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自作小説倶楽部 第14冊/2017年上半期(第79-84集)  作者: 自作小説倶楽部
第81集(2017年3月)/「たんぽぽ」&「水」
21/37

05 らてぃあ 著  たんぽぽ 『私が死んだ日』

「私が死んだ日のことを教えてください」

 ウェイトレスが立ち去るのを待って、そう言った少女はあの日と同じ姿をしていた。紺のセーラー服に長い三つ編み、後ろで1つに編んだ髪を右肩に垂らすところまで記憶の通りだ。胸には〈西野〉という小さなプレートが付いている。

「その前に君は彼女のことをどこまで知っている? 誰からも愛された真面目で美人のクラス委員なんてマスコミと大して変わらないイメージを確認するためじゃないよね」

「困ったことに私の両親もその他大勢と大差ないほど<私>を優等生の良い子だと信じていました」

「そうだろうね」

 大人になると何故か大半の人間が忘れてしまうが子供は嘘つきだ。最初に大人をだますために嘘をつく。そんな中で彼女の持っている嘘の壁の分厚さには驚かされた。

 少女は学生カバンから黒の外装に金色の模様の入った冊子を取り出す。

「私の日記です。机の引き出しの底に板が嵌め込まれてその下に隠してありました。学校や友達のことが書かれています」

「彼女に友達なんていなかったよ」

 俺は少し苛ついて言った。目の前の少女が少しひるんだ。

「外面は完璧に良かったけど誰も信用していなかった。完全に騙すか相手の弱みを握ることに熱中していた。そうしてスクールカーストのトップに立ったんだ」

「あなたも騙された?」

「そうだよ」

 騙されて、弱みを握られた。

 今思えばたわいもない中学生の恋愛だ。しかし付き合っていた女の子に浮気の証拠を突き付けると脅されて、次にいじめのターゲットになっていた。

「そのことは日記に書かれているのだろう」

「書かれているのはひどく曖昧な言葉です。とても感情的で、とりとめがなく。多分、自分でも感情の収拾がつかなかったのでしょう」

 そうかも知れない。

 ふと、彼女が大人になっていたらどんな大人になっていたのかと考える。そうなる前に俺以外の誰かが殺したかもしれないが。

「終業式の日、私があなたを裏山に呼び出したのですか?」

「嫌だったけど無視すると後が怖かった。もちろん危害を加えるつもりはなかった。彼女と違う高校に進学が決まっていたから俺はこれが最後だと思っていた」

 それですら、彼女はレベルが低い三流高校だと鼻で笑った。

 そして彼女は『これで私と別れられると思ったら間違いよ』と宣言した。

 目の前が真っ赤に染まった。気が付いたら彼女を突き飛ばしていた。

 あの日のことは何から何まで鮮明に覚えている。斜面に咲いていたタンポポの花すら。

 俺の出頭を妨げたのはクラスメイト達の証言だ。何人かが、確かに彼女が俺を呼び出したことを知っていたのにそれを「どうして彼女が裏山に行ったのかわからない」「知らない」と言ったのだ。手を下したのは俺だったが何人かが彼女の死を願っていた。

 目の前の少女は青い顔で俺の話を聞いていた。しばらく沈黙して震える声で言った。

「こんなことを言うとあなたには不愉快かもしれません。私は、いえ、〈姉〉は他人の愛し方も愛され方もわからない人間だったのだと思います。日記の内容はとても曖昧だけど、孤独に苦しんでいたんです」

「理解はできないけど、もう恨んでもいないよ。俺はまともな大人だからね。君ももう彼女の後を追うべきじゃない」

 少女の正体は最初からわかっていた。彼女の亡霊ではなく。彼女の死後生まれた妹だ。<この子は娘の生まれ変わりです>と彼女の母親がテレビのインタビューに話したことを人づてに聞いて寒気がした。

「顔かたちはどうしても似るから、これからも親は君と彼女を比べるかもしれない。でも君は彼女とは全然違う。そのセーラー服の丈は合っていないし、彼女は会ったことも無い相手のために泣くような人間じゃなかった。それに、」

 俺は背後の席を振り向いた。

「もしもの場合のために、警官を待機させるような知恵はなかったよ」

 コーヒーを飲むふりをしながら聞き耳を立てていた男二人組が、あちゃー、と声を上げた。

     了

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