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妄想(ゆめ)から目を覚ませ

作者: ゲンジツ

処女作品です

目が覚めると俺は異なった世界に居た


目が覚めると僕は仮想空間に囚われていた


目が覚めると私は運命的な出会いをした



努力とは人が好きなものでもあり嫌いなものでもある

己を高めるため、または他より劣っている部分を補うため

自ら積み上げたものの結晶であり、評価を受けるものだ


一方、その過程を拒みそれを無駄だと切り捨てられるものでもある

決して追いつくことのできない差、他と自分が並ぶために課せられた負荷

それを果たすことが出来るのだろうかという疑問がそこにあるからだ


練習・特訓・修行・鍛錬・トレーニング

こなさずとも上にいられる者など殆どいない

しかし逆にこなしたところでそれが報われるものも多いわけではない


楽をして自分の思い通りになるなど、それは妄想に漬かった創作の人物しかないだろう



中世風の街並み、石畳の道で数十人の群衆が集まっているところがあった

その群衆の先には灰色の帽子、これまた灰色のフードをした男が座っていた


「…という訳で、勇者様は仲間と共に道中の苦難を乗り越え魔王を死闘の末倒したとサ」


「「「「おー!」」」」


「さてと、ご清聴ありがとうさん

 願わくば、銭を恵んでくれるとありがたい」


そう言うと全身灰色の男は空き箱を自身の前にソッと置く


「まぁ、退屈潰しにはなったぜ、受け取りな」


チャリン、男の一人が空き箱にコインを1枚入れる


「何も入れないのも申し訳ない感じがするわね」


チャリン、中年の女性もコインを1枚投げ入れる


それに続けて数人もまたコインを投入していった

何も入れないまま去るものもいたが灰色の男は特に気にしてはいないようだ


「…どうも」


男はコインが投げ入れられる度そう返した







「とりあえず今日一日、食い繋げるぐらいには稼げたカ」


灰色の男はそう呟いて石畳から立ち上がった


「ン?」


その時街の人々の様子がどこかおかしいことに気付いた

どこか気を遣っているというか、押し殺している姿がちらほら目に見えた

理由がどこかにあるのか、視界を移動させ探すとある店の前に数人の男女の集まり、いや男一人と女たちの姿があった


「なぁ、だからその新しく出来た武器を俺たちに恵んでくれよ」


その集いの先頭にいた黒い髪、きりっとした黒い瞳、剣を装備した男が店主に言いよっていた


「いや、しかしいくらあなた様でもタダで差し上げるわけには…」


「でも、その剣って優れた剣士じゃないと扱えないんでしょ?

