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4章 ノーヴァンセラスの艨艟

彼はその時、自らの身に危機が迫ってきていることを悟ったのだ。

汗を流し、そう伝えた小悪魔は恐ろしいものを見たかのような眼でそれを物語っていた。


「OBEYの将軍…甲冑みたいなのを着ていたかしら、小悪魔」

「は、はい…!バイクに乗って…咲夜さんを連れていました…!」

「さ、咲夜!?」


今さっきまで一緒にいたメイドが捕縛されていたのだ。

2人だけで無鉄砲に乗り込んだ彼女たちはそのOBEYには勝てず、あっけからんとして捕まってしまったのだ。

彼は改めてこの世界は混乱で極まっていることを肌で感じた。


「…咲夜を連れていた…間違いなく枢機卿よ…」

「…枢機卿?」

「そうよ。OBEYにも5人のトップがいて、そいつらが枢機卿って呼ばれているのよ」

「じゃ、じゃあフランたちが助けに行かなきゃ!」

「今、外では武装妖精メイドが必死に応戦していてくれていますが…奴には全く…!」

「仕方ないわね!行くわよ!フラン!リヒト!」

「分かった!」

「…」


彼は太刀を構え、刀身の先の世界を望んだ。

周りで起きている事象に置いて行かれている部分があったが、彼自身は思う事をやり遂げようと思い込んでいた。それが彼自身の答えであった。


◆◆◆


彼は初めて外界に出た。

赤レンガで建てられた屋敷から一歩外へ出てみれば、そこは戦場であった。

家の周りに魔法で張られた結界を壊そうとする兵士たちと、それに対抗する貧弱な妖精メイド。

妖精メイドは圧倒的に兵士たちよりも小さかったが素早く動けると言う点では融通通しが良かった。

そして中心にあったバイクにさっきまでいたメイドは縄で結ばれていた。

最早、監禁であった。目と口をロープで縛られている。哀れささえ滲み出る程だ。


「さ、咲夜!」

「今から助けに行くわ!」

「―――出て来たか。のこのこと」


結界から出て、助けに行こうとしたパチュリーとフランの前に立ちはだかったのは、甲冑を被った男…パチュリーの言う"枢機卿"と言う存在である。

彼自身は両手に剣を構え、2人の前で仁王立ちを図っていた。


「あんたが…ここに来ていた枢機卿ね!?早く咲夜を返しなさい!」

「我々はここの解放及びに摂理府本営への同行を願う。我々の意思に答えない姿勢でいるのならば、我々はこの結界を破壊し、壊滅を図る。それだけだ」

「…フランたちの邪魔ばっかりして…!

