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散らかった部屋を出て、廊下らしき所へ。またしても暗くて狭い通路だ。一体この塔はどういう作りなんだろうか。
壁に触れながらゆっくり暗い廊下を進む。途中いくつか曲がり角があったけど、階段らしき物が見当たらないのでとりあえず真っすぐ進む。上の階に進むためには、塔の外周を走る螺旋状の通路を渡るしかないのだろう。そしてこの塔は三角錐。上に行けば行くほどフロアは狭くなっていく。曲がり角で階段の有無を確認して進めばいい。
その私の推理は正しかった。ある程度進んだ先に階段があり、目線をあげると光が漏れる扉のような物が見えた。
私は注意深く階段へと進み、ゆっくり上り始める。足音を立てぬようにしながら階段を上り切り、扉へと手をかけ開ける。すると再び外周を走る螺旋状の通路へと出る事が出来た。
そこからは、初めてこの島を見た時に見えたドーム状の建造物が見えた。この塔とは違い植物に浸食されておらず、まるで要塞のように全て鉄製で丸い建物。何か異様な雰囲気だ。何か途方もない不安……とでも言えばいいのだろうか。あそこには絶対に行きたくないと思ってしまう。
その建物を観察するように通路を進み、上のフロアへと。あのドーム型の建造物も気になるが、今は謎の足音が優先だ。友好的な人ならばいいのだが。もしそうでないのなら、一目散に逃げなければ。
フロアの扉を開け、中へ。そこは暗い階段。光に向かって階段を上るのは平気だったが、今度はその逆。闇に向かって階段を降りなければならない。
私は足元を確認しながら階段をゆっくり降り、そのフロアへと足を踏み入れる。
さて、先程下のフロアで足音を聞いたのはどのあたりだったか。自分の心臓の音が妙に大きく聞こえる。もしかしたらこの音で気づかれるかもしれない、そんな気さえしてしまう程、私は緊張しながら探索する。
すると何か物音が。食器を洗っているような音だ。私はその音に向かって歩き、一枚の扉へとたどり着いた。そっと扉へと耳を当て、中の様子を伺ってみる。相変わらず食器を洗っているような音と、時折人の足音。もしかして二人居るんだろうか。しかし会話のような声は聞こえてこない。
私は生唾を飲み込みながら、そっと扉を薄く開いてみる。そのまま中を覗き見ると、白い防護服のような姿の人間が二人見えた。一人は机に向かって立って、何やら実験でもしているのか、器具を弄り回している。そしてもう一人は、その手伝いをするかのように棚から薬品のような物を取り、相方へと手渡していた。二人共が顔を覆うようにガスマスクを着け、体全体を白い防護服に覆われている。
友好的かどうかなんてわからない。でも関わらない方がよさそうだ。
私はそのままそっと扉を閉めようとする。だが少し、扉が軋む音が。その音で二人の視線が私の方へと注がれた。
まずい、見つかった……!
二人は私に気付くと、同時に扉へ向かってくる。その異様な雰囲気の二人組から思わず逃げる私。もしかしたら逃げる事なんて無かったかもしれない。だが怖い。こんな廃墟で白い防護服、おまけにガスマスクまで付けている人間。怖くないという人の方が少ないだろう。
螺旋状の通路へと戻り、そのまま上へ上へと昇る。時折後ろを確認すると、白い二人組が早歩きで追いかけてくる。私は走っているのに、何故早歩きで追いつかれそうなのか。怖い、怖い、逃げないと。
ついに行き止まりの所まで登りきると、足が二重の意味で震えてしまう。あまりに高い場所。そして追いつかれてしまう、という恐怖で。
行き止まりになっている所には扉もあるけど、鍵が掛かっているようで開かない。先程血の塊が付いていた鍵を差し込んでみるも、鍵が違う。流石にそんな都合よくはない。どうしよう、もう来る。あの白い二人組がもうそこまで……!
その時、島全体へ響き渡る鐘の音が。その音で木々からは鳥が飛び断ち、共鳴するかのように島のあちこちから鐘の音が。
私はその音で一瞬呆けてしまい、気が付くともう白い二人組がそこまで来ていた。扉は開かない。ここは塔の最上部、飛び降りるわけにもいかない。つまり逃げ場など無い。いや、話せば分かってくれるかも……
だが追いかけてきた二人組の内の一人が、手に鉈のような物を持っていた。駄目だ、殺される。あれで頭を割られて……その時、一際大きな音が私の耳に届いた。
あのドーム型の建造物が稼働し、二つに割れて開いていく。それを見て驚いているのは私だけでは無かった。白い二人組も何やら騒ぎ出し、ドーム型の建造物を指さしている。私は釣られるように開いていく建造物に目線をやると、中から無数の鳥が。いや、鳥にしては大きい。人に翼が生えているような……
その生き物が私達の方に向かってくる。騒ぐ声からして白い二人組は両方とも男だ。男二人は慌てて塔の中へ逃げ込もうと引き返すが、謎の生き物に捕まってしまい、そのまま空へと攫われていく。
なんだ、あの生き物。子供くらいの小さな人間に翼が生えている。だが天使のように可愛くはない。悪魔と言った方が近いかもしれない。異様に大きな目、鋭い爪、そして黒い翼。二人の男達は空に攫われ、そのままあのドームへと運ばれてしまう。そして当然のように、私の方にも謎の生き物が近づいてきた。
「や、やだ……いや、開いて……開いて……!」
必死に扉の取っ手に手をかけて揺らすも、鍵が無ければ開かない。
私の肩を謎の生き物が掴んだ。物凄い力で握ってくる。
「いや、いやぁ! 離して!」
すると服のポケットから、先程拾った金色のメダルが落ちた。その瞬間、私の肩を掴んでいた生き物は逃げ出し、そのままドーム型の建造物へと帰っていく。
「な、なに?」
一体何が起きたのか。もしかしてこのメダルが怖かったのか?
良く分からないが助かった。
私はそのまま、とりあえず塔の中に入ろうと来た道を引き返した。
男達がどうなったのかなど……考えたくもない。




