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5.生徒会ミーティング

「これはこれは、レオン様。ご機嫌よう、婚約者の私に何かご用かしら?」


 あまりご機嫌麗しいとは言えない状態に見えるレオン王子に対して、フローラ様はにこやかにご対応される。


「ご機嫌よう。フローラ様、クリスティーナ。突然の訪問を失礼いたします。本日、フローラ様の弟君であるマルク様が女性用の紅色のマントで講義に参加されまして」


「えぇ、昨日の騒動でマルクとクリスティーナのマントが交換された状態になっていた様ですわね。まるで恋人同士がそれぞれの私物を交換している様で微笑ましく思っていましたのよ」


「えぇっ!? フローラ様、その様に思われていたのですか! 完全なる誤解です!」


 思わず横から口を出してしまった。

 恋人同士!? マルク様と俺が!? んな馬鹿な!


「……だそうですが。はぁ……とりあず、クリスティーナは、男性用のマントを脱いでこちらに付け替えてください」


「はいっ!」


 慌ててレオン王子からマントを受け取り紅いマントへと替える。授業の時やけに視線を集めていたのはこういう事だったのか……!


 そして、自国の王子様にまるで使用人の如くマントを運ばせてしまうとは、流石に色々と不敬が過ぎる気がする。


 やはりこういう時に従者が居ないのは不便だ。ウェールズ伯爵家ではマリサとノーラの二人しかメイドを雇っていないが、どちらか一人を派遣してもらえたりするのだろうか?


 まぁ、もし来てもらえるとしても、移動日数を考えると到着はまだ先になるだろう。


「私が従者を連れていないばかりに、お手を煩わせてしまい、申し訳ございませんでした」


「いえ、ウェールズ伯爵家が従者を手配できていないのは、何の説明もなく急な招集を掛けたこちら側の責任が大きいので気にしないでください。むしろ、従者が居ないと分かっていたにも関わらずフォローが遅れてしまい、すみませんでした」


 おおぅ、何て律儀な性格なんだ。こんなに何でもかんでも抱え込んでいたらストレスで潰れてしまいそうである。他人事ながら若干心配になる。


「ところで、急ではありますが、初日の授業の様子を生徒会役員で共有したいと思っています。これから談話室横の会議室に集まることは可能でしょうか」


 どうやらレオン王子訪問の本題はこちらだったらしい。


「えぇ、クリスティーナとのお話は終わったので大丈夫です」


「会議をするのであれば、私はまた皆様のお茶を準備いたしますね」


◇◇◇


「クリスティーナ!」


 お茶の準備をすませ、会議室に入ろうとした所で背後から名前を呼ばれた。


 振り返るとそこにはマルク様が居た。

 マルク様は周辺を見渡し、近くに誰も居ないことを確認すると声を潜めて話しかけてきた。


「身体は大丈夫か? その色々不都合があるだろうから、最短で解決できるようフローラ姉様に相談をしたのだが、どうであった?」


「……お陰様で」


 俺のためを思ってしてくれた事だとは分かるのだが、どうしても余計な事をしやがってという想いが拭いきれない。


 マルク様はあからさまにホッとした表情を見せると、お茶の用品を乗せたワゴンを押す俺の為にドアを開け、ワゴンを入れやすいようにドアを押さえる事までしてくれた。


 前回の打ち合わせの時とは打って変わっての紳士っぷりである。

 ヘーゲル山でのハイキングで貸しを作った事がよもやこんな形で効いてくるとは。

 

 いちいち突っかかってこられなくなっただけでも学園生活が快適になったというものだ。良かった、良かった。


◇◇◇


「初日の授業の欠席者はゼロ。ただ、男女とも各国間の溝は大きいと……」


 再び談話室横の会議室に集まった生徒会メンバーは、それぞれの観点で授業の所感を述べていった。


 この学園では、授業を受けると学園内通貨であるビーネが支給される。

 必要最低限であればビーネを使用しなくとも生活はできるが、食事にデザートを追加したいだとか、物品を購入したいだとか、防音室や温室などの特別施設を使いたいなどという場合に必要になる。


