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4.ダンス

 ジュリア王女に見惚れるあまり、無意識にふらふらと移動していたらしく、近くに家族の姿が見当たらない。どうやら、この窮地を一人で切り抜けるしかないらしい。


 レオン王子は美しい所作で俺に向けて真っ直ぐ手を伸ばし、俺がその手を取るのを待っている。

 しかし、その手を取ることはできない。


「申し訳ございません。誠に残念ながら、先日足首を捻ってしまい、今日はダンスを踊れないのです」


 何度も練習させられたセリフを告げる。

 なぜこの王子は、よりによって俺なんかをダンスに誘っているんだろうか。俺より美しいご令嬢は、そこらかしこにおわしますだろうが!

 ひょっとして、さっきの失言に対する報復なのだろうか。


「失礼ながら、足首を捻ったような足運びはされていなかったようにお見受けしますが? 先程の発言を気にして遠慮されているのでしょうか? 私にとって、とても嬉しいお言葉だったので、何も気になさらないでください」


 王子のくせに意外と目ざとい。しかし、その割に空気を読んではくれないらしい。遠回しに、お前とは踊りたくないと言っているのだけれども。

 取りあえず、余計な事は喋らず笑って誤魔化せば良いのだろうか。この人は俺の手に負えないよ、誰か助けて!


 心の中で懸命に助けを求めながらも、必死に笑みを作り全力で誤魔化してみる。


 その笑みをどう勘違いしたのか、何とレオン王子は強引に俺の手を取ってホールの中心に向かおうとする。

 発言することは禁止されていたが、このままダンスに持ち込まれても困るので、不可抗力で俺は声を上げた。


「お待ちください! じ、実は、いつも姉とダンスの練習をしていたもので、男性用のステップでしか踊れないのです」

「そうでしたか」

「はい! ですので……」


 レオン王子の動きが一瞬止まる。良かった、俺はやればできる子だった。


「それでは、私が淑女用のステップを踊りますので、ご安心ください」


 爽やか笑顔でとんでもないこと言い出したぞ、この野郎。


 もうなんと言っていいかわからず、レオン王子に引きずられるようにホールの中心に向かっていく。


 丁度、一曲目が終わり、自然とペアを作った紳士淑女達が二曲目に備えて待機し始める。


 レオン王子に引きずられていく最中、人目もはばからず目と口を大きく開いて驚いているウェールズ伯爵一家の面々が視界に入ったが、俺はレオン王子という自然災害に巻き込まれた被害者である。

 俺は断じて悪くない。


 曲の前奏が始まり、レオン王子がうやうやしくお辞儀をする。

 もうどうにでもなれ。


 やぶれかぶれで俺は腹を括った。

 背筋を伸ばし、相手をギリッと睨みつけながら手を差し出し迎え受ける。

 姉様の方が背が高いので、自分より背の高い相手と踊るのは慣れているが、レオン王子とはさらに身長差があるので、バランスを崩さないように王子の背中に手を回ししっかりと支える。自然とレオン王子の顔が近づく。


 男女逆のポジションに周りが気づいたらしく、ざわざわと声が聞こえる。

 レオン王子は、周りの雑音は微塵も気にしていない様子で、涼し気な笑顔を浮かべている。


 曲に合わせて足を踏み出す。

 慣れないドレスに何度か足を取られそうになる俺と違い、レオン王子は実にスマートに踊り、むしろ俺のフォローをやってのける程であった。

 これではどちらがリードしているのか分かったもんじゃない。


 ヨレヨレだが、それでも何とか曲の半分を過ぎた所で、ついにドレスの裾を派手に踏んづけてしまい支えるべきパートナーであるレオン王子の胸筋に顔面から突っ込んでしまった。


 レオン王子は、突っ込んできた俺を軽く受け止めると耳元に囁いてきた。

 耳元はぞわぞわするからヤメテ!


「必死にリードして下さるあなたはとても可愛らしくて、このままずっと踊っていたいのですが、最後に少しだけ私にもリードさせていただけませんか?」


「え?」


 レオン王子の言葉の意味を理解する前に手を取られ、背中を抱きかかえられたかと思うと身体ごとグイッと引っ張られ、舞うようにターンを決めていく。

 力強いリードに引っ張られ、身体が勝手に女性用のステップを踏む。

 ついて行くことに必死になっていたら、気がついた時にはフィニッシュしていた。

 レオン王子は、肩で息をしている俺に向かって、今日一の笑顔でぬけぬけと語りかける。


「あなたとのダンスは、一番素敵な誕生日の贈り物でした」


 もはやリアクションする気力もない。

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― 新着の感想 ―
[一言] くっ、これが、イケメン…か(バタッ)
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