04 らてぃあ 著 立夏 『田植えの風景』
立夏も過ぎ、黄金週間も明けると有給も使って一週間の休みを取った。職場の先輩に「が以外旅行に行くの?」と聞かれたので「祖父の棚田で田植えです」と正直に答えると呆れた顔をされた。お休みは旅行の方が普通なのだろうかと思いつつ帰郷したが、久しぶりに昔なじみの顔を見ると些細な悩みなんてどうでもよくなった。
「いやー、千恵ちゃん。綺麗になったねえ」
「でも痩せたんでないか。都会の一人暮らしでちゃんと食べてるのか」
「この前会った時はうちの子供たちと泥だらけで遊んでたのにね」
決まり文句のように「きれいになった」と褒められるのは照れ臭いし、余計な昔話にまで発展しそうなのでさっさと道具をみんなに配ってしまう。
空が澄んで青い。田植え日和だ。
久しぶりに顔を合わせるのは私だけではない。めいめい近状報告をしたり愚痴をこぼし始める。
「タヌさんのところは今年9つ子だって、あそこの嫁さんはすごいね」
「ウチは去年32個だったよ」
「卵とじゃ比べられんよ」
お昼になると私とお祖母ちゃんが用意したご飯をみんなで食べながら話が弾む。
「オラのところの七十五番目と九十一番目の孫が都会に住むようになってもう5年よ」
言い出したのはイノの婆様だ。
「こないだ帰って来た時に都会なら食うに困らん、皆こんな田舎でくすぶってないで都会に出てくればいいって言っていたけどね。今更都会でゴミあさりなんて出来んよ」
そうだそうだ、と周囲も同調する。
「いくら食えるからって何で出来てるかわからんヒトの食い物ばっかり食えないよ」
「ウチのハトコの嫁の前のダンナとの間の子供なんて食品添加物とかいうやつのせいで毛が抜けたそうだよ」
「それに都会は車が多すぎるよ。うかうか散歩も出来ない」
もとから田舎暮らしと自然を愛する集団だ。たちまち都会バッシングが始まった。
もっともだと思う反面、都会の学校に進学し、そのまま就職した身としては居たたまれない。
皆の輪から外れて山の斜面に腰かけて棚田を眺めていると幼馴染が隣に座った。
昔は私より背が高かったのに成長しない彼は、今は私よりずっと小さい。
「都会の生活はどう?」
「うーん。いろいろ大変。会社にね。小さな女の子がいるんだ。誰か子供を連れて来ているのかと思ったら、私にしか見えてなかったのよ。他の人に変だと思われちゃった。普通って難しいね」
小学生の頃のように見えるもののことを周囲に話して気味悪がられるような愚かなことはもうしない。でも、時々息苦しい。
「でも君はまだ頑張っているね」
「仕事で嫌なこともたくさんあるけど、少しは出来るようになったよ。先輩も親切に教えてくれるし」
私より仕事が出来る人はたくさんいる。私の代わりなどいくらでもいる。それでももう少しだけ頑張ってみようと思うことの繰り返しだ。そしてたまに楽しいこともある。
「疲れたらいつでも帰っておいで。ここは変わらないから」
彼はいつも同じ言葉で私を送り出してくれる。
田植えが終わるとほとんどが森に帰って行く。あとには祖父母と私、人間だけが残された。
お祖父ちゃんの家に戻ろうとして、ふと地蔵堂を覗く。やっぱり。「彼」の足元は泥だらけだった。
「毎度仕方ないね。洗ってやらんと後でむくれるし」
お祖母ちゃんが笑って言った。つられて私も笑っていた。
了
今回は、らてぃあさんまで。
皆様のご高覧に感謝いたします。




