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エリナギ  作者: 四季
1/6

1話

「うわああぁぁっ! どうしよ!? どうしようっ!?」


 ナギは寝坊した。


 今日は恋人となったエリナとの初めてのお出掛け。ショッピングモールで買い物をする予定だった。楽しみで楽しみで、前日から凄く張りきっていたのだが、よりによって、見事なまでに寝坊。

 この日に備えて買った高級なスーツも、大慌てで準備したせいでよれてしまった。髪を丁寧に整える暇もない。


 ナギが必死の形相でリビングへ駆け込んだ時、そこにエリナの姿はなかった。リビングにいたのは、カップケーキを作り終えた傍から食べているモルテリアだけ。


 そんな彼女に、ナギは尋ねる。


「モルちゃん! エリナさんは!?」


 すると彼女は、ナギを一瞥し、冷たい声で答える。


「……とっくに、出ていった……」


 一言で彼女の機嫌があまり良くないことに気づいたナギは、軽い調子で「どもっす!」と礼だけを言い、風のようにリビングから走り去った。



 それからしばらくして、ナギは、携帯電話にエリナからメールが来ていることに気づいた。


【先に行っておくわ。六宮滝口の百貨店前で待っているから、起きたら来なさい。 エリナ】


 しかし送信時間は二時間も前。さすがにもう待ってくれていないだろう、とナギは落ち込む。せっかくここまで持ち込んだのに自分で壊してしまったことが、彼にとって一番の打撃だったようだ。


 だが、少しして、彼は立ち上がる。


「……いや。まだいるかもしれないっすよね」


 独り言を呟いてから、速やかに事務所を出る。

 まだ待ってくれているかもしれない——その低すぎる可能性に賭け、彼は六宮滝口へと向かうことにしたのだった。



 ◆



 六宮駅へ走り、電車を乗り継ぎ、ようやく滝口までたどり着く。百貨店のある大型ショッピングモールまではもうすぐだ。六宮滝口駅と大型ショッピングモールへ続く空中通路を、ナギは全力疾走した。


 やがて百貨店前へ着く。


 ナギは早速辺りを見回すが、エリナの姿は見当たらない。

 やはりもう帰ってしまっていたか——と肩を落としかけた、その時。今ナギが一番聞きたい声が、耳へ飛び込んできた。


「ナギ! 遅いわよ!」


 聞こえてきた、厳しくも魅力的な声。

 間違いなくエリナだ。

 そう思い、どやされること覚悟でナギは振り向く。


「エリナさんっ!」

「約二時間五十分の遅刻よ」


 胸元を広めに開けた白いブラウスに、漆黒のタイトスカート。肌色のストッキング、黒のパンプス。エリナは今日も女性的魅力の満載な服装だ。


 彼女に会えたことが嬉しくて、ナギはうさぎのようにピョンピョン跳ね出す。直前までの落ち込みはどこへやら、すっかり元気になっている。

 しかし、スーツ姿で跳ね回るものだから、道行く人々に戸惑いの視線を向けられていた。


「随分な遅れね。私を二時間以上も待たせるなんて、なかなか度胸があるじゃない」

「本当にすいません!」

「普通なら嫌われているところよ」

「すみませんでしたっ!」


 静かに嫌みを言われ、ナギは何度も頭を下げる。まるで、厳しい文句を言われる営業マンのようだ。

 エリナが嫌みを言い、ナギが謝る。しばらくそれが繰り返された。


 やがて、気が済んだらしく、エリナは嫌みを言うことを止める。ナギの真摯な態度もあってか、彼女の顔に笑みが浮かんだ。


「まぁ、もういいわ。それじゃあ行きましょうか」

「え。どこにっすか?」


 唐突に話が変わったことにナギは戸惑っている。きょとんとした顔だ。

 それに対し、エリナは、呆れて溜め息を漏らす。


「どこにって、買い物よ。買い物。今から色々回るのよ」

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