プロローグ
荘厳なダンスホールに、きらびやかな衣装を纏った男女がひしめき合っている。
彼らの瞳は一様に人混みの中心に居る二人の人物に注がれていた。
一人は、エルンドール王国の第二王子であられるレオン殿下。
ブロンドの髪を輝かせ、エメラルドグリーンの瞳で目の前の少女を慈しむように見つめている。
視線を集めるもう一人は、王子の目の前に立つ美しい少女、ウェールズ伯爵家の次女クリスティーナ。
毛先に癖がある栗色の長い髪をしきりに撫でつけながら、普段は勝ち気な青い瞳を今は不安そうに揺らしている。
王子は、少女の滑らかな手を優しく包み込む。
「一年間隠し続けてきたこの気持ちを、今こそ貴女に打ち開けたい」
周囲の人々は二人の幸せな結末を確信し、事の成り行きを暖かな目で見守っている。
しかし、その約束されたハッピーエンドに抗う者が一人。
「……一年間隠し通せたお気持ちであれば、このまま一生胸に留めておいてはいただけませんか」
王子に手を取られた少女は大きな瞳を潤ませ、今にも泣き出しそうな様子で声を絞り出す。
そんな少女に王子は少し困ったように微笑みかける。
「クリスティーナ、貴女は本当に優しい方ですね。貴女に気持ちを伝えることで全てを失うことになったとしても後悔はありません。私は、もう覚悟を決めました」
少女は呆然と王子を見つめながら頭の中では思考をフルスピードで回転させていた。
(何かないのか!? この局面をくぐり抜けて、ジュリア王女と結ばれる真のハッピーエンドへの道は!)