4話
ひと悶着あった後、ようやくアイスクリームを購入できたエリナとナギは、カップを持ったまま近くの休憩所に移動する。カオスアイスクリームの店内には座れる場所がないのだ。
「買えて良かったっすね!」
「そうね」
怒りは収まったもののまだ機嫌が良くないエリナは、ナギに対して素っ気ない態度を取り続ける。
それに気づいているナギは、彼女の機嫌をとろうと、席から立ち上がって言う。
「そうだ! ちょっと飲み物買ってくるっすよ! エリナさんは何がいいっすか?」
「別に。何も要らないわよ」
「じゃあ、好きそうなの選んで買うっすね!」
ナギは太陽のような笑みを浮かべ、はきはきした声でそう言った。そして、休憩所の外にある自販機へ飲み物を買いに向かう。
彼の背を見送り、一人になったエリナは、「何よ」と小さくぼやいた。
「お姉さん、一人ぃ?」
ナギが席を離れてしばらく。
エリナが小さなスプーンでアイスクリームを口に含んでいると、背後から聞き慣れない声が聞こえてきた。何かと思い、彼女は振り返る。
そこには、二十歳くらいと思われる男が三人ほど立っていた。
全員知らない男だ。
「……何かしら」
容姿や口調から怪しいと判断したエリナは、鋭く睨みながら、愛想なく低い声で返した。
すると、エリナに最初に話しかけてきた男が、口を動かす。
「一人なんだったらさぁ、俺らと遊ばね?」
男はエリナの腕を掴もうとする。彼女はその顔に不快感を露骨に表し、その手をパァンと強く払い除けて、言う。
「気安く触らないで」
氷剣のような、鋭く冷たい声色だった。
触れることを拒まれ、しかも冷ややかな視線を向けられた男は、眉間にしわを寄せる。思い通りにならず苛立ったようだ。表情は先ほどまでと変わり、瞳が怒りに燃えている。
「何だ、女のくせに生意気だな」
「だったら何? 貴方たちには関係ないでしょう」
「てっ、てめぇ……あんまり調子に乗んなよ!」
男はついにキレた。
エリナの右手首を乱暴に掴み、彼女を椅子から引きずり下ろす。そして地面に押し倒し、白いブラウスに覆われた腹部を、一度二度と、片足で強く踏む。ブラウスに土色の跡がついた。
それから男は、白いブラウスの襟を両手で持つ。
「女が調子に乗っているとどうなるか、その身にたっぷり教え込んでやる!」
やや興奮気味に目を光らせながら、激しく叫ぶ男。その表情は、飢えた獣そのものである。
一般人女性なら、その目つきに、少なからず恐怖心を抱いたことだろう。しかし、そんな野蛮なだけの行動でエリナを怖がらせるのは、不可能だ。
「無駄よ」
既に幾度も死線を越えてきたエリナにすれば、地面に押し倒されるくらい、怖くもなんともない。敵意を持つ者に囲まれるのも、乱暴な手段に出られるのも、慣れっこである。
だから、この程度のことなど、可愛い子どものイタズラも同然なのだ。
「貴方みたいな男に何かされても、ちっとも怖くないわ」
口紅を塗った赤い唇の端を、エリナは挑発的に持ち上げる。余裕を感じさせる表情だ。
「かかってきなさい」
「こいつ……!」
まんまと乗せられ、男は激高する。
持ち上げた拳を振り下ろそうとした——瞬間。
「エリナさん!!」
休憩所に叫び声が響く。
ジュースを買いにいっていたナギが帰ってきたのだった。