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自作小説倶楽部 第14冊/2017年上半期(第79-84集)  作者: 自作小説倶楽部
第84集(2017年6月)/「雨」&「男前」
32/37

02 奄美剣星 著  雨 『レモンティー』

挿絵(By みてみん)

挿図/Ⓒ 奄美剣星 「植物園の蓮花」

 1月1日は元旦。2月2日は節分、3月3日はひな祭り。4月4日は桜の開花、5月5日は端午の節句、そして……。

 6月6日に雨ざーざー。今年はそうでもなかった。快晴だったし、星もみえていたし。

 7月7日は七夕だが、どうせ今年も雨になることだろう。

 話を戻す。

 6月6日の66を180度ひっくりかえしてみる。するとそれは99になる。問題は90度右回転の場合だ。

〝のの〟

 田圃の案山子の顔に書く〝へのへのもへじ〟の双眸ではない。

 歌舞伎の女形が畳に〝の〟の字を書くとき、目の前にいる男性を、愛しているけど伝えられない。どうか貴男から告白して~と訴える仕草だ。

 昨今の科学者さんたちは、フェロモンがどうとか、脳内物質が分泌されてなんとかとか、興ざめな研究ばかりなさる。されど、好きの〝好〟という文字を分解すると、女子だ。

 女の子は恋をする。

 あのころの私は、赤い糸はきっとあると信じていた。

 ボブヘアの女子学生であった私。その日の恰好は、ブラウスとタイトなジーンズ、そして雨の日用のパンプスだ。――馴染みのカフェの隅っこの席にいつも座っていた。窓越しに紫陽花の花から雫が滴り落ちたのがみえた。だから、このお話での私は雫と名乗ることにしたい。

 私はお店に置いてあった、梶井基次郎の薄い短編小説集を途中まで読んで閉じた。

 下宿から路地を抜け散歩がてら本屋さんまでゆき、店先に並べてあった本を買わず、その上に、檸檬を置く。それを〝時限爆弾〟だと著者は述べている。詩的ではあるけれどもちょっと危ない。曾祖父の世代だと思うのだけど、『檸檬』が世にでると、当時の学生さんたちは、危うさを真似て檸檬を店に置いて立ち去ったのだという話を聞いたことがある。今風にいうなら軽くテロの模倣犯というところ。

 恋は、亦と心からなる。

(――また心が……、そのつぎは〝ゆらめく〟と続くのかな)

 ぼんやりとそんなことを考えていた。

 お店には練習用ピアノが置いてった。ただの練習用ではなくて自動演奏機能があった。

 誰かが急に鍵盤を奏でた。

 私は顔を上げた。

 かなり昔のハリウッド映画『雨に唄えば』の主題曲で、自動演奏かと思えば、背の高い男子学生が生で弾いていたのだ。長い指が鍵盤の上でタップダンスをしていた。

(楽しそう)

 ピアニストはノッポで長い髪を後ろに束ねた、縞柄のシャツに吊りベルトでスニーカー姿。素敵なハンサムボーイ。

 窓越しに通りを往来する自動車が水たまりを弾く音がした。

 カフェのママが、「彼と喧嘩した?」と訊いてきたのでビックリ。図星だった。

「年をとると判っちゃうものよ」

 ママはまだ年というほどでない。

 それに比べて母ときたら大らかで、察するということを知らない。年をとっても判らない人は判らないものなのだ。

「これ、私のおごり」

 テーブルの上のレモンティーの横に、ママレードのショートケーキが置かれた。昔、さる貴婦人がのたまっていたではないか、――落ち込んだときはケーキを食べればいいのにと。

 私は綺麗に平らげ、小皿にフォークを置いた。

(明日は謝ろう)

 モノレール駅はお店から300メートル。雨は本降りのままなのだけれども、意を決し外へでて傘を拡げた。

     了(ノート20170628)

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