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 けたたましい鐘の音はいつのまにか止んでいた。

 私は最上部から螺旋状の通路を降り、一番近い扉から中へと。幸い鍵は掛かっていなかった。さっきは逃げるのに必死でひたすら上まで昇ってしまったが、ちゃんとここから中に入れるじゃないか。


 中は今までのフロアとは違い、妙に機械仕掛けな作りだった。まるでオルゴールの中に居るかのような感覚を覚える。無数のギヤが見て取れ、中央の一際存在感を放っている何かの装置の前には、大昔の電話のように一から九までの数字が並ぶパネルが。


 その装置には人が乗るようなスペースがあり、その足場から下を覗き見る事が出来た。どうやらこの塔は吹き抜けになっているようだ。下の方は暗くて良く分からないが、深い穴が開いている。どうやらこの装置で下へ降りれるようになっているらしい。要はエレベーターか……と考えていると、壁に微かに読める文字が刻まれていた。


「注意……地下……暗証番号……?」


 このエレベーターは地下へと続いているのか。そしてこれを動かす為には暗証番号が要ると。

 だが暗証番号云々の前に、この機械は動くのか? 電気か何か燃料的な物が無ければ稼働しない気がする。というか普通そうだろう。しかし地下か。私は別に地下などに用は無い。先程の妙な生き物の件もある。地下なんかに行けば、また妙なクリーチャーに襲われるかもしれない。


「……でもなんか気になる……」


 私はこの先に行くべきなのだろうか。これまで何度も思った。私は行かなければという謎の使命感に襲われ、ここまでやってきた。一体なんの目的なのかなど知らない。だが何としても、私は先へ進まねばならない。それが何処なのかすら分からないが。


「とりあえず……もう少し調べてみるか……」


 ゲームとかなら調べる箇所が光ってたりするんだが。

 私はとりあえず九桁の数字が並んだパネルのボタンを適当に押してみる。当然のように何も反応は無い。次にその装置の裏側へと周りこんでみる。こちらも特になにもない。ひたすら油の匂いと、ギヤがむき出しになっているだけ……


「油……?」


 そうだ、この塔は既に廃墟と化して何十年も経っている。機械にさした油など、とうに乾いている筈だ。私の鼻と頭が正常ならば、油の匂いがするという事は誰かがメンテしていたという事だ。もしかしたら燃料となる物も補填してあるかもしれない。電気ならば何処かにスイッチがある筈だ。しかしこの島に電気など来ているのだろうか。


「いやいや、発電所から供給されてるわけないし……」


 もし電気があるとすれば、地熱を利用しているとかその辺だろう。私はそのままそのフロアを探索し、何か無いかと探る。だが電源を入れるような物は見当たらない。弄れるのは数字のパネルのみだ。だが暗証番号など勿論知らない。


「暗証番号なんてどうやって調べれば……」


 まあ、暗証番号以前に機械が動かないと意味は無いのだが。

 しかし何も収穫が無い。せめて何か手がかりがあれば……。


「とりあえず……私の誕生日……」


 自分の誕生日を西暦から入れてみる。でもよく見るとゼロのボタンが無いじゃないか。駄目だ、私の誕生日は十月。当然のようにゼロが無ければ入力できない。まあ、私の誕生日が暗証番号なわけないんだが。


「じゃあ……兄貴の誕生日で……」


 物は試しに……以前の問題だが、兄の誕生日を西暦から入れてみる。

 

「……マジか」


 兄の誕生日を入力した瞬間、何故か動き出す機械。鈍いエンジン音が響き渡り、空気が振動しているのが分かる。何故兄の誕生日で突然動き出したのだろうか。ただの偶然か? 凄まじく運を使い切ってしまった気がする。


 だがエレベーター自体は動かない。試しに乗ってみるが、うんともすんとも言わない。まださらに何か入力しなければならないのだろうか。


「こうなったらヤケクソだ……兄貴の携帯の番号……」


 すると何処かで何か外れたような音が。なんだか分からないが反応した。引き続き兄に関する番号を次々と入力していく。兄が乗っていた車のナンバー、兄の嫁の誕生日、結婚記念日、そして……