 なら『オチリク』が持っていた方が良いし、この店の宣伝にもなるでしょ」


「そうですよ、『オチリク様』なら使いこなせない剣はないですしその剣も喜ぶでしょう」


「せっかく名高い剣士が貴殿の優れた剣の噂をわざわざ訪れたのだ

 このまま帰すのはいささか無礼ではないか」


いや、無礼はどうみてもそちらであろう

いきなり店に現れて品物を無料でもらおうとか都合が良すぎだろうだと灰色の男は思った

店主もこんな奴ら、さっさと追い返してしまえば良いのにと何故そうしないのだろうか


「…分かりました、この剣を差し上げましょう」


「ハ?」


店主は少し悩むそぶりを見せてはいたが数秒後には剣を手に取り、オチリクと呼ばれていた男に渡した

その不可解な行動に灰色の男思わず声を漏らした


「最初からそうしてくれれば良かったのに、余計な時間食っちまったな

 ほい、じゃあ受け取るぜ」


男は礼も言わず、貰うのが当然との口調で返した


「それじゃあみんな次はどうする?」


「んー?私は何か装飾品が欲しいな」


「私は美味しいものが食べたいな!」


「特にない、オチリクたちの好きなようにしてくれ」


「よし、じゃあ…」


そう会話しながら剣士の集いはその場を去っていった



「なあ、アンタ」


「はい?」


「なんで、武器をタダであいつらにあげたんダ?サービス精神旺盛ダナ」


灰色の男は武器屋の店主の元まで来て疑問を尋ねた


「…しゃあねえだろ、相手が『救国の英雄様 オチリク様』じゃあな」


「ホウ?」


店主の答えに灰色の男は納得した



この街は今でこそ活気に満ち溢れているが数年前まではゴーストタウン、道中に開けている店などなかった

国々の戦争が行われており周辺の街も戦火に見舞われていた為そんな余裕はなかったからだ

いつ終わるかも分からない悪夢のような日々を民衆はただ耐えるしかなかった

そんな時一人の英傑が現れる、それがオチリクであった

剛と柔、両方を兼ね備えた剣裁きを持つ実力者、全てを受け入れてくれる人格者

豪快な戦い方をしながらも冷静に分析もできるまさに英雄と呼ぶに相応しい人物であろう

彼がこの街のある国の剣士として戦場に現れてから戦争は変わった

仲間たちを率いて彼らは周囲の国々を次々と破り、この戦争を終わらせたのだ



「その誉高い英雄様がしがない店主から武器を奪ったということカ?」

 そもそもあの英雄様は本物カ?」


「最初は俺もそう思ったさ

 でもアイツが身に付けていたペンダント、この国の王が英雄に渡したものさ

 あれは間違いなく本物だ」


「なんで分かる」


「これでも物を作る仕事に関わってるからな

 中途半端な贋作なんざすぐに分かる、だがあのペンダントは見事なもんだったよ」


武器屋の商人は自身の目に疑いはないと断言して述べる


「まぁ、いいサ。こんなすぐに目的を果たせるとは思わなかったがナ」


「ん?何のことだ」


「気になさんナ、商売を続けてクレ」


じゃあな、と灰色の男は片手を挙げオチリクたちが向かった方向と同じところに去っていった






「う、嘘だろ…」


それから時間が経ち、賑わっている昼から暗くなり落ち着いた夜になっていた

街の路地裏に数人の女性が倒れていた

いや傷の状態、血の量から見て確実に死んでいた

その状況で尻餅をついた体制でうろたえている男の姿がそこにはあった


「残念、これは現実ダ」


灰色の男が事実を簡潔に淡々と告げる


「ふざけるな!俺の仲間を!女を!」


うろたえていた男は怒り狂い持っていた剣を取りだし灰色の男へめがけ切り込みに行く


「ヤレヤレ、堕ちた英雄様ダナ、オチリク様?

 いやこちらの方が適切だナ」


灰色の男はニヤリと口元を不敵に歪め



「日本生まれの27歳、職歴無し、高校中退

 親に家を追い出されて途方に暮れてた矢先トラックにはねられ死んだ『桐谷君』?」



「え…?」


オチリクは持っていた剣を落としその場で固まる


「ハハ、そしてどういう訳か神と名乗る者に特典、この世界で無双できる力を貰って転生

 オチリクという男に生まれ変わって第二の人生をスタート

 最初は英雄様として振る舞っていたがついには過去の汚い本性が隠しきれなくなったのカ

 自身の立場を使って傍若無人な日々を過ごすようになったと」


灰色の男はケラケラと、オチリクを哀れみ馬鹿にするように笑いながら言う


「仲間の女も女だナ

 英雄様の女として舞い上がったのか、勘違いしだしたのか同調するかのようにお前と同じようなことをするようになったと

 似た者同士惹かれ合うとはこのことだな」


「俺の女たちを馬鹿にするな…!」


「まぁ良い思い出来たんじゃないカ?

 元居た世界ではこんな思い絶対できなかっただろうし」


だからサ、と灰色の男は言い


「もう終わってもいいよナ」


「?!」


オチリクがその殺気に反応した頃には時すでに遅く


パァン!


