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エリナギ  作者: 四季


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5話

「げっ……仲間か……!」


 エリナを地面に押し倒していた男は、ナギの登場に渋い顔をする。エリナに仲間がいることを予想していなかったのだろう。


「アンタら、何してるんすか」


 ナギは、エリナが地面に押さえつけられているのを目にした瞬間、顔色を変えた。いつものお調子者の雰囲気は消え去り、凄まじい殺気を帯びた表情になる。本当にナギか、と疑いたくなるような、鋭く厳しい顔つきだ。


 買ってきた二本のペットボトルを近くのテーブルへ置くと、ナギはずんずんと大股で、男たちの方へ近寄る。


「何だ? 兄ちゃん、やんのか?」


 エリナを押さえつけている男とは別の、大柄な男が、軽く顎を上げながらナギに突っかかっていく。

 だがナギは動じない。当たり前だ、彼とてエリミナーレの一員である。エリナほどではなにしろ、色々な敵と戦ってきたし、幾度も危機的状況を乗り越えて今ここにいる。


「兄ちゃん、無視すんなよ。文句があんならハッキリ……うおっ!」


 言い終わるのを待たず、ナギは、大柄な男の懐に潜り込む。最初に鳩尾へ肘を叩き込み、それから服を掴んで、背負い投げを綺麗にきめた。やり慣れていないナギにしてはかなりクオリティの高い一本だった。


「いってぇ……」


 急に投げられ、受け身をとることすらできずに地面に叩き付けられた大柄な男は、涙目になりながら打った部分をさする。


 ナギはその隙にエリナの方へ走る。


「エリナさんっ!」


 彼の脳内は「エリナを助けなくては」ということで埋め尽くされていた。


 大切な女性を目の前で傷つけられるなど、彼にとっては耐え難いことである。

 もちろん、エリナがちょっとやそっとで音をあげる女でないことは、ナギも十分理解している。しかし、だからこそ、放ってはおけないのだ。放っておいたら無理をするから。


「離してもらうっすよ!」


 エリナを地面に押さえつけ、加えて腹部を踏みにじる男に、ナギは後ろから掴みかかる。


「なにすんだ!」

「それはこっちのセリフっすよ!」

「はぁっ!?」

「女の子に手を出すとか、何考えてんすか! ちっさ! 男としてありえないっしょ!」


 ナギは男と揉み合いながら、相手を刺激するような言葉を次々並べる。もっとも、恐らく自覚はないのだろうが。


「調子に乗んなよ! この女が俺を怒らせたのが悪りぃんだよ!」


 男はすっかり怒りモードに入ってしまっているようだ。唾を飛ばし、辺りになど微塵も気を配らずに、乱暴な言葉を叫び続ける。品の欠片もない。


「何すか、その言い方は! エリナさんが悪いって言うんすか!」

「ああ、そうだよ! 女のくせして冷たい態度をとるとか、ありえねぇんだよ!」

「エリナさんは冷たく見えるっすけど、本当は優しいんすよ! 口では冷たいこと言っていても、いつも俺のこと心配してくれるし!」

「ノロケは要らねぇ!!」


 男とナギの口喧嘩は、なにやらおかしな方向へ向かい始めている。

 地面に仰向きに寝そべった体勢のまま二人の口喧嘩を聞くエリナは、呆れ果てていた。起きるに起きられない体勢のため、仕方なく地面でじっとしている。だが、エリナはそろそろ動きたくなってきた。


「ノロケとかじゃないっす! エリナさんの優しさについて語ってるだけっすよ!」

「それがノロケなんだよ!」

「事実を言っただけじゃないっすか!」

「いや、だから、それもノロケなんだよ!」


 意味のない言い合いを繰り広げる男とナギ。


 エリナはその間に、男に気づかれないよう気をつけつつ、片膝をそっと立てる。意識がナギに向いている今がチャンス——そう思い、エリナは黒いパンプスを履いたつま先に力を込める。


 そして。


 ヒールを男の脇腹に叩きつけた。


「ぐはぁっ!」


 身構えていなかった男は、苦痛の声を吐く。ナギに気をとられ無防備になっていただけに、かなり効いたようだ。


「いっ、いってぇ!」

「お返しよ」

「この、クソ女っ!」


 今さら意識を戻したところで時既に遅し。エリナは華麗な身のこなしで、男の足下から脱出していた。


「女ごときに本気になるなんて、情けないわよ」

「し、しまったぁ!」

「ここからは、こちらも本気でいかせてもらうわ。かかってきなさい」


 ブラウスについた土を払い、鋭い視線を男へ向けるエリナ。ただ者ではないオーラが全身から迸っている。


「さぁ、誰から来るのかしら?」


 エリナが片側の口角を持ち上げると、男たちの顔は恐怖に塗り潰された。


「ひ、ヒィッ!」

「うひぇんっ! 怖ス! 怖ス!」


 男たちは取り乱す。

 先ほどまでの尊大な態度からは想像のつかないくらい、弱々しい様子。まるで肉食獣から逃げる小動物のようである。


「……くそっ。ここは撤退だ!」


 直前までエリナを押さえつけていた男が、ヒールで蹴られた脇腹を押さえながら叫ぶ。


 それを合図に、男たちは、嵐が去るように走り去った。

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