英雄を祖とする家系が大半を占める。

 

 そのせいか生まれ持って優秀なスキルを持つばかりだった。

 中でも魔法に長けた者、次いで前衛を務められる者が多くいた。


 そうした意味で外敵が村に近づくことは無く、遠くの城からわざわざギルドに依頼が来るほどの強者ばかりが、村に住み着いていた。


 俺と違って、上級召喚士として活動しているオリアン、イゴル、ルジェクの三人は確かに実力揃いだった。あいつらに言われても、どうすることも出来ない弱さなのは明らかだ。


 俺の両親は英雄などではなく、本人たち曰く父親の前世は闇を支配した神、母親は光を与える神だったとかを自称し、長きに渡って対立し世界を混乱させていたらしい。


 両親はその後転生を果たし、その時に生まれたのが俺だったようだ。

 その話を信じるとしたら、今の俺は何だということになる。


 両親の話は俺にとっても村にとっても、腫れ物扱いなだけに信じる者はいるはずもなかった。


『ライゼルは召喚する努力をすることだ。そうすれば必ず、最強となれる……』だとか、母に至っては『ライゼルを示す一が二に変わった時に片鱗を見せるわ』などと意味不明なことを言い残して、父は母と共に、居られなくなった村から姿を消した。


 両親がいなくなったことで、ようやく村唯一のギルドに入ることが許された俺だった――


「駄目だ駄目だ! こんな小さすぎるワームを呼び出したところで、何の役にもなりはしねえ! ギルドポイントに換わるはずも無い! ライゼル……お前には召喚士の見込みなんぞねえよ! 永久追放にしてやろう。せめてもの餞別としてだけどな!」


「そ、そんな……じゃあ、俺はどこで仲間を得れば?」


「そこまでは知らん。ギルドは慈善事業じゃねえからな! せめて精霊くらい呼び出すようでないと、パーティメンバーにすら入れてもらえないだろうよ。だがお前のスキルでは一生かかっても無理だろうがな! カエルの子はカエル、いや、闇と光の神だったか? がははははは!」


 ギルドに入っていたのに、村一番の最弱スキルでまともな獣も呼び出せない召喚士としてギルドからは煙たがられていた。

 それだけに、追い出されるのは早かった。


 ギルドから追い出されても村から追い出されたわけでは無かった。

 しかし村を仕切っているギルドから認められなかった俺は、村で召喚することを禁じられてしまった。


 外で召喚するしかないなんて、何でこんなことになるんだ。


 外に出ようとすると、合成士の娘が何かの包み袋を手にしながら追いかけて来た。


「はぁっ、はぁっ……待、待ちなさい! 村から逃げるつもり?」

「そ、そうじゃないけど……でも村で召喚することを禁じられたんだ。だから、村を出てすぐ外でするだけだよ」

「低級な獣じゃなくて、間違ってとんでもない獣を呼んでしまったらどう責任を取るの?」

「心配なんていらないよ。だって、呼べば呼ぶほどスキルが下がってしまうし……たとえいつもよりも強い獣を呼び出せたとしても、せいぜい牛か馬だと思うよ。心配してくれるの?」


 合成士を親に持つ彼女は戦うスキルを持たない。その代わり、調合といったことにかけては右に出る者はいない。

 いつも低級な獣を呼び出しては、合成してもらっていたくらいの付き合いでもある。


「心配なのは村。だけど誰かを泣かせることはしないで」

「だ、だから、すぐ傍で召喚するわけじゃないよ? もしかしたらってことになるかもだし、あぁ、でも上級者が何とかしてくれそうだけど……キミは村にいていいからね?」

「死なれても困る。代わりに、これを持って行って」

「それは……?」

「魔物が嫌がる臭いを袋に閉じ込めている。もし危ない目に遭いそうになったら、これを振り撒いて逃げていい。村から出来るだけ離れてから使って。そうじゃないと心配」


 俺が今まで召喚で呼び出して来た低級な獣と、ワームを合成して作り出したらしく、一見すると分からないままではあった。

 彼女が手にした袋からは何とも言えない空気の澱みが流れ出している気さえ感じられた。


「ありがとう、何にも起きないだろうけどスキル上げして来る!」

「ライゼル!」

「うん?」

「低級な獣のことはいつでもアサレア(わたし)の所で何とかしてあげるから!」


 彼女はいつも深々としたフードで顔を隠し、琥珀色の外套を身に纏っている。合成士は外に出ることが少ないだけに、そうした風貌になっていたに違いなかった。


 そんな彼女が持って来てくれた魔物除けの袋を使うことになってはいけないと思えた。


 村から出てすぐの外では、結界が張られているでもなく、交易のある町や城に続くあぜ道が延々と見えているだけの風景が広がっている。


 のどかな村を外から眺めながら、俺は召喚をし続けた。何度呼び出しても、野ウサギかワーム。

 もしくは何も呼ぶことすら出来ない時間も増えていた。


 あぁ、何でなんだ。普通なら同じことを繰り返していけば、スキルだって上がっていくはずなのに。


 どういうわけか、たとえ低級な獣ばかり呼び出していても低すぎるスキルは下がりようがないはずだった。今のスキルは5。今朝よりも下がっているなんて、どういうことなのか。


 全身は徐々に痛みを訴え、低級ですら呼べなくなって来ている。

 このままスキルが尽きてしまったらどうなるのだろうか。


 召喚はおろか、人間として必要な生命スキルも絶えてしまうのだろうかと思い浮かべ、限界までスキルを使ってみることにした。


『危なくなったら袋を振り撒いて』と、そんな彼女の言葉をふと思い出した。

 

 スキルの値が0となった時には生命スキルにも及び、身に危険が及ぶかもしれない……そう思って、全身に袋の臭いらしきモノを全て振り撒いていた。


 ぷわっ!? ぺっぺっ、な、何だこの臭い……。


 魔物除けの袋をよりによって全身に浴びた俺は、意識がぼんやりとしていたこともあって、両手を空に掲げながら召喚をしていた。


 召喚で呼び出されたモノはその場に現れることが多い。

 その手を空に向けていたせいなのか、晴れていた景色が一変して雷鳴が鳴り止まない一面となっていた。


「ううーん……」


「んっ? 声……?」


 激しい雷鳴が響くと同時に近くから聞こえて来たのは、明らかに人の声だった。

 

「お、女の子!? し、しかも羽根!? え……」

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