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10.仮面舞踏会

 揺らめく蝋燭の灯りだけを光源とするホールは、昼間とは全く違った印象を与える。


 各々が顔の半分を覆う仮面をつけている事も相成り、この場はとても異様な雰囲気で満ちていた。



 仮面越しに覗く世界は、想像していたよりもずっと視界が悪い。

 仮面舞踏会が始まる前に落ち合う約束でもしていない限り、この場で誰か特定の人物を探し出すのは至難の業であろう。


 それでも、つい姿を探さずにはいられない。


 プラチナブロンドに碧い瞳の――――


「失礼」


 肩を叩かれ、振り返った先にいたのは……


「少し私とお話いたしませんか?」


 ジュリア王女――――と同じ色彩を持つ、レオン王子であった。


 違う、お前じゃない。



 レオン様は、仮面をつけてもなお隠しきれぬロイヤルオーラで溢れていた。


 本日は一応、無礼講の場なので断ることも許されるのかもしれないが……。階級社会にどっぷりと浸かっている身として、こうもレオン王子感が丸出しだと断り辛いではないか。


「はい。ぜひご一緒させてください」


 差し出された手に、しぶしぶ自身の手を重ねた。


◇◇◇


 レオン様は喧騒を避け、ひと気の無いベランダへと俺をエスコートする。


 俺は会場係だったのに、ベランダも会場の一部だったなんて話は聞いていないんですが?


 ベランダからは、先日のオリエンテーションの際に利用したヘーゲル山が見えた。


 ふむ。ベランダが会場に含まれていなかったのは、景色が寂しいのと単純に寒いからだな。では、なぜ俺は会場でもない、こんな場所に連れて来られてしまったのだろうか。


 薄手のドレス姿で秋も終わりの夜空の下に連れ出すとは、新手の嫌がらせとしか思えない。


 二の腕を擦りながらそんな事を思っていると、レオン様は身に着けていたマントを外し俺の肩にかけてくれた。


「マントありがとうございます。ところで何のご要件でしょうか?」


 長居したい場所ではないので、俺は単刀直入に要件を聞く。


 すると、レオン様はこちらを観察するようにジッと見つめてきた。この無駄なタメはなんだ、早くしてくれ。


「……貴女の想い人は、マルク様なのですか?」

「違います」


 否定の言葉が脊髄反射で口から飛び出した。

 なぜ俺がマルク様の事を想わなければならないのか、ただただ理解に苦しむ。


 変に誤解されたままなのも気分が悪いので、ここはしっかりと否定しておこう。


「私の想い人は別な御方です」


 レオン王子は黙ったまま、視線で続きを促して来た。


 いや、促されても困る。

 それは、貴方の妹君です。などと言えるわけがない。


 しかし、レオン様はこちらが何か続きを口にするのをじっと待っている構えだ。無言の圧力をかけるのはやめていただきたい。


 仕方がない、ここはジュリア王女の名前は出さずにボカした言い方で切り抜けるとしよう。


「……しかし、その御方にはすでに婚約者がいらっしゃいました。お相手は、とても美しく……それでいて可愛らしい面もお持ちのとても魅力的な御方です」


 ローレン様はとても魅力的な御方だ。ドレス姿で明るい笑顔を浮かべるローレン様は、普段とのギャップもあり本当に最高だった。きっとジュリア王女に出会う前であれば、ローレン様に恋をしていたに違いない。


「そもそも私には身分不相応な想いだったのです」


 その時、雲間からふと月が顔を出しレオン様を照らし出した。あぁ。やはり、ご兄妹なだけあって、ジュリア王女を思い出させる髪色である。だが、瞳の色はジュリア王女の方が青に近い色合いだ。

 思わずジロジロと見てしまっていた事に気が付き、慌てて目をそらす。


「……この気持ちは一生この胸に秘めておくつもりです。この限られた学園生活の間だけでもお側に居ることを許していただけるだけで私はっ……」


 続きの言葉は、突然レオン様に抱き締められたため掻き消されてしまった。


「クリスティーナ……私は……」


 何だ、何だ!? 突然何が起こった!?


 両手を突っ張り、腕の中からの脱出を試みるが逆に強く抱き寄せられてしまった。


 カチッ


 何か金属音がしたかと思うと、レオン様は離れていった。


 音がした方に目線を向けると、胸元に身に覚えのない首飾りがキラキラと光っている。


 ペンダントトップには、透明な宝石に美しいカットが施された物が使われている。


「これは……?」


「それは、お守りのようなものです。どうか持っていてください」


「いえ、こんな価値の有りそうな物を何の理由もなくいただけません」


 即座に外して返そうとしたのだが……あれ? 外れない。というか、留め金が見つからない。


 俺が試行錯誤しているなか、レオン王子は自身の服の首元を寛げ始めた。


 服の下に隠れていた胸元には、俺につけられたのと同じデザインの首飾りが光っている。


「ヘーゲル山のハイキングで用意した物資のお礼として、何か私が喜ぶものを手配するようにヨハンに依頼したそうですね。それでヨハンが用意したのが、このお守りです」


 あぁ、そういえばそんな事もあった。


「残金はヨハンの裁量で自由に使って良いと言われたそうですね……それでヨハンは、同じ物を貴女へも準備したのです。お礼が遅くなってしまいましたが、お気遣いありがとうございました」


「いえ、こちらこそ、その節はありがとうございました。ただ、そういう事であれば、私まで頂いてしまっては、お礼の意味がないのでこれは受け取れ「どうか」


 丁重にお断りを入れようとしたのだが、レオン様に遮られた。


「何も言わず、これを身に着けていてくれ、クリスティーナ」


 …………普段丁寧語でしか喋らない人が、突然タメ語で話してくるとビビるよね。


 結局、なし崩し的に首飾りを貰う事になってしまった。


 レオン様とお揃いの首飾りって……ヨハンさんもっと他になかったんですか。

 正直なところ心の底から、いっらねぇえーーー!!

・レオンの婚約者(仮)は、美しいと評判のフローラ様

・話の途中に思わせぶりにじっと見つめてくるクリスティーナ

→想い人は自分だと確信したレオンと困惑のクリス

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここで隠れ百合ップルの話を出すことによって想い人は男と言う錯覚を起こさせる手腕が素晴らしい!
[一言] また勘違いされてる
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