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8章 ガーディアンの幻象召喚

彼は独り身になって、バイクに跨って高速道路を疾走していた。

ニスト・ペグダムの咒式降誕炉ラ・ヴァース・シュラインへ行く際に既に生き方を理解していた彼は風を斬りながら、青き水平線を目指した。

荒廃した世界を眺望しながら走り行く、寂しげなエンジン音。物静かにドップラー現象を起こして…。


途切れ途切れに引かれた、中央の白線はバイクの上からだと繋がっているようにも捉えられた。

憐憫な世界を只、彼は視界と言う水晶に映し出して、何処か悲し気に陥っていた。

例え彼が産み落とされた孤児であろうとも、想う気持ちは一緒であった。


太刀を構えながらバイクは走行する。

決して対向車線には対向車は来ることは無かった。静かであったのだ。

閑静を貫き通す空間に無理やり彼はバイクと共に侵入し、先へ進んだ。

しかし、彼女を助ける為に必要なエニルクス因子が必ずしも手に入るとは限らないのだった…。


摂理府が敷衍した政策なぞ、自己主義者の考える囈に過ぎなかった。

結局は世界は誰の物でもない、全員が守る世界であることを、感情が乏しかった彼は悟ったのだ。

レミリアを聖櫃化ヴィルドガンズし、今も尚、当たり前のように過ごすトフェニも、エニルクスも、彼にとっては"悪"であった。


肆律アノヴィンジョン・プロメテクアを行う為に彼は戦う事を決意した。

例え自分の身がどうなろうとも…まだ会ったばかりの彼女を守ろうと想う気持ちが高ぶって、彼は自ずなぞどうでもよくなっていた。

惆悵芥蔕裁判エデン・ジャッジメントでレミリアを通り抜けさせるためにも、彼は―――。


「…レミリア…待っていろ…」


迸る感情。輝く閃光の輪廻スパイラル

彼はバイクのアクセルを踏むと、更にバイクは加速していった。


◆◆◆


彼は走っていた。

水平線も薄くなり、やがて咒式降誕炉ラ・ヴァース・シュラインとは比べものに為らない程大きな神殿が眼に映り、周りに近代化されたビル群が建ち並び始めた。

元あった更地は見る影も無く、高層ビルに囲まれた高速道路では対向車が来ることもないまま、彼は疾走した。

そんな彼の前に重たい音が響いたと同時に、目の前に降り立ったのは、リボルバーを大量装着した地上用迎撃機であった。沢山のマシンガンを備え、バイクに乗っていたリヒトの前で立ちはだかった。


「ここは通さん!」


重厚な機械音声が響いたと同時に彼はバイクから降り、太刀を両手で構えた。

剣先を迎撃機に向け、彼は先を睨み据えた。


「お前は摂理府に作られた兵器か…!」

「―――そうだね。大正解、おめでとう」


更に迎撃機の上で姿を見せたのは、白き片翼を携えた白鷺であった。

彼女は眼下の彼を見下し、軽蔑し、睥睨さえしていた。

突然現れた彼女と迎撃機に彼は苦い顔を示すも、怖気る様子は何一つ見せなかった。


「…素晴らしい発明でしょう?…これはトフェニの仕組みを把握して、真似て作られた迎撃機よ。

―――通称"ガーディアン"。シンプルでかっこいい名前でしょう?

―――そしてこの兵器は幻象シグマでもあるのよ。…今突然現れたのは私が幻象召喚シグマバース出来るからよ。そして…この機械もまた、幻象シグマを基に戦える兵器よ」

「…お前も出来るのか…!?」

「"も"?…どういう意味かしら?」


彼女はそんなリヒトに静かに問い正した。

―――幻象召喚シグマバースの使い手が、自分が知っている以外にいたとは。

…不意を突かれた彼女は薄笑いを機械の上で浮かべると、何枚かのカードを構えた。

左手の指の間からカードが姿を覗かせている。

機械の上の彼女はリヒトの答えに疑問を抱かせていた。

また、彼もまた彼女の困惑におどろおどろしい何かを感じ取っていた。

高速道路上で、彼らは睨み合った。


「…そのままだ。私は幻象召喚シグマバース使い…。…お前もそうなんだろう」

「…どういうことか、余り理解出来ないね。…幻象召喚シグマバースはエニルクスしか出来ない。

…何故お前が出来る?」

「…どういうことだ!?」

「こっちの台詞よ。私たちを攪乱しといて、今度はとんでもない正体の公開?

