6.ときめく心
ぎゃあ"あ"あ"あ"あ"あ"!!
待ってぇぇ!! え、ついさっき、本当は男だってバレたばっかりですよね!?
レオン様にこの首飾りの危険性を分かりやすく伝えるべく、同じ様にペンダントトップを握りしめてやったら予想外の方向に跳ね返って来た。
突然しがみつかれたかと思うと、もの凄い力でギリギリと締め付けてくる。こんな風に筋力アピールされて喜べるのはセシリア姉様ぐらいのものだろう。
痛たたたたた!! ちょっと力を込め過ぎじゃないんですかねぇ!?
ヘイ、プリンス! 俺の背骨をへし折る気かい? 冗談きついぜ。
レオン様は俺の肩口に顔をうずめて何とか息を整えようとしているが、とても苦しそうだ。
そんなに苦しいならさっさと首飾りを外せば良いものの、こんな状況でも外そうとしない所をみると本当に外せないのだろうか?
あ、そういえばアラン様は部屋を色々と改築されていたし、物騒な道具も沢山お持ちの様であった。
アラン様にお願いすれば、この呪いの首飾りも外せるのではないだろうか。
「あの、この首飾りアラン様にっ」
その後の言葉は唇ごとレオン様に飲み込まれてしまった。
…………は?
「今だけは他の男の名前を口にしないでくれないか」
……………………は?
あまりの事に無言になってしまったのを肯定と捉えたのか、再び乱暴に唇を奪われる。
ま、待って、だから俺は男だと…………あふん、ちょっと気持ち良い……………くない!
駄目だ駄目だ駄目だ、ここで流されちゃ駄目だ。大事な何かを失ってしまう気がする。
あぁ、でも待って、やっぱり気持ち…………
唐突にレオン様が唇を離し、俺の顔はレオン様の胸元に押し付けられた。
「すみません」
…………いや、本当にな。相手が俺だったから笑い話ですむけど、危なく新しい扉を開く所だった。開きかけただけで、断じてまだ開いてはいない。危なかった。
ふーっと深く息を吐きながら、レオン様が離れていった。
「……これの危険性は、良く分かりました」
思わず男に手を出してしまう程ですもんね。とても危険ですよね。ようやく分かってくれましたか。……遅いわ!!
「とりあえず……首飾りに直接触れるのはもちろん、このような密室で二人っきりになるのも暫くは控えた方が良いかもしれませんね」
「そうですね」
全力同意である。
「その代わり、この首飾りを外すのは半年後の卒業のタイミングまで待ってもらえないでしょうか」
「えっ」
嘘だろ。なぜ、ここに来てまさかの保留を選ぶのか。
即刻排除するべき案件であろう。
「卒業までにはこの首飾りが不要になる状況に持っていくと約束するので、それまではどうか身に着けていてください」
現時点での必要性を全く見いだせないのですが。
まぁ、これを着けていれば今後は不用意にレオン様に接触しないで済むと思えば逆に良いのか?
「……分かりました」
不意にレオン様と目が合う。少し困った様子で、言葉を選んでいるのが伝わって来た。
「クリスティーナ、私は……」
「大丈夫です。ちゃんと分かっております。この部屋で起きた事は誰にも話したりはしないのでご安心ください」
呪いの首飾りのせいとは言え、男と知りながら手を出したなどの噂が流れたら、婚約者であるフローラ様にもご迷惑がかかるかもしれない。
俺としても、この事故は無かった事にしたい。
「……すみません」
本当にな! 頼むから、もう二度とするなよ!
◇◇◇
その後、念には念を入れて時間差で隠し部屋から出ることとなり、俺はレオン様よりも一足先に自室へと戻った。
「おかえりなさい、クリス」
長椅子で本を読むセシリア姉様に出迎えられる。
「あら、どうしたの? 貴方、顔が真っ赤よ」
「……何でもありません」
あーーあーーあーー!!
俺が好きなのは、ジュリア王女! ジュリア王女! ジュリア王女!
あーー! 初めてだったのに、コンチクショォォォォ!!




