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7.ダンスの授業

 今日は、全生徒が集まってのダンスの授業である。


 この学園に集められている生徒は、王族、公爵、侯爵、伯爵の子供達であるからして、当然ダンスなど今更教わることでもないはずである。そう、俺以外は。


 うっかりしていた。

 昨日、調子に乗ってあんなに遅くまで資料準備に付き合うのではなかった。早々に自室に戻り、少しでもダンスの練習をしておけば良かった。


 俺が女性のステップを踊ったのは、レオン王子と踊ったあの一度きりだ。もう不安しかない。


 他人の心配なんぞ偉そうにしている場合ではなかったのだ。慣れないことをするものではない。


 だが今更後悔しても時すでに遅し。授業開始の鐘が無常にも鳴り響く。



 ダンスのパートナーは、ペア決めで揉めたりしない様に身分順で強制的に割り振られる。


 俺のパートナーは、魔法の国ルーベンブルク王国の伯爵令息であった。


「エルンドール王国ウェールズ伯爵の次女、クリスティーナと申します。……あまりダンスが得意ではなく、ご迷惑をお掛けすると思いますが本日はよろしくお願いいたします」


「……ルーベンブルク王国ザイツ伯爵の三男、エドガーだ」


 エドガー様は俺への挨拶もそこそこに、他所に視線をチラチラと送っている。


 エドガー様の視線の先を見やれば、何とも可愛らしい御令嬢がいらっしゃるではないか。

 はっは〜〜ん? 良いですな〜、青春真っ盛りですな〜。


 本当は本命の彼女と組みたかったのに、相手は俺だものな〜。それは、さぞガッカリしたことだろう。

 君の気持ちは良くわかるよ、エドガー君。


◇◇◇


 いや、ちょっと待て。


 エドガー君の御令嬢に対する純情な感情は良く分かった。だがしかし、彼はガチで彼女しか見えていない様である。


 常に御令嬢の動向が見える位置にリズム度外視のパワープレーで移動しようとするし、御令嬢がペアの相手に微笑まれたりすると指が折れる勢いで拳を握りしめて来たりする。

 君が恋に生きている事は良く分かったが、情緒不安定にも程があるぞエドガー君。

 俺を巻き込み事故するのは、やめてくれたまえよ。


 その時、おそらく御令嬢が頬でも染められたのであろうか、今日一番のイラつき具合で雑にターンに入ったエドガー君。そこでタイミング悪く俺もステップを間違えてしまった。


 ターンの遠心力も手伝って派手に吹っ飛び、件の御令嬢カップルに激突する。


「あたたたた……大変失礼いたしました、お怪我はありま「ターニャ! 大丈夫か!?」


 俺のお詫びの言葉に被せながら、エドガー君は御令嬢に駆け寄る。想い人の名はターニャ様というらしい。


「すまない、エルンドール王国の御令嬢がステップを間違えたようで、どこか怪我はないか?」


 俺のセリフを奪ったあげく失敗の責任を俺だけに押し付けてきたぞ、この脳ミソお花畑野郎。


「おい」


 その時、俺の背後から怒気を隠そうともしない重低音ボイスが上がった。


 振り返ると、真っ赤な髪が怒髪天を衝く勢いのマルク様が立っていた。


「ザイツ伯爵の三男エドガーだな。先程から様子を見ていたが、まず先に謝る相手が違うのではないか。我がルーベンブルク王国の品位を下げるような行いは看過できん」


「国の品位を下げるなどと、魔法の国ルーベンブルク王国において魔法を使えない貴方にだけは言われたくなどないっ!」


 想い人の前で責められ、ついカッとなって言ってしまったのであろう。エドガー君は言葉を放った瞬間、しまったという顔をしたがもう遅い。


「聞き捨てなりませんね」


 エドガー、お前は俺の逆鱗に触れた。


 ワルツの音楽は既に止まり、何事かと生徒達の注目を一身に集めてしまっている。


 むしろ良い機会だ。この際、はっきりと言ってやろう。


「私がステップをミスしてしまったのは事実なので何を言われてもしょうがありません。ただ、マルク様のことは別です」


「クリスティーナ?」


 マルク様が驚きの声を挙げられたが、今は忙しいので構っていられない。


「マルク様が魔法を使えない? 何を仰られるのです? 私は、マルク様が魔法を使われるのを目の前で確かに拝見いたしました。それも、通常であれば片腕を対価として差し出す必要があるような大掛かりな魔法を最少の対価で顕現されておられました」


 誇張はしているかもしれないが、嘘は言っていない。


「つまらない噂話を真に受けて実際に確かめてもいない事を吹聴するだなんて、恥を知ってください!」


 そうでないと、お心優しいフローラ様がいつまでもマルク様の件を自分の責任だと気に病まれてしまうだろうがあぁーー!!


 見せしめのようで気分の良いものではないが、フローラ様(美しい人)の笑顔を守るためなら多少の犠牲はやむを得ない。

 ……ふぅ。つい熱くなってしまったぜ。


「……クリスティーナ」


 ふと、我に返って横を見ると。じっと俺を見つめるマルク様と目が合った。


 え? 待って、待って。なんでマルク様がそんな感極まった表情でこちらを見ているんだ?

 そんな顔で俺を見つめる役は、マルク様ではなくフローラ様のはずでは?

 フローラ様ぁぁぁ!! フローラ様は、どこですかー!?


 パンッ


 手を打つ大きな音がホールに響き渡り、皆の視線がそちらに向かう。


 手を鳴らしたのは、レオン様であった。


「まだ学園生活に慣れていない方が多いようですね。そこで生徒会からの提案なのですが、今度仮面舞踏会を開催しようと思っています」


 レオン様が仮面舞踏会の概略を説明し始めると、こちらに向いていた皆の意識が見事にそらされた。

 そのお陰で俺が起こした騒動は大事にならず、無事に授業を終えることができた。

騒ぎが起きた際、レオン王子は真っ先に駆けつけようとしましたが、ダンスのお相手だったフローラ様に全力で阻止されました。

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― 新着の感想 ―
[一言] レオン王子フローラ様にガッチリホールド(物理)されてたんだな( ˘ω˘ )
[一言] 今回マルク君が一番得したかな?
[良い点] フローラ様ぁぁぁ。あなたを恋い慕うあまりクリス君が、フラグ撒き散らしてますよぉぉぉ?? フローラ様てばガチ勢なんですよね、マル×クリの。レオンを阻害して、いやはや、みなの思惑があさっての方…
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