 そして……命日


「…………」


 いつの間にか私は泣いていた。自分の手が震えているのも分かる。

 突然、本当に突然死んでしまった兄の事を思い出した。交通事故で兄が死んだあの日、全てがひっくり返った。兄の嫁は何度も自殺未遂を犯し、父も母も生きる気力がなくなり別人のようになってしまった。


 だがそれは私も同じだ。未だに私は兄は何処かで生きていて、いつかひょっこり帰ってくる。そんな事を考えながら、部屋に引きこもっている。兄が静かに眠る姿も見ているのに、綺麗過ぎてとても死んだなんて思えなくて……逃げるようにVRゲームにのめり込み、ある日あのゲームをネットで見つけて……


「……っ! そうだ……これは……ここは……」


 その瞬間、またあの鐘が鳴り響いた。その部屋で響くエンジン音が小さく感じる程に。島全体が警告を発するかのように、鐘を鳴らし続けている。そしてその鐘と共に、窓から見える外の風景は闇に覆われていく。


「そうだ、私……早く……終わらせないと……」


 エレベーターへと乗り込んだその時、そのフロアの扉をハンマーか何かで叩く音が。何かが扉を開けようとしている。それが何かなのか分からないが、恐らくアレだ。鐘が鳴ると共に出てきた……あの怪物だ。


「動いて……動いて……!」


 だが動かない。鉄製のフロアの扉は変形し、ついには破壊される。そしてそこに居たのは翼の生えた怪物では無く、血まみれの革袋を被せられた男。手には大きな金槌。体はガリガリで、まさに骨と皮のみ。所々出血していて、今も床に血を垂らしながら私に迫ってくる。


「やだ……やだっ! 動いて、動いて!」


 適当に、叩くようにパネルのボタンを押す。だが何も起きない。

 兄だ、兄に関する……まだ何かの数字を押さないとダメなんだ。なんだ、他に何がある。兄に関する数字……誕生日も結婚記念日も命日も押した。あと何がある。何を思い出せばいい。


 血まみれの男が近づいてくる。

 早く、早く……何か、何かないか。兄に関する数字を……何か思い出せ!


『兄貴、子供は何人欲しいとかあるの?』


『男の子と女の子、二人がいい。俺とお前みたいに中々いい兄妹になれる』


『いやぁ、絶対喧嘩ばっかりするって。かなりくだらない事で』


『あぁ……母さんの作ったホットケーキ取り合ったりしたな。それで結局俺が怒られて悔しい思いした』


『ごめんて。でもどんなに喧嘩しても、いつのまにか仲良くまた喋ってたよね』


『お前が寂しい寂しい泣いてたからな』


『泣いてないよ……』


『ごめんて。いつか俺だって居なくなるんだから……いつまでも……』



 そうだ……兄貴が好きだった数字……

別れても、まだ次があるって良く言ってた。

 でも、もう次なんて無いんだよ……兄貴……


もう、次なんて……もう……


 ふと目線を上げると、金槌の底が見えた。

 あぁ、私……“また”ゲームオーバーだ……


 また次……あぁ、これがゲームで良かった。まだ次があるんだから。

 次はもっと上手く……


「…………」


 覚悟を決め目を瞑る。でも一向に金槌は私の頭を打ちぬかなかった。恐る恐る目を開けてみると、自分の目の前に誰か立っている。赤色が見えたから、一瞬あの血まみれの男かと思ったけど、そいつじゃない。


「早く行け!」


 そこに立っていたのは騎士。全身甲冑に包まれ、その甲冑は錆びてボロボロになっている。赤いマントも酷く汚れていて、まるで亡霊のようだ。


 私は言われた通り、二番のボタンを押す。するとエレベーターは動きだし、下へとゆっくり動き出した。

 それから何度か金属同士が当たる音がして、私の乗るエレベーターはどんどん速度を上げ落ちていく。


 落ちている。どこまでも……どこまでも……




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