二話
「ええ。大丈夫です。さっきまでの状況はわかりますか?」
流石に疲れた。地面に片膝を立てて座り込みながら問う。呪いの種類によっては記憶が飛ぶこともあるらしいから、慎重に聞く。一応座ってるとはいえ、その気になれば飛びのける程度には力を両足に入れている。
「ええ。記憶は残っています。おそらく呪いにかかっていたのでしょう?私の呪いをといていただきありがとうございます。これでも私、貧乏ですけれど貴族なので、大きな問題になる前に解いてくれて助かりました」
「問題?」
不思議そうにしている私に彼女はくすりと笑って教えてくれた。
「ええ。ギルドマスターはいろんな貴族が縁談を持ってきてるのですよ?かなりの優良物件なので貴族と言っても没落した家では他の高位貴族の目の敵にされるかもしれないんです。なので、本当に助かりました」
「ここではシルトはそんなに人気なの?」
信じられない、と思っていたが、よく考えたらかなり顔は整っていたような気がする。 性格もかなりいい。過去の行為と今の決意がなければ、優良物件だ。そして過去のことをそれを知っているのは5人だけ。
そう考えれば、かなりいいやつだ。客観的に見れば恋人がいてもおかしくない。
………酷いこと思ってごめん、シルト。
「貴族なんて、お姉さんも大変だね。」
そう言うと、彼女は意外そうに目を見開いて笑い出した。
どうしたんだろう?
そんな表情を浮かべている私を見かねたのか、(笑い過ぎて)苦しそうにしながらも教えてくれた。
それによると普通の人は貴族に憧れるらしい。私には面倒としか思えないが、平民は優雅な暮らしに羨望を抱くものだと言われた。
でも、それは私が変わっているのではなく、育ちが原因だろう。
「ヨツハさん?大丈夫ですか?」
昔を思い出して少し寂しい気持ちになったのが、表情に出てしまったらしい。心配そうな声をかけられてしまった。
まだまだ修行が足りない。
本心は、奥底に沈めるものだ。
復讐心は、表に見せず。牙は心の中で砥ぐ。
来たるべき日のために。
それを、他人に心配されるようではまだまだだ。
小さく先程の自分を反省し、にこりと笑ってごまかす。
「うん。少し友人を思い出していただけだよ。全然大丈夫。」
その言葉に安心したらしい。
貴族と言っても没落したと言っていた。他人の嘘を見抜くことに慣れていないのだろう。
「それにしても困ったなあ。」
受付を見ながら呟く。
何しろ結局シルトに会える目処は立っていないのだ。
もう諦めたいところだが、旧友は何より大切だ。シルトはリーダーだから、指示も聞きたい。何とかして会いたいところだ。