表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/44

3.マルク様からの洗礼

 イケメン王子というだけで妬ましいのに、婚約者が絶世の美女のフローラ様だなんて前世でどれだけの徳を積んだんだ、この野郎。

 この世の終わりでも救った救世主だったのか、この野郎。


 嫉妬の炎に焼かれながら涙目でレオン王子を睨みつけると、バツが悪そうに顔を背けられた。


「フローラ様、その話はまだ正式なものではなかったはずです」

「あら、それは失礼をいたしました」


 フローラ様は、レオン王子の反応を楽しむかのように、悪戯な笑みを浮かべる。


 "まだ正式なものではない"という言い方は、いずれ正式なものになる予定があるという事を暗に示しているわけだが、ある意味では、まだ正式な婚約には至っていないという事であるから……。

 それなら、フローラ様と俺が結婚するチャンスはまだ残されているのか……!?

 一縷の希望が湧いてきた。


「色男のレオン様? お忙しいところ悪いのだが、そちらの可愛らしいお嬢さんは、いったいどこの誰なんだ。

 てっきりエルンドール王国からは、レオン様と第一王女のジュリア様が役員になられると思っていたのだが」


 今度は右手側に座っている黒髪の男性から声がかかった。

 レオン王子は苦笑しながら、皆に俺を紹介する。


「皆さんにご紹介します。エルンドール王国から選出したもう一人の役員は、ウェールズ伯爵の次女、クリスティーナ・ウェールズです」


 レオン王子に軽く背を押され挨拶をする様に促されたので、ドレスの裾を軽く持ち上げ膝を曲げる。


「よろしくお願いいたします」


 舞踏会での失敗を活かして、今度は余計な言葉は追加しない。


「クリスティーナ、左手に座られているのが、魔法の国ルーベンブルク王国の第一王女、フローラ・ルーベンブルク様です。

 お隣に座られているのが、第三王子のマルク・ルーベンブルク様」


 フローラ様は、名前を呼ばれると、花が綻ぶような笑顔をこちらに向けてくださった。

 慈愛の溢れる紫の瞳がキラメキ、一つに編み込まれたブラウンの豊かな髪が揺れる。あまりの美しさに目が潰れそうだ。

 レオン王子の妹君であるジュリア様は可憐な少女という印象であったのに対して、フローラ様は大人の色気を感じさせる美女であった。

 

 マルク様は、まだ機嫌が治っていないのか不貞腐れた表情のままだ。

 赤い髪は短めに整えてあり、姉君であるフローラ様と同じ紫色の瞳で値踏みするようにこちらを眺めている。

 フローラ様と比べると、まだ成長しきっていない幼さを感じる。


「右手に座られているのが、換学(かがく)の国クロディア王国の第一王子のアラン・クロディア様、お隣が第二王子のローレン・クロディア様です。」


 アラン様は、先程レオン王子を色男と呼んだ御人だ。

 黒く長い髪を後ろで一つに束ねている。紅い瞳でじっと見つめられると肉食獣に睨まれているようでなんだか落ち着かない。


 ローレン様は、グレーの髪にブラウンの瞳を持つ、中性的な顔立ちの王子だ。背が高く男らしいアラン様の隣りだと、ローレン様はやけに小さく見える。

 というよりも、この方はもしかして……。


「おい、クリスティーナとかいう女」

「……なんでしょうか?」


 俺の逡巡は、マルク様の不躾な呼び掛けによって強制的に打ち切られた。


「お前、飲み物を用意して来い」

「マルク様、クリスティーナは貴方のメイドではありませんのでそのような物言いはおやめください」


 こちらを完全に見下した発言に、すかさずレオン王子が苦言を呈してくれた。

 俺もマルク様の物言いにはイラッとくるものがあったが、この王族ばかりが集まる場違いな空間から一時でも逃れられるのであれば、お茶を準備するぐらい安いものだ。


 美味しいお茶を淹れられたら、フローラ様の好感度が上がるかもしれないしな!


「いえ、レオン王子殿下、大丈夫です。

 隣りの談話室にあったカウンターを使わせてもらってもよろしいですか?」

「それは、構いませんが」

「それでは少々失礼いたします。どうぞ私抜きで打ち合わせを進めてくださいませ」


◇◇◇


 普通の伯爵令嬢の感覚であれば、お茶は飲むものであって、淹れるものではない。お茶を淹れるのは、あくまでメイドの仕事なのである。


 マルク様はきっと、王族が集まる生徒会の中に突如として現れた身分違いな伯爵令嬢への洗礼として、出来もしないお茶の準備を命じたのだろう。


 しかし、我がウェールズ伯爵家は普通の伯爵家とは一味違う。

 必要最低限のメイドしか雇っていない我が家は、伯爵の子供といえども日常的に家事を手伝っていた。

 何なら、領民と一緒に農地を耕したり、家畜の世話を手伝ったりしていた程だ。


 メイドのマリサとノーラにしこたま鍛えられてきた俺にとって、お茶を淹れるぐらいお手の物である。


 さて、どんな飲み物を準備しようか。


 談話室のカウンターを覗くと、一級品の豆や茶葉が所狭しと並んでいた。流石、貴族達が利用することを想定しているだけの事はある。

 カウンターの裏には、コンロはもちろんオーブンや冷蔵庫などの最新の換学(かがく)製品まで備え付けてあった。


 物がいいだけに、コーヒーや紅茶をそのまま普通に淹れるだけで十分美味しい物ができそうだが、それだけでは王族の肥えた舌は満足させられないだろう。

 何かないかと、戸棚を開けていくと、良い物を見つけた。

 久しぶりにアレを作るか。


 あとは、姉様特製のバターたっぷりカップケーキを付け合わせられたら最高なのだが、お茶請けには有り物のクッキーを持っていくことにする。


 下準備を終えたら、後は必要な用品を全てワゴンに乗せて、準備万端だ!

連載前のストックが尽きてしまい、更新が不定期になっております。

頑張って続きを書いていくので、引き続きよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