―――スペルカード!禁忌、レーヴァ…」

「オメガアクト!」


その瞬間、カードを掲げたフランに襲い掛かったのは青白き大爆発であった。

彼女の下で噴き上がる間欠泉のような爆発の勢いを見せた彼の攻撃はフランを一撃で吹き飛ばす。


「きゃあああああああ!!!」

「ふ、フランッ!」


パチュリーは爆発の勢いに任せ、そのまま地に堕ちたフランの元へ駆け寄った。

彼女自身、意識は残っていたものの、傷は酷く、今は戦えるとは言えなそうであった。

彼はそんな負傷したフランの倒れた姿を見て―――揺るぎない気持ちを感じた。

―――咲夜を捕まえ、監禁し、そしてフランに攻撃した彼を―――。


「…結局は雑魚のお祭り騒ぎに過ぎない。兵士共に任せていた私が馬鹿だった。

直々に私が赴けばこんな反乱組織の解体など簡単だったものを…」

「…雑魚、その言葉は聞き捨て置けないが」


彼はパチュリーから貰った太刀を右手で携えた。

フランを魔法で治療するパチュリーを守るかのように立ち、彼と対峙する。

彼自身は思いっきり相手を睨みつけていた。―――これがこの状況に於いて正しいことだと悟ったからだ。


「…まだ生きていたのか。…我々はこの世界とエデンとの同調を図る為に秩序を守っているが…お前らは耳を傾ける意思すら持たなそうだ。

…トフェニ政権を拒んで楽しいか?反逆者ども。所詮は只のバカ騒ぎだ」

「こっちは真剣にやっているんだ…。曾ての世界を取り戻す為に、そしてお前らのような野蛮な奴らから世界を救うために」

「救う?我々はエデンの下、世界及び人民をトフェニ監視下に於いて秩序を守る救済者だ。

…寧ろ破壊を企むお前らの方が世界にとっては害悪だ。

曾ての世界は消え、今はエデンの世界となった。世界は我々を受け入れたのだ」


そうリヒトに言い放った彼は怒りを露にしていた。

また、彼自身もそんな言われように自らが持った心の正義に不安を感じたが、パチュリーはすぐに応援を掛ける。


「リヒト!貴方は間違ってはいないわ!」

「…そうか」


彼は太刀の先を相手に向け、睨みを据えた。

甲冑の中の男もまた、剣を構え、そんなリヒトの眼差しを受け入れていた。

その間は兵士と妖精メイドの戦いは中断し、静かな沈黙と眼差しの中、2人は戦おうとしていた。


「…こちらアロン・グレッダ=ノーヴァンセラスOBEY摂理府任務管理責任枢機卿…。

…間もなく対象者との戦闘に入ります」


◆◆◆


「てや―――ッ!」


ノーヴァンセラスと名乗った男はそのままリヒトに向かって走っていく。

彼は両手で持った剣で目の前に立つ、太刀を構えた彼を斬りつけようとしたが、太刀すら操ったことの無いリヒトは滑らかな受け回しでノーヴァンセラスの攻撃を回避する。


「なッ…!?」

「…お前は分かっていなそうだな」

「な、何をだ!?」

「…私たちが行う抵抗の意味を。この秩序は虚構に過ぎない」

「…貴様…!」


甲冑の中で瞋恚を見せたノーヴァンセラスは至近距離まで迫り、一気に両手で斬りつけた。

しかしリヒトはそのまま太刀で2本の剣とも受け止め、摩擦が走る。


「…トフェニとやらの奴らに管理された世界が平和?…私はどうも納得がいかない」

「人間は飼われているんだ!玩具風情に、何が出来る!?」

「…戦う事…それだけだ…。

幻象召喚(シグマバース)!―――『ヘリオスフィア』!」


彼は攻撃を受け止め乍らそう宣言すると、太刀がみるみるうちに輝き始め、ノーヴァンセラスもその眩しさに一旦離れてしまう。彼自身が太刀を天に掲げると、目の前に浮遊する謎の巨大な球体が現れた。

