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7.フローラ様の異変

 今日は、マルク様から予定を空けておく様に指定されていた休日だ。


 手紙には時間と場所の記載がなかったので、とりあえず部屋でのんびりと過ごしているとマルク様がやって来た。


「クリスティーナ。ヘーゲル山にハイキングに行くぞ」


 ドアを開けるなり、マルク様は唐突に用件を述べられる。


「マルク様、その様な事前準備がいる事は、当日ではなく前もってお知らせいただけると助かるのですが」


「前もって言えば、お前がまた色々と準備をしてしまうのだろう? 今回は私が物資を準備したから、お前はただついてくるだけで良い」


 そう言うと、マルク様は身体を捻り、背中に背負っている荷物を指差してみせた。


 今回のお誘いは、マルク様の中では半年前のハイキングのリベンジマッチのような位置付けなのだろうか。

 まぁ、そういう事なのであれば、お言葉に甘えるとしよう。


「分かりました。色々とご準備いただき、ありがとうございます」


◇◇◇


 半年前のオリエンテーションでも使用したヘーゲル山のハイキングコースを、マルク様と連れ立ってのんびりと歩いていく。


「護衛をつけなくとも、よろしいのですか?」


「良い。今回はそんなに奥まで入るつもりはないし、山に関して言えばお前以上の護衛役は居ないだろう?」


 マルク様にニヤリと笑われる。

 半年前の遭難時には、あんなにしょぼくれていたというのに、ご成長あそばされたものだ。


 秋から春へと季節が巡り、ヘーゲル山の装いも一変している。

 春の爽やかな風が気持ちいい。


「この辺りで良いか」


 ハイキングコースの途中にある東屋(ガゼボ)の前でマルク様が足を止める。


 マルク様は鞄からスカーフを取り出し、東屋の中に造り付けられているベンチの上に引いたかと思うと、そこまで俺をエスコートして連れて行き、座らせてくれた。

 

「私はお前のようにガサツではないからな、ちゃんと二人分のカップを用意してきたぞ」


「ぐっ、ありがとうございます」


 何から何まで至れり尽くせりである。

 ははーん、さてはマルク様育ちが良いな。あ、そういえばこの御方ルーベンブルク王国の王子様だったよ。


 マルク様が直々に運搬して下さったお茶で暫し一服する。


「今日は、暑くもなく寒くもなく、とても気持ちの良い天気ですね。マルク様、お誘いいただき、ありがとうございます」


 最近、どこかの誰かのせいでモンモンと悩んでいたので、良い気分転換になった。


「前にも一度聞いたことがあるが……お前の想い人はレオンなのか?」


「ぶふっ!? ちち違います! 違うに決まっているじゃないですか!」


 まるで思考を読まれたのかと思うようなタイミングでレオン様の名前が出てきたので、思わずどもってしまった。


「半年前と同じ回答だが、前の時とはまるで違う反応だな」


 マルク様が、空に向かって大きく息を吐いた。


「なぁ、クリスティーナ」


「はい?」


 マルク様は上を向いたままで、こちらからは表情が窺えない。


「この学園生活が終わった後も……私達は友人でいられるだろうか」


 正直意外だった。マルク様は俺を友人と思っていてくれたのか。

 改めて口に出して言われると照れくさいが、胸がほかほかと暖かくなる。


「えぇ、それはもちろん。そうであれば嬉しいです」


「そうか」


 マルク様が顔を元に戻し、俺の顔をじっと見て来る。何だ何だ。


「友人のよしみだ、フローラ姉様は私が説得してやろう」


「何の事ですか?」


「お前はレオンと結ばれたいのであろう?」


「え? そんな事、微塵もありませんよ」


 先程、否定したばかりではないか。聞いていなかったのか?


 ふむ。とマルク様が顎に手を当ててしばし考える。


「クリスティーナ、私はお前が好きだ」


「ありがとうございます? 私もマルク様の事をお慕いしておりますよ」


 突然何なんだ?


