高瀬莉音について
第1章 つづき
<Side:杉山彩子>
初めて莉音に出会ったのは、中学2年の春だった。
莉音は隣の中学からウチの中学に転校してきて、私と同じクラスになった。
なんでも笑顔でソツなくこなして、キライだ、って思った。
中学2年なんて多感な思春期に、我が家は大騒動の真っただ中にあった。
父さんと母さんの仲は、私が小学生のころからよくはなかったけど、
いよいよ離婚するって話になってて、
頼りない兄さんとまだ幼い弟のことを思うと私がしっかりしなくちゃって思っていた。
家での疲労が重なってゴールデンウイークが終わるころには、
学校に行っても教室にいかない、いわゆる保健室登校になった。
そんな私を知ってか知らずか、莉音は移動教室の度に保健室に顔を出すようになった。
彼女は笑顔で「今日も来てたんだね」って言う。
私は面倒だから「まあね」って返す。
嫌いという感情を出すと、なんだか、
教室へ行けない自分が、教室に行けている彼女をひがんでいるように思われる、と思って、
ときたま嘘の笑みを織り交ぜて、適当に返事をしていた。
「彩子ちゃんのこと、心配してるのよ。」って、保健室の先生はにっこり笑って言った。
「私はあの子のこと、好きじゃない。」
誰にともなく、小声で私は呟いた。
二学期に入ったころ、同じクラスのてっちゃんから話しかけられた。
てっちゃんとは同じ小学校からの持ち上がりで顔見知りだったから、話すのは別に苦じゃない。
「高瀬と仲いいんだろ、あいつ、好きなやついるのかな。」
別に仲いいわけでもないし、アンタの気持ちはばればれだよ。って喉元まででかかってやめた。
「なー、杉山繋がりでひと肌脱いでよ、このとおり!!」
「他にも頼める相手いるんじゃん?何も私じゃなくたって。莉音とアンタって同じ部活だし。」
「女テニの誰かになんて頼んでみろ、俺の命は終わるぜ。」
「呆れた……」
まぁ、何かの時に気が向いたら訊いておくよ。とだけ返して、それじゃあ、と言う。
「おう、またな。杉山も授業来ないと勉強おいてかれるぜ、ちゃんとこいよ。」
最後に余計なひと言が胸に刺さった。
勉強とかは大人になってからだってできる。
私の問題は、そこにはなくて、そもそも生きていくうえで、
どうしたら大事にしたい家族と心のつながりをもっていけるかっていうことのみなんだと思う。
だから家では極度の緊張状態にあるし、みんなが仲良くできるように気を使う反面、
勉強なんて手につかないし、どこかで休みたいんだよ、とも思う。
それが私にとっては、たまたま保健室だったってこと。
わからない人には、わからないままでいいけどね。