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自作小説倶楽部 第14冊/2017年上半期(第79-84集)  作者: 自作小説倶楽部
第83集(2017年5月)/「立夏」&「鉛筆」
28/37

02 柳橋美湖 著  鉛筆 『北ノ町の物語』

【あらすじ】

 東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが、実は祖父がいた。手紙を書くと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんが訪ねてきて、北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。

 お爺様の住む北ノ町。夜行列車でゆくそこは不思議な世界で、行くたびに催される一風変わったイベントが……。

 最初は怖い感じだったのだけれども実は孫娘デレの素敵なお爺様。そして年上の魅力をもった瀬名さんと、イケメンでピアノの上手な小さなIT会社を経営する従兄・浩さんの二人から好意を寄せられ心揺れる乙女なクロエ。さらには魔界の貴紳・白鳥さんまで花婿に立候補してきた。

 このころ、お爺様の取引先であるカラス画廊のマダムに気に入られ、秘書に転職。

 ――そんなオムニバス・シリーズ。

   北ノ町の物語 

.

      36 鉛筆

 クロエです。神隠しの少女救出作戦、と聞こえはいいのですが、恥ずかしながら実態は、異界行きホリデー列車旅行になってしまいました。お爺様に、従兄の浩さん、顧問弁護士の瀬名さん、画廊のマダム、さらには吸血鬼な白鳥さん。そして鬼族の運転士さんが加わって、なんとも、賑やかなこと……。

     ♢

「いやあ、困ってしまいました」

 頭の角を制帽で隠した運転士の鬼さんがつぶやきました。――というのも、列車の進行方向が谷間になっていて、そこの残雪が落ちてレールを塞いだからです。一帯は『アルプスの少女ハイジ』のアニメにでてくるような風景で、遠くには教会までみえました。軽便鉄道車両は、V字になった切通のところで立ち往生していました。

 鬼さんは、鉛筆で手帖に何やら忙しそうに書き込みをしていました。

 マダムがいいました。

「引き返す? それとも救援隊を待つ?」

 などと話しかけていると、手動レバーでドアを開け、男衆が雪だまりへ飛び出して行きました。電車の後ろ側には、収納スペースにスコップがたくさんあったので、皆で雪かき。

 白鳥さんはまるで空気をすくうかのように、軽く、雪を退けていきます。従兄の浩さんとお爺様の顧問弁護士・瀬名さんは、張り合って、猛烈な勢いで雪を掻きだしていきます。けれども、生身の人間ですから、吸血鬼な白鳥さんみたいにはいきません。

 浩さんが一番目に脱落、瀬名さんもさすがに二時間やったら手を休めました。疲れ知らずのお爺様はまだ頑張っていましたが、なにぶんにも量が多すぎて、らちがあきません。

 運転士さんは、会社からの電話指示を受けながら、手帖にまだ何かを書き込んだりしています。

「救援隊を乗せた作業車がここにくるまで五、六時間かかります」

「退屈で死にそうだわ」伸びをしたマダムが焦れったそうにそういうと、「ちょっとそれ、お貸しなさいな」といって、運転士さんから鉛筆をひったくると、私の手をとって、やはり外へでました。

 瀬名さんの守護天使・護法童子くんと、白鳥さんの電脳執事さんが、雪合戦して遊んでいました。――ときどき頼もしいこの二人、除雪作業は門外漢のようです。

 他の殿方は、マダムがまた何かするのだろうと、興味津々。マダムは運転士さんの鉛筆を足元の雪に突き刺すと、私の両手を取って、「若いころは一人でできたけど、もう年だから、クロエさん、手伝ってネ」といいました。

 マダムにいわく、魔法とは、世界のエネルギー流〝エーテル〟を制御することといいます。大雨の際に大都市が、ふだんは使わない水路の堰を切って、濁流を防ぐ操作にも似ているとのこと。

「つまり、鉛筆が〝水門〟になるのだということですね?」

「鬼に金棒っていうけど、あの運転士さん、金棒を鉛筆に擬態させていたのよ。これはおあつらえむきの媒体だわ」

 マダムがウィンクして、「じゃあ、やるわよ」といって、呪文を唱えました。まだ私がレッスンを受けていない、白熱魔法。マダムは、術のクライマックスの一瞬、どうみても十代にしかみえないほどに若返る。――元魔法少女が元魔法少女である所以です。

 線路を塞いでいた雪は瞬く間に解けて流れて消えました。

 スコップの手をとめた、お爺様も、白鳥さんも、「おおっ」と感心していました。

 制帽で角を隠した小柄な鬼族の運転士さんに、マダムが鉛筆を返したとき、運転士さんは、「ご協力感謝いたします。早速、運転を再開させて頂きます」といって何度もお辞儀しました。

「そのまえに、煙草を一本吸わせて」

 マダムが吸い終わってほどなく、運転再開。

     ♢

 それでは皆様、また。

             by Kuroe. 

【シリーズ主要登場人物】

●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。

●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。

●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住む。クロエに好意を寄せる。

●鈴木ミドリ/クロエの母で故人。奔放な女性で生前は数々の浮名をあげていたようだ。

●寺崎明/クロエの父。公安庁所属。

●瀬名武史/鈴木家顧問弁護士。クロエに好意を寄せる。

●小母様/お爺様のお屋敷の近くに住む主婦で、ときどき家政婦アルバイトにくる。

●烏八重/カラス画廊のマダム。お爺様の旧友で魔法少女OB。

●メフィスト/鈴木浩の電脳執事。

●護法童子/瀬名武史の守護天使。

●白鳥玲央/美男の吸血鬼。クロエに求婚している。

●神隠しの少女/昔、行方不明になった一ノ宮神社宮司夫妻の娘らしい。

蒲公英かんこうえい将軍/異界ギイ国・隻眼の猛将。

●運転士/路線管区が変わり幽霊運転士から引き継いだ。

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