 ここに入学しているお貴族様方には、必要最低限な暮らしなどで満足できるわけもなく、ビーネを獲得するために授業には参加してくれるようだ。


「一緒に過ごす時間が増えれば相互理解は徐々に進むかもしれませんが……」


 ん? レオン王子は不機嫌だと思っていたが、不機嫌とも少し違うのかもしれない。ひょっとして、少しお疲れなのだろうか。


 まぁ、初日からマルク様の遭難という大きなトラブルに見舞われたしな。


「一年という限られた時間しかない我々には、悠長に傍観している暇はありません。そこで、交流の場として仮面舞踏会を開きたいと思うのですが、どう思われますか?」


 そう言うと、レオン王子は書類の束をドサドサと机の上に広げ始めた。

 仮面舞踏会開催に向けて、概算スケジュールや当日の進行表、安全対策案、必要な物品一覧に間取り図、概算費用。これらの資料が、日時や規模のバリエーションで3パターン分準備されている上、それぞれのパターンのメリットデメリットまでまとめてある。


 え……この資料いつ準備したん? まさか授業が終わってから、この数時間で準備したん?


 前回の打ち合わせの時はお茶の準備で抜けていたので気が付かなかったのだが、打ち合わせ資料は全てレオン王子が準備していたのか。


 それは疲れるわな。それに引き換え、同じエルンドール王国の生徒会役員なのに何の仕事もしないどころか、マントの配達までしてもらった俺である。罪悪感で胸をグサグサと抉られる。


「国や身分関係なく交流をと言われても、なかなか一歩を踏み出すのは勇気がいる事だと思います。そこで、仮面を付けることで個人を匿名化し一歩を踏み出す口実を与えようと思うのです」


 レオン王子が資料片手に仮面舞踏会の目的や概略を説明する。


「お互いの名前と所属国が完全に一致していない今だからこそ、国や身分というラベルを外した純粋な個人同士の交流が進みやすいという事だな。安全対策については厳重に考える必要があるが、まぁ良いのではないか」


 クロディア王国のアラン様が先陣を切って同意すると、他のメンバーも次々と同意を示した。


「仕事の分担ですが、私は全体の進捗管理を行います。フローラ様とアラン様には生徒との窓口となっていただき、周知と問い合わせの対応をお願いします。マルク様は、生徒全員分の仮面の手配を。ローレン様とクリスティーナには会場の準備をお願いできますか」


 その後はレオン王子が作ってきた資料を叩きに詳細を詰め、夕方頃に話し合いは終了した。


「それでは詳細を詰めた資料を今日中に仕上げておくので、早速明日から各自作業に取り掛かってください。準備期間が短く大変だとは思いますが、よろしくお願いします」


 流れる様な見事な会議であった。流石である。


 だが、これではレオン王子に負荷が集中し過ぎてしまうのではないだろうか。


 偏見かもしれないが、レオン王子の従者であるヨハンさんは見るからに護衛要員で事務仕事には向いていないと思う。 

 従者が何人もいて作業を斡旋できるならまだしも、一人で資料をまとめるのでは相当骨が折れる事だろう。


 既に疲れの色が出ているのに、任せてしまって大丈夫なのだろうか?


 レオン王子に万が一倒れられた場合、エルンドール王国の生徒会役員として俺が代わりを務めなければならないのだろうが、そんな事できる気が全くしない。


 レオン王子には何としてもこの一年間、息災でいただく必要がある。

 執務をこなす従者がいないここでは、レオン王子の負荷分散は俺の役目だろう。

 生徒会の活動ということで一応、俺にも給料としてビーネが支払われている。少なくとも貰った分は働かなくては。


「レオン王子殿下、資料をまとめるのであれば私にもお手伝いさせてください」

クリスティーナの為にプライドを捨て、今まで避けていた姉に助力を願ったマルク様。

ずっと避けられていた弟に頼られて、嬉しすぎて即効で対応したフローラ様。

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― 新着の感想 ―
[一言] そして地味に好感度を稼いでいく(無自覚)
[良い点] 面白いですー ガンガン突き進んで欲しいです! [一言] 苦労人王子サマにサポート令嬢?なら上手く行かないはずがない!
[一言] 上手くいくかなぁ
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