一話
私、『ヨツハ・アルカ』がいるのは人間が治める国『太陽国ソルフレア』。世界で最も大きいと言ってもいい国だろう。街道では沢山の商人が声を張り上げている。
人族はいつでも一番弱いのに、いや弱いからこそいつの世も圧倒的な数の強さを見せる。魔法にに優れた「天魔族」でもきっとたくさんの協力し合う人間にはかなわないのかもしれない。魔法の殲滅力を嘗めてはいけないけれど、この光景を見ているとそう思う。そう言う私も人族だけれど。
天魔族は、全ての種族の中で、最も魔法適性に優れた種族だ。翼が生えているものを総合してそう呼ぶことが多く、その中にも吸血種や夢魔族等様々な種が存在するが、その殆どが人族より生まれつき魔法に優れている。
しかし、この現代生きる数を思えば全面戦争になった時に、勝つのは人族かもしれないと思ってしまう。それほどの活気だった。
けれども、あんまり人混みは好きではない。早足で歩く。目の前に目的の建物が現れて少し安心するが、代わりに惚けてしまった。
「こんなに大きくなってるなんて……」
昔、同じ誓いを立てた友達、シルト。彼は、国ですら無視できない強力な組織を作り上げ、情報を集めると言っていた。言っていたけれど。
「ここまでの、大手ギルドに成長しているなんて……。しかも、彼は裏組織も経営しているはず。流石だなあ……」
そう、彼は表の顔はギルド長だが、人には言えない仕事を頼む、裏組織も経営しているのだ。ただし、『顔』が全く違う。彼、シルト・エンヴリマは紋章魔法を使う。この魔法は、様々な効果の紋章を使いこなす魔法だが、彼は肌に貼り付けた紋章を起動させることで、紋章の種類によっては別人のようになることもできる。あの魔法の真価はそこではないけれど。
ちなみに、ここでいうギルドは何でも屋の意味合いが強い。もともと一般人からの仕事を請け負うだけの組織だったので国も認可していたが、最近は荒事--警備、魔物討伐、その他諸々--も請け負っているらしい。今では魔物討伐等のために所属している戦力を、国すらも無視できないと言っていた。
「流石だなあ……」
もう一度大きな建物を見てつぶやく。そして、そうしていても仕方がないので扉を開けた。
中は、ごく普通のカウンターがいくつもある。酒場などはなく、一階は初めての人や、街の人にも入りやすくしてあるらしい。カウンターの一つに並ぶ。一番強そうなお姉さんがいたのでそこに並ぶことにした。
「今日はどうされましたか?」
「面会希望です。シルトに『ヨツハ・アルカが来た』と伝えてください。」
「申し訳ございません。当ギルドのマスターは日々忙しく、予定のないものは会うことができません。」
「シルトは私が来たと言えば、ちゃんと会ってくれますから、伝言だけでも伝えて下さりませんか?」
「申し訳ございません。規則ですので」
しかし、やっぱり、彼への面会希望者は多いらしく、伝言もできないらしい。どうしようかと考えていると、背後から人がやってくる気配がした。軽く振り向く。すると、そこにいたのは気が強そうな女性だった。
「ちょっとそこの貴方、何シルト様を呼び捨てにしてるのよ!」
一瞬脳が理解するのを放棄した。シルト様? あの彼が様付け? 思いがけない言葉に笑いをこらえていたら
「何笑ってるのよ。私やシルト様を馬鹿にしてるの?それならこちらにも考えがあるわよ。ここには練習場だって整備されてるんだからね。決闘だってできるのよ。」
馬鹿にしてるつもりは無かったのだけれども。彼女からは、黒い嫌な気配を感じる。少し目を細めてじいっとみると、彼女の心に絡みつく糸のようなものが見える。
「なるほど」
一人得心がいったように頷いているヨツハに沸点が達したのか、彼女の目の前の女は顔を真っ赤にして怒り、ヨツハを指差す。
「決闘を申し込むわ!私が勝ったら、二度とシルト様を呼び捨てにせず、金輪際シルト様に近寄らないで!」
受付嬢はこそこそと
「受けなくても謝れば済みますよ。彼女は少し前まではあそこまで激情家ではなかったですので、今もきちんと謝れば大丈夫です。彼女は当ギルドでもかなり強い方ですので、一般人には勝ち目は薄いと思います」
と言ってくれるが、気になることもあるし、解決したら、友達の役に立てるかもしれない。そう思って微笑を浮かべる。ヨツハにその自覚はないが、かなり綺麗な笑顔だ。
「決闘を受けます。演習場はどっちですか?」
「よく受けたわね。私はこれでもかなり強い方なのに。いいわ。ボコボコにしてあげる」
そうして、演習場に向かう。ここで実力を見せればシルトに取り次いで貰えるかもしれないと思いながら。
♢ ♢ ♢
演習場についた。かなり広く、このギルドが戦闘面も重視していることが伝わってくる。やっぱり、シルトは頑張ったのだろう。早く会いたくなってきた。そのためにも、目の前の人を倒さないと。
「ルールは気絶するか寸止めで勝利。殺しはなし、でよろしいですね。」
「「はい、大丈夫です(わ)」」
「では、あまり大きな怪我をさせないようにお願いします。」
そう言うと、女性は大きめの長剣(模擬戦用の木剣)を持って切りかかってくる。上段切りは、先ほどまで話していた印象では、すごく強くはなさそうだったが予想に反してかなり鋭く、速い。けれど。
「まだまだ私の敵じゃない!」
そう言って一気に黒色の闘気を解放する。この位なら今の私の身体にもほとんど影響はない。闘気を纏わせた剣を一閃させる。振るうと同時に、纏わせた闘気を斬撃として飛ばす。漆黒の斬撃は相手の木剣をへし折る。同時に、相手の背後に回る。ここからが正念場。仲間の役に立つには、これしかない。
「嘘でしょっ!この私の背後に回るなんて!」
相手が何か言っているが、気にする余裕は、ない。集中して狙わなければ。
ポケットから透明に輝く宝石を取り出す。魔法触媒の一つ、効果は『呪い破り』。呪いの浄化に使う宝石。
「発動。浄化の光」
宝石が光り輝くと同時に、相手の呪いを削って行く。けれども、強力な呪いなのか、削りきれない。けれども。
それで破りきれない呪いの残りは、固有能力で喰らい尽くす。
固有能力とは、人族が多く持つその名の通り個人によって効果も威力もばらばらの能力。強力なものから、しょうもないものまで様々だ。
「開封」
ヨツハの全身から、黒いもやのようなものが現れ、相手に絡みつくように展開される。
これが、私の固有能力。もやのような見た目はある程度は変えられる。強力だけど、本当は制限も多い。けれども。
「この位の呪いなら、いけるはず……!」
そのまま一気に出力を上げて、相手の呪いを喰らう。喰らい尽くせたら、大丈夫だとは思うがバックステップで距離を置き、様子を伺う。
少し、無理をし過ぎた。全身が軋む。だが、無理をした甲斐はあったらしい。相手の瞳に先程までの恋情は見えない。立ってられない。座り込む。相手が木剣を捨てて駆け寄ってきた。
「すみませんでしたわ!怪我はないですか?」
先程までとは別人のような態度を見て、解呪が成功したことを知った。