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5.急展開

 レオン王子と俺のダンスは会場の注目を恐ろしいほどに集めていたらしく、ダンスが終わると多くの瞳がこちらを見つめていることに気がついた。


 そりゃあ、今日の舞踏会の主役が踊ったんだから注目されて当然なのだが……俺の踊りっぷりといえば、前半は男女ポジション逆転のヨタヨタなダンス、後半なんてもはや王子に引っかかって振り回されるボロ切れ状態だったので、さぞかし珍妙な光景だったであろう。

 今すぐどこか遠いところに逃走したい。


 ところが、レオン王子の元に駆け寄る愛らしい姿が目に入り、逃走準備を始めた足がぴたっと止まる。


「レオンお兄様のあんな姿、初めて見ましたわ」


 惜しげもなく光り輝く笑みを浮かべている、ジュリア王女である。

 あぁ、声まで鈴を転がすようで可愛らしい。こんな近くで王女を見ることができるんなんて、生きていて良かった!


「でも良かったのかしら? 最初は、メリー公爵令嬢と踊る予定ではなくて?」

「別に彼女と約束をしていた訳ではないからね」

「でもメリー公爵令嬢はそうは思っていないようでしてよ?」


 ジュリア王女がレオン王子に小声で告げ、思わしげに目線を送る。

 何気なくジュリア王女の目線の先を見ると、俺の事を呪い殺さんばかりに睨みつけるご令嬢がそこにいた。

 笑顔でも浮かべていれば周囲が見惚れてしまうほど美しいご令嬢なのだろうが、今の表情はさながら生霊である、とても怖い。


 レオン王子は軽く息を吐くと、くるりとこちらに向き直った。


「それではクリスティーナ嬢、ダンスのお相手ありがとうございました。またお会いしましょう」


 いえ、もう二度と会いたくないです。とは流石に言えないので、苦笑いで返す。


 レオン王子が鬼の形相のメリー公爵令嬢とやらの所に向かうと、ジュリア王女と俺の二人が残された。

 これは、ジュリア王女にダンスを申し込む絶好のチャンスではないだろうか!?

 ……あぁ、今の俺はドレス姿だった。


「私は、レオンの妹のジュリアと申します。失礼ですが、お名前を聞いてもよろしくて?」

「私は、クリス……クリスティーナ・ウェールズと申します、ジュリア王女殿下」


 夢じゃないだろうか、今俺は国一番の美少女と二人っきりで会話をしている!


「あぁ、ウェールズ伯爵のご令嬢でしたのね。

 クリスティーナ、とても面白い物を見せていただきました」

「稚拙なダンスで恥ずかしいばかりです」

「そんな可愛らしい見た目なのに突然レオンお兄様をリードし始めた時は驚きました」


 堪えきれないとばかりにクスクスと微笑まれるジュリア王女の方が1000倍可愛らしいと言いかけた所で、慌てて走り寄るウェールズ伯爵一家の姿が目に入る。

 そう言えば、発言するのを禁止されていたんだった……。


「レオンお兄様は、変に器用で何でもご自身で解決してしまう人なので、貴女のような人がお兄様の側に居てくれると私も嬉しいわ」


 俺は、むしろ王女殿下のお側に生涯寄り添いたいです。などと思っていると、父様が王女と俺の間になだれ込む。


「ジュリア王女殿下、娘が失礼を!」

「失礼なんてとんでもないわ、ウェールズ伯。素敵な娘さんを持って幸せね。それでは、失礼いたします」


 ポカーンとするウェールズ伯爵一家を残して、ジュリア王女は人混みの中に消えて行ってしまった。


 俺はジュリア王女との別れを惜しむ間もなく、父様と母様に問答無用で両腕を掴まれ壁際の長椅子まで連行された。

 そして、これ以上問題を起こさない様に舞踏会が終わるまで長椅子から立ち上がることを禁止され、誰かに声をかけられても、さっきのダンス中に足を捻ったと言って、それ以外は絶対にしゃべるなと強く強ーく言い聞かせられたのだった。


 その後、父様と母様は他の出席者への挨拶があるため人混みに紛れて行った。

 セシリア姉様は、何人かの男性に声をかけられ何度か踊っている様だ。


 かく言う俺は、端で小さくなって座っている様子を心配した心優しき殿方達から声を掛けられたりもしたのだが、お決まりの定型文を読み上げてお引き取りいただいた。

 レオン王子と違って、空気の読める殿方ばかりで助かる。


 アレクス王子、レオン王子、ジュリア王女は、舞踏会が始まってから優にニ時間、相手を入れ替えながらずっと踊り続けている。

 あぁ、俺もジュリア王女と踊りたかった。


 そんな事を考え、ジュリア王女の美しさを未練がましく目で追っていたら、どうやらさっき流れていた曲が最後であったらしく、二人の王子と王女が檀上の方へ移動して行った。

 やれやれ、もうすぐでこの動きにくいドレスを脱げそうだ。


 すると、おもむろに国王陛下が立ち上がり口を開けた。


「突然だが、ここで皆に伝えることがある。

 十三歳から十五歳までの御子息、御息女は全員、即刻エルンドール王国の旧宮殿であるビーネ宮に移動し、本日より一年間、ルーベンブルク王国、クロディア王国の貴族と一緒に勉学に励み、寝食を共に生活してもらう。これは、決定事項である」


 情報量が多すぎて全然頭に入ってこなかったけど、今からどこかに行く? ひょっとして俺は一年間、女装したままでいなければならないのだろうか!?

次回は、レオン王子視点になります。

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