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9.身支度

「……ふぅ」


 前に性別が変わった時と同様に、身体を包んだ光と熱はすぐに収まった。

 マルク様は自身のキズを治す魔法を使ったはずなのに、どうして関係のない俺が巻き込まれたんだ!?


「クリスティーナ!」


 呆然としていると、マルク様が血相を変えて俺に手を伸ばしてきた。

 反射的にボロボロになった紅いマントを胸の前で合わせてガードする。


 豊かな谷間を形成していた胸が既に消滅している事は、目視せずとも布越しの感触だけで明らかだ。

 これは完璧に男に戻っている。男に戻れたのは良かったのだが、何でこのタイミング!?


「身体を見せてみろ、クリスティーナ!」

「だ、大丈夫です! 何ともありません」

「何ともない訳があるか! 精霊はキズを治す対価をお前から貰うと言っていたんだ!」


 マルク様は俺の手首を掴み、マントの前を何とか開こうとギリギリと力を掛けてくる。

 必死の抵抗を試みるが、一体どこからそんな力が湧いてくるのか凄まじい力で結局腕をこじ開けられてしまった。


 マントと一緒にブラウスを強く握りしめていたせいで、腕が開かれるのと同時にブラウスのボタンが弾け飛ぶ。


 結果、男の身体にコルセットが締められているという地獄絵図が眼前に広がることになってしまった。

 ははははは、もうどうにでもなれ。


「…………すまない」


 か細い声でマルク様が謝ったかと思うと、次の瞬間頭の上から何かの布を掛けられた。


「わぷ! 何ですか!?」

「ボロボロのマントの代わりに使え」


 マルク様はそう言うと、くるりと後ろを向いて、洞窟の壁とにらめっこを始めた。

 布をよくよく見ると、男子生徒用の紺色のマントであった。


 マルク様が後ろを向いている間に身支度を整えろという事なのだろうか。

 この格好のまま学園に戻る訳にもいかないので、ここはご厚意に甘えるとしよう。


 用意周到な俺は、ジュリア王女が枝に制服を引っ掛けた場合を想定して裁縫道具も準備してもらっていた。


 まずはボロボロの紅いマントを切り裂き、なんとなく丸く成型した後に糸で留め、それを胸に詰める。


 いっその事コルセットを脱いでしまいたいのだが、女子生徒用の制服はコルセットでスカート部分を支えるデザインになっているため、コルセットを脱ぐに脱げないのだ。

 流石の俺も男子生徒用の制服までは持ち合わせていない。


 それにしても、また胸に詰め物を入れる事になるとは……。


 ブラウスの方は、弾け飛んだボタンを探すのが面倒なので簡単にピンで留めるだけにした。


 その場しのぎなので色々と粗はあるが、最後にマルク様に借りたマントを羽織ればそこまで目立たない。

 

 さて身支度は整ったが、マルク様に身体が男なのをモロに見られてしまったのはどうフォローしようか。

 ここはやはり、この機会に今までの事を正直に話してしまった方がいいのだろうな。

 そして、これから俺は男子生徒として学園生活を送るのだ。

 きっと学園生活一日目の今ならまだやり直せる。


 軽く深呼吸をして、覚悟を決める。


「マントありがとうございます。お陰様で身支度が整いました。それで、その……実は私……」

「すまなかった」


 俺の言葉を遮る様に、今度は大きな声で改めて謝罪を口にしたマルク様。

 背を向けているので、どんな表情をしているのかは分からない。


「緊急時とはいえ、無理に服を脱がそうとしてしまった」

「いえ、男の身体になった後でしたので何も気にしてはおりません、それよりも私は……」


 言葉を紡ぐ前に、マルク様がくるりとこちらに向き直った。

 何か憑き物が落ちたような、曇りのない真剣な眼差しを向けられ、思わず口を噤む。


 はじめて会った時からずっと寄せられていた不機嫌そうな眉間の皺がないだけで、マルク様の印象は全然違う。幼い印象の強かったマルク様が、突然大人びたように感じる。


 すると、マルク様はおもむろに俺の右手を握りしめてきた。


「安心しろ、ルーベンブルク王国の王子の名にかけて、お前を絶対に元の身体に戻してみせる」


 意外とマルク様は責任感が強いタイプなんだな。

 だが、残念ながら俺はもう女性の身体に戻るつもりはない。

 真実を今度こそ話そうと口を開けた瞬間――


「クリスティーナ!」


 突如として頭上から鋭い声と眩い光が降り注ぐ。

 直後に、何者かが穴から洞窟の中にスタッと降り立った。


 振り返るとそこには、宙に浮かぶ光輝く球体と険しい表情を浮かべるレオン王子の姿があった。


 まだ夜も開けていないのに、何故ここにレオン王子が居るんだ!?

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