2話
無事合流することができたナギとエリナは、買い物をするべくショッピングモールへ突入していく。
昼間のショッピングモールはやはり人が多かった。ぼんやりしていては、はぐれてしまいそうだ。
そこで、ナギは、どさくさに紛れてエリナの手を握る。
「何のつもり?」
手を握られたことにすぐに気がついたエリナは、怪訝な顔で尋ねた。
それに対し、ナギは、何食わぬ顔で答える。
「はぐれたらまずいっすからね!」
ちゃっかり距離を縮めようとしてくるナギに、エリナは呆れた顔をする。
「……相変わらずね」
「相変わらず、何すか? もしかして、相変わらずかっこいい?」
「ふざけるんじゃないわよ」
「すいません」
ナギが少し調子に乗ると、エリナは呆れ顔のまま冷たく言い放った。二人の関係は、恋人同士になっても何も変わらなかったようだ。
それから二人は、ショッピングモール内を練り歩いた。
服屋、アクセサリー屋、雑貨屋、花屋——和菓子やアイスの店まで、幅広い店舗が並んでいる。まるで夢の国である。
「いやー、ここ面白いっすわ!」
「あら。ここへ来るのは初めて?」
「何年か前に一度友達と来たんすけど、それ以来一回も来てないんすよ」
左右に並ぶ色鮮やかな店舗を眺めながら、人込みの中を二人は歩く。気楽に、ゆったりと。当てはないが、散歩のように足を進める。
「そう。私も実は、あまり来たことないのよ」
「あ、そうだったんっすか」
「エリミナーレメンバーには遊ぶ暇なんてないのよ。休みの日はいつも爆睡だもの」
文句言いたげな顔のエリナ。そんな彼女へ、ナギは返す。
「いやー、やっぱり休みの日は寝るに限るっすね! あ、エリナさん。今度俺と一緒に寝な……って、痛! いふぁっ! いふぁい!」
楽しげに喋っていたナギの声が突如乱れる。どうやら、エリナに頬を引っ張られたのが原因のようだ。
ナギは、余計なことを言いエリナを怒らせることに関してだけは、非常に優れている。もっとも、そこが優れていても何の意味もないのだが。
「馬鹿なことを言うのは止めなさ……あっ」
その瞬間、エリナの茶色い瞳は一軒のアイスクリーム店を捉えていた。らしくなく釘づけだ。さすがのナギもエリナの異変にはすぐに気づく。
「どうしたんっすか?」
「あれ! カオスアイスクリームじゃない!」
二人の視線の先には、宇宙のような壁紙のアイスクリーム店。
若い女性に人気のありそうな店が並ぶ中、そこだけは他と違った雰囲気を漂わせている。過疎化して寂れた商店街の一角に高級が建っているかのような、凄まじい違和感である。
「エリナさん、知ってるんすか?」
彼女の大人びた顔へ視線を向けつつ尋ねるナギ。
「ええ。先月の六宮マッピーに特集されていたわ」
ちなみに、マッピーというのは、六宮市が一般向けに毎月発行している薄めの無料ガイドブックである。食事、カフェ、雑貨店、などなど、毎月六宮市内のお店が特集されているのだ。
噂によれば、市役所だけではなく、市役所周辺の店舗にもおいてあるとか。
「マジっすか! え、じゃあ食べてみましょうよ! あんなに空いてるんすから!」
すっかり乗り気になったナギは、今にも走り出しそうな顔をしている。
「そうね。人気店だもの、こんなに空いているなんて奇跡だわ。行ってみましょう」
しかし、乗り気なのはナギだけではなかった。珍しくエリナも乗り気である。
「じゃあさじゃあさ、俺のおごりで! アイス代は俺が持つっすよ!」
「それは要らないわ」
「えぇっ、何でっすか!?」
「私は別に、お金には困っていないもの。私がおごることはあっても、おごられることはないわ」
カオスアイスクリームの注文カウンターへ向かいながら話すエリナとナギ。
全身から醸し出す雰囲気も、声の大きさや質も違う二人だが、意気投合した時だけは実に楽しそうである。それはもう、赤の他人が嫉妬しそうなくらいに。