灰色の男が取りだした拳銃に胸を射貫かれていた


「ガハッ…」


オチリクは胸を抑えその場に倒れ込む


「ま、こいつ等みたいに剣、魔法とかで仕留めても良かったんだけどネ」


灰色の男はオチリクのパーティの女たちの亡骸を見ながら呟く


「どうせなら君の居た世界で身近な殺せる武器がいいかなと

 それにすぐ死なないよう急所は外したから今までを振り返りながら逝けるダロ

 サービス精神ってやつダ」


「ふざ…けるな」


オチリクは息も絶え絶えにして言い灰色の男を睨みつける


「じゃあナ」


それを灰色の男は特に見向きもせずその場を去っていった


「ふ…ざ…け…る…な」



一人の男の回想が流れる

ごく普通の家庭に男は生まれた

幼い頃は活発で外で遊びまわることが好きだった

幼稚園、小学校までは一緒に遊ぶ友達も居て充実していた日々を過ごしていた

中学生になってからなぜか周りから浮きはじめ、友人と呼べるものはいなくなった

それだけならまだ良かったが突如として暴力が襲い掛かった

言葉の暴力、道具や手足を使った暴力、イジメというやつだ

なぜされるようになったか理由は分からない、ただ自分がターゲットに選ばれてしまっただけなのだろうか

そんな地獄の様な毎日が続いたがそれでも新しい環境なら何か変わると感じ耐え忍んでいた


しかし高校に入ってもそれは変わらず始めの平穏な数か月の後には中学と同じ日々が続いた

イジメは酷さ、相手の狡猾さも増し彼は限界を迎えた

家に引きこもるようになった男はアニメ・ゲーム・ライトノベルといった創作にのめり込むようになった

ここなら誰も邪魔をしない安寧の地であると


そんな日々が永劫続くわけもなくついに彼は家から強引に追い出された

家族もいつまで経っても変わることが無いだろう無益で邪魔な存在に我慢の限界を迎えたのだろう

行き場を失った男は虚ろに呟いた


誰が産んでくれと言った、産んだなら責任とって面倒見ろよ


その瞬間横からトラックが飛び出し、彼の人生の中でもっとも高く飛びあがり地面に叩きつけられた

こうして一人の男のむなしい人生が終わった、かのように思えた



男が目を開くと目の前に白い球体のような光があった

その球体は自らを神と名乗り曰く、君には異世界に転生してもらうと

ただ行くだけでは無残に死ぬだけだ、だから何か特典・能力を授けると


男はそれを聞いて高笑いした

まさか、こんな人生逆転があるのかと

自分が見ていた、読んでいた物語の展開が自身に起こってくれるのかと

男は願った、転生先で誰にも負けない、無双できるだけの力を寄越せと

正直曖昧すぎると後に男自身も思ったがその願いは聞き入れられた


転生先での人生は素晴らしいものだった

見た目も力も元の自分とは比べにならないほど優れており

友人や女たちも何もせずとも近づいてきてくれた

あぁ、なんとも素晴らしい世界だと男は酔いしれていた


まずは己が確固とする地位を築くまで、自身の持つ欲望は隠していた

そして英雄として呼ばれるまで押しあがった時はそれは解き放たれた

富や名声、女。過去の自分が手に入れなかったものがここにはあった、あったのだ



「いや…だ」


血が、痛みが止まらない

オチリクの顔からは次第に涙がこぼれ始める


「(死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない

  死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない

  死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない

  死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない)」


最早言葉を発することができないほど衰弱し

頭の中では徐々に近づいてくる死から逃れたいという思いのみが埋め尽くされた

なんで自分がこんな目に、転生して力も手に入れたのに

ここでも理不尽に虐げられ散ってしまうのか


「皆…死ね」


英雄の残した最後の言葉は虚しいことに、自身が今まで受けたことに対しての恨み節であった




「あーあ、ここでの仕事も終わったヨ」


灰色の男はさらに暗くなった街の夜道を歩く

その手には書類の様なものが数枚あった


「えっと、次は何々『天才賢者として調子に乗っている転生者の始末』、またこんなのかヨ

 それと…『街娘から皇子たちに見初められ王族になったはいいが圧政で民を苦しめる転生者の始末』

 『下着に転生して女に邪なことばかりする転生者の始末』何だコレ」


灰色の男はだんだん呆れながら書類を次々と目を通していく


「転生者増やしすぎて転生先で迷惑起こしまくってるからどうにかしてくれ

 その代わり執行人としてお前に転生者に絶対勝てる能力を与えると

 神様も自分勝手で理不尽ダナ」


灰色の男はため息をついてそう呟いた




「あの語り部さん最近見なくなったな」


「そういえばそうだね

 デタラメな内容なのに何故か実際あったかのように話してて面白かったのに」


「もしかして実際に経験した、見た話なのかもよ」


「まさか」


「そういえばオチリクが死んでもう大分たつな」


「英雄様って呼ばれるようになって調子に乗ってたからな

 バチが当たったんだろ」


「お偉いさん方は大騒ぎだったみたいだけどな、英雄を殺せるような者がいる、一大事だと」


「それで国中探したけど犯人は見つからずと

 なぁ、俺が思うに犯人はあの語り部だと思うんだが」


「はは!そんなあの語り部の物語じゃあるまいし

 さぁ、そろそろ仕事に戻らないとカミさんにどやされるしじゃあな」


英雄が居なくとも語り部が居なくとも彼らの日常は変わることはないだろう



「クシュン!風邪ひいたわけでもないのに何故かクシャミが出たヨ

 えぇと、いたいたアイツが次の転生者か」


先程とは異なる世界で灰色の男は資料を取りだす


「貰った特典はステータスMAX?ハン、少しは努力しろってノ」


嘲笑いながら呟く


「さて、妄想から目を覚まさせに行ってきますカ」


執行人の仕事はまだまだ終わらない

続きはないと思います

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