「もし同じ台詞をレオンから言われたら、お前はどう思う?」


 は? レオン様からその様な直接的な言葉をかけてもらった事はない。でも、もしレオン様が俺を好――――――


 グイッ


 マルク様の手が俺の頭に乗せられたかと思うと、強引に俯かせられる。俺の視界には、制服の裾と、真っ赤に染まる自分の手だけが映った。


 自分が今どんな顔をしているのか想像もしたくない。


「そういう事だ、分かったかバカ者」


 苦々しい声が頭上から降ってきた。


 あ"ーーーー、今日はとっても熱いな。

 

◇◇◇


「いい加減、観念して付いて来い、クリスティーナ!」


「断固拒否いたします!!」


 ヘーゲル山からビーネ宮へと戻って来るやいなや、マルク様は嫌がる俺を引きずりながらフローラ様の部屋へと直行しようとする。


 自分の気持ちと向き合いきれていない状態でフローラ様とお話する事など何もない!


「お前がレオンと結ばれるためには、いずれ越えねばならぬ壁だ。今なら私が口添えをしてやると言っているだろうが!」


 フローラ様に愛の告白をしに行くならまだしも、絶っっっ対にお断りだ!!


 なぜレオン様の婚約者であるフローラ様に、わざわざ宣戦布告するような真似をしなければならないのか。あの美しいフローラ様に面と向かって嫌われたら、俺は生きていけない。


 俺とマルク様の攻防は、フローラ様の部屋まであと数メートルという所で熾烈に繰り広げられていた。

 その時――――


 ドゴォッッッ!!!!


 フローラ様の部屋のドアが突然もの凄い勢いで吹き飛ばされた。


 部屋からは轟音と共に強い光が放たれ、突風に吹き飛ばされそうになる。


「フローラ様!!!」

「フローラ姉様!!」


 姿は見えないが、部屋の中で人間ではない何かが荒れ狂っているのを肌で感じる。

 この強烈な威圧感は―――精霊。


 フローラ様の部屋で一体何が起こっているのだろうか。只事でないのは疑いようもない。


 本能が精霊にひれ伏せと警鐘をガンガン鳴らしてくる。しかし、そんな事をしている場合ではない。フローラ様は、この世の宝だ。早急に安否を確認しなければならない。


「精霊よ。お鎮まりください!」


 腕で顔をガードしながら、足を踏み出す。

 途端に腕に無数の痛みが走る。


「クリスティーナ! 危ない!」


 部屋の中へと足を踏み入れようとした俺を引き戻そうと、マルク様が腕を伸ばしてくる。


「――――――」


 その時、部屋の中から微かにフローラ様の声が聞こえた気がした。


 父様は人前で魔法を使わないようにと忠告していた。だが、今使わずにいつ使うというのだ。


 ここで動かなければ、クリス()じゃない。


 痛みに耐えながら、俺は大きく一歩を踏み出す。

 ふと、以前フローラ様から伺った話が頭を過ぎった。


 フローラ様は“恋心”を対価にすることで、ルーベンブルク王国初代女王の再来と呼ばれるだけの力を手に入れたと。


「精霊よ、お願いです。お静まりください! 対価として私の恋心をお捧げいたします!」


 背後で自分の名を叫ぶ声が聞こえた気がしたが、俺の意識はここで途切れた。

本作も残すところ、後四話となりました。

しかし、この先はまだ書き上がっていない状態でして……少し準備時間を頂きます。


次話以降は、5月17日(月)からの公開を予定していますので、最後までお付き合いいただければ幸いです。

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― 新着の感想 ―
[良い点] クリスの恋心……。フローラ様、ジュリア王女、キャッキャッとは違うものですよね? レオン王子の呪いの方かな。 いやもう。ファーストキス奪われたり、目が離せない展開が続いておりますが!! 穏…
[気になる点] (レオン王子に対するあるか分からない)恋心をお捧げします!
[一言] 何があった
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