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自作小説倶楽部 第14冊/2017年上半期(第79-84集)  作者: 自作小説倶楽部
第80集(2017年2月)/「鬼」&「道」
13/37

06 柳橋美湖 著  鬼&道 『北ノ町の物語』

【あらすじ】

 東京のOL鈴木クロエは、母を亡くして天涯孤独になろうとしていた。ところが、実は祖父がいた。手紙を書くと、お爺様の顧問弁護士・瀬名さんが訪ねてきて、北ノ町に住むファミリーとの交流が始まった。

 お爺様の住む北ノ町。夜行列車でゆくそこは不思議な世界で、行くたびに催される一風変わったイベントが……。

 最初は怖い感じだったのだけれども実は孫娘デレの素敵なお爺様。そして年上の魅力をもった瀬名さんと、イケメンでピアノの上手な小さなIT会社を経営する従兄・浩さんの二人から好意を寄せられ心揺れる乙女なクロエ。さらには魔界の貴紳・白鳥さんまで花婿に立候補してきた。

 このころ、お爺様の取引先であるカラス画廊のマダムに気に入られ、秘書に転職。

 ――そんなオムニバス・シリーズ。

    33 鬼道

.

 北ノ町一ノ宮神社。

 神隠しの少女の謎はここから始まりました。

 春というのは名ばかりの北ノ町。駅のある市街地から湖畔を挟んで反対側にある神社に車で行くと、大きな鳥居があり、そこから、参道両脇に置いた積雪が壁のようになっていました。

 今回は頼りになるお爺様が一緒。私・鈴木クロエと住み込みをしている東京の画廊のマダム、それから従兄でIT会社経営者の浩さん、お爺様の弁護士・瀬名さんが続いた。浩さんと瀬名さんには守護天使のような存在がおまけについています。浩さんについているのが電脳執事さん、瀬名さんに憑いているのが護法童子くん。――いうなれば鈴木家関係者スタメンというところ。

 狛犬の前に立ったお爺様がマダムにいいました。

「マダム、昔、鳥居の前に停車場があったのを憶えているかね?」

「50年前になるかしらね。そうそう、三郎さんの奥様もご一緒で、私たちはここの神社に詣でた。列車はチンチン電車で、北ノ町からでていて、湖畔を半周しこの神社の前が終点になっていた。廃線になったのはいつ?」

「30年くらい前だったか……」

 私たちは、参道から拝殿のある境内にむかい、社務所の宮司夫妻にご挨拶をした。夫妻はお爺様ばかりか、マダムとも旧知のようで、懐かしそうに話していました。――神隠しにあったのは夫妻の娘さん。

 やがて宮司夫妻は、私たちを神楽台へと案内し、私たちは円陣を組んで立つと、宮司さんは蔵から出してきた弓矢をお爺様に渡し、御祈祷をしました。この弓を破魔矢と呼ぶのですが、縁起ものではなく、鎌倉時代に戦闘開始を相手に知らせる、宙に放てばヒュルルと鳴る仕掛けの特殊な矢です。

祝詞の直後、お爺様が神楽台の真ん中に弓矢を射込んだ。するとです。ポッカリと穴が空いて階段が下に続きチンチン電車の停車場になっているではないですか。

 まずは電脳執事さんが駆け下りて行き、続いて、護法童子くんがホームに立って、私たちに降りてくるように、手招きをしました。

 宮司さんが、「結界の入り口は私たちが護ります。娘の件、よろしくお願いします」おっしゃると、お爺様は無言で会釈して階段を降り、その後を、瀬名さんと浩さんに挟まれた私も降りて行きました。

 タキシードの電脳執事さんが、懐中時計を取りだして時刻をみると、チンチン電車がやってきました。私たちが乗り込むと、不思議なことに電車には運転士が乗っていません。しかし客席ロングシートには先客がいました。――吸血鬼の白鳥さん。

「神隠しの別名を鬼隠しともいいます。30年前、ここの電車路線が廃線となった際、北ノ町の風水地脈が大きくズレた。その際、異界へ続く口が開いて、女の子が鬼にさらわれたときいたことがある。――鈴木ファミリーが勢揃いして鬼退治にゆくのですね。素敵だ!」

「そういう白鳥さんは?」

「観客です」

 確かに白鳥さんは、スポーツ観戦をするような感じで、しっかりと、新幹線グランシートで振る舞われるようなお弁当にワインまで持参しているではないですか。

お爺様とマダムが笑い、瀬名さんと浩さんは苦々しい表情。それで私たちは、白鳥さんに対峙する感じでロングシートに腰掛けたわけです。

 やがてチンチン電車の自動扉が閉まり、それはガタガタ音をたてながら、軌道を走りだしてゆきました。

 異界との堺をなす線路両脇には、雪に半ば埋もれた庚申塔があり、緩いカーブを描いて雪原の彼方へとどこまでも走ってゆきます。

 通路では、電脳執事さんと護法童子くんが鬼ごっこをやっていて、通路をバタバタ前後に駆けていました。

 ほんとうはね、怖いところに向っているはずなのですが、無敵な勇者のお爺様と、元魔法少女なマダムが一緒なので安心。不謹慎ながら、ちょっとピクニックモードになってきた鈴木ファミリーでした。

 それではまた。

 by Kuroe 

【シリーズ主要登場人物】

●鈴木クロエ/東京暮らしのOL。ゼネコン会社事務員から画廊マダムの秘書に転職。

●鈴木三郎/御爺様。富豪にして彫刻家。北ノ町の洋館で暮らしている。

●鈴木浩/クロエの従兄。洋館近くに住む。

●鈴木ミドリ/クロエの母で故人。奔放な女性で生前は数々の浮名をあげていたようだ。

●寺崎明/クロエの父。公安庁所属。

●瀬名武史/鈴木家顧問弁護士。

●小母様/お爺様のお屋敷の近くに住む主婦で、ときどき家政婦アルバイトにくる。

●烏八重/カラス画廊のマダム。

●メフィスト/鈴木浩の電脳執事。

●護法童子/瀬名武史の守護天使。

●白鳥玲央/美男の吸血鬼。

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