…先にやっつけておかないと、摂理府の今後に関わり兼ねない。…いずれにせよ、…"消えろ"」


彼女と下の迎撃機は戦闘態勢を取る。

彼女は機械から降り、迎撃機はフォルムチェンジを試みた。


「―――無駄だ!召喚獣プログラム作動!異世界との接触、完了!これより迎撃態勢に突入する!」


重厚な機械音声と共に映し出された異世界のビジョン。

宇宙とも捉えられる世界を眼に、彼は太刀を構え、一気に斬りかかった。


「…少し話を聞かせて貰おうか…!」


◆◆◆


彼は飛びかかって太刀でサグメに斬りかかるも、彼女も携帯していた小刀で応戦する。

摩擦音と共に攻撃を弾かれた彼はそのまま着地すると、ガーディアンは反応した。


「ファルシオン戦闘プログラム作動!」


その瞬間、異世界からの接触で力を授かったガーディアンは一気に高速道路上に雷の豪雨を降らせた。

彼はそんな攻撃に一瞬戸惑ったが、負けじと太刀を天に掲げた。


「……幻象召喚シグマバース!―――『イルシス・ワンダー』!」


刹那、目の前に現れた巨大な城のような機械が2人を守るが如く立ち塞がり、彼からガーディアンの雷を防いだのだ。

そしてイルシス・ワンダー自身の攻撃も行われようとしていた。城のような巨大な身体に閃光が迸ったと同時に彼女と迎撃機の真上から降り注ぐ天からの裁きの雨。

それは光の筋となりて、線を描いて落下していく。


「…そんな攻撃、通用するとでも!?…玉符、穢身探知型機雷!」


真上に放たれた機雷は一気に大爆発を起こし、それによって降り注ぐ聖天の雨をシャットダウンしてしまう。果たすべき役を終えたイルシス・ワンダーは靄に回帰して消え、彼は太刀を構えて一気に斬りかかった。

しかし反応したのは迎撃機の方であった。


「フィア・デス戦闘プログラム作動!」


その時、高速道路上に霧がかかり、空が急激な勢いで曇りだしては一気に雹の雨を落としたのだ。

降る雹に、彼は太刀で斬り続けながら近づいていった。

眼に当たる雹は痛いが、痛みなど今の彼には麻痺して効かないようなものであった。


「お前からだ!」


太刀で一気にガーディアンに斬りかかると、幻象シグマとしての役割を終えたガーディアンは靄に帰してしまったのだ。これで残るは片翼の白鷺1人となった。

彼女はまたガーディアンがやられた事に舌打ちをすると、自身のスペルカードを天に掲げた。

そして高らかに宣言する。


「…玉符、神々の弾冠!」


放たれる閃光の横殴りの雨。

彼は迫りくる光陰の弓矢の中を疾走し、彼女に近づこうとした。

太刀で襲いかかる閃光を退け、そのまま一気に太刀ですれ違いざまに斬り刻もうとする。


「喰らえ!」

「無理よ」


彼女はすぐさま反射的に小刀で受け止め、鍔迫り合いが始まる。

音を言わせ、響き合う剣同士の呼応。

睨み合いながら、彼は一気に力を込めて彼女を薙ぎ払った。

彼女はそのまま着地するが、その隙を見計らった彼は太刀を天に掲げ、宣言する。


「…幻象召喚シグマバース!―――『オーディン』!」


白馬に乗った騎士が靄と共に出現し、高速道路上を疾走するバイクのように彼は反動で動けない片翼の白鷺を一閃した。

軌跡が残り、閃光と共に彼女は呻き声を上げ、そのままコンクリートの地に伏せた。


「…ナイスだ、オーディン」

「…お主に言われるほどでは無い」


そのまま彼は靄に昇華し、戦いは終わった。


◆◆◆


「…どういうことか、話をしてもらおうか」

「―――どういうことも何も、そのままよ。…幻象召喚シグマバースはエニルクスしか出来ない。

…貴方も左腕を見ればいいわ。…そこに捺印スティグマがあるのなら…。

…でも、一体何が目的だ…貴様…」

「…悪いが話す必要は無さそうだ」


自らを形成する機械の左腕部分を少し剥がすと、水色に輝く紋章…捺印スティグマがそこに存在していた。

―――未知のエニルクスであった。彼は存在し得ぬトフェニから使命を授かった存在なのだ。

果たしてそれは抗いを司るトフェニなのか、真相は定かでは無かった。


―――が、これでエニルクス因子の採取が可能となったのだ。


「…悪いけど撤退させてもらうわ」


そのまま片翼の白鷺は隙を突いては羽ばたき、遠くに消えてしまった。

しかし彼はそれを見続ける事無く、バイクの進行方向を真逆に変えた。

自身の真実を知れた彼は―――この事を彼女たちに告げるのだ。


果てしなき水平線は、何時までもそこに存在していた。

青々と、罪もなく存在している水平線は未来を望む彼の想いを示唆しているかのようであった。

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