大きさはバランスボール程度であろうか。禍々しい色で構成された球体は目の前にいるノーヴァンセラスに向かって火炎放射を行った。


幻象召喚(シグマバース)…お前も使い手だったのか…!…オメガアクト!」


青白き大爆発を解き放つと、ヘリオスフィアはその爆発に飲みこまれ、霧に回帰した。

しかし爆発の中から太刀を構えて飛び出したのはリヒトであった。


「何ッ!?」


彼は太刀でそのままノーヴァンセラスを―――斬りつけた。

甲冑は刻みこまれ、甲冑の中を太刀が貫通した。


「ぐ…ぐぐぐ…」


リヒトはそのまま太刀を甲冑から差し抜くと、ノーヴァンセラスは息苦しそうにしながらも無理やり立ち上がり、バイクに乗って逃げようとした。

その前にリヒトは阻止すべくバイクまで駆けつけるも、ノーヴァンセラスは異常にも速かった。

彼は太刀で何とか咲夜だけを救出すると、ノーヴァンセラスはそのまま背を向け、走り去った。


「…貴様の事だけは…覚えてやる…!」


◆◆◆


ノーヴァンセラス撤退におけるOBEY軍は結界破壊を諦め、そのまま全員撤退した。

勝利した気でいた妖精メイドたちは喜び合っていたが、彼はどうも喜べる気合いでは無かった。

監禁から咲夜を助け出した彼はお礼を言われるが、とりわけ嬉しいと言う訳でも無かったのだ。


「助けて頂き…ありがとうございます…」

「リヒト!咲夜!終わったのね…!」

「…私が何とか防いだ。…そして咲夜も助けた」

「はい…」


咲夜は縄でしっかりと撒かれた跡が首元に残っていたが、元気そうに振舞った。

パチュリーの回復魔法で何とか傷を治したフランもぴょこぴょこ撥ねながらリヒトに近づく。


「やったね!リヒトさん、ありがと!」

「…そう言われる筋合いは無い」


静かな水平線を眺めた彼は幻想すらない世界であることを身に染みて悟った。

自然が溢れた世界は消え、周りは更地ばかりの荒廃した世界であった。

パチュリーが張った結界内では草木が伸び伸びとしていたが、一歩出てみれば真逆の世界であった。


「…私は助かりましたが…お嬢様が…」


咲夜はそう心苦しそうに話すと、パチュリーは目が覚めたかのように彼女に問いかけた。

美鈴も、レミリアも、今や向こうの思う壺であった。


「何処にいるの!2人は!?」

「お嬢様は…主犯格としてそのままトフェニの元に連れていかれて…私は敵のヘイトを上げるための材料にされました…。美鈴は…何処にも…」

「トフェニの元…クッ、奴らはレミィを聖櫃化(ヴィルドガンズ)しようとしているわ!」

「…やだよ。…そんなのフランは嫌!」

「…咲夜、他に知っていることは!?」

「…話によれば、聖櫃化(ヴィルドガンズ)を行うのは…咒番6號式のミレ・トフェニ=二スト・ペグダムが濃厚らしいです…」

「…ニスト・ペグダム…?」


話の途中で疑問を浮かべたリヒトは3人の元へやって来た。

複雑過ぎる故、彼は自分の中で知れることが知っておこうと思ったのだ。

好奇心では無い、彼なりの考えであった。


「…『ミレ・トフェニ=ニスト・ペグダム』…。「空間」を司るトフェニよ…。

…咒番って言うのはトフェニに振り分けられた番号。ニスト・ペグダムは6號式…つまり6番目よ」

「…そいつは何処にいるんだ…!?」

「トフェニは基本、『咒式降誕炉(ラ・ヴァース・シュライン)』に身を置いているわ。

…ゼア系譜の頂点である『ゼア・トフェニ=アダム』とミレ系譜の頂点である『ミレ・トフェニ=イヴ』は中心の摂理府本営―――オズマ・トフェニ=エデンを咒式降誕炉(ラ・ヴァース・シュライン)として、他の8体は正八角形状の頂点となる場所に存在してるのよ…。

咒式降誕炉(ラ・ヴァース・シュライン)は簡単に言えば神の座敷よ。その奥…『胎内(トフェニ・クレイドル)』に奴らは佇んで世界を視ているわ」


―――彼は理解した。複雑な内容を、全て思考回路上で纏め上げたのだ。

アダムとイヴと言う祖神を頂点として、その他のトフェニは囲むように正八角形上で存在している、と。

…『咒式降誕炉(ラ・ヴァース・シュライン)』の奥―――『胎内(トフェニ・クレイドル)』にトフェニは御座している事も。


「…でもレミリアはエデンの惆悵芥蔕裁判(エデン・ジャッジメント)を通り抜けたのか?」

「―――紅魔館組は全員が通り抜けたわ。…反逆者としてね」

「…なら行くしかないだろう。…私はここで落ち着いてはいられない気がする」

「その通りね。…仕方ないわ、本営潜入ならまだしも、咒式降誕炉(ラ・ヴァース・シュライン)突入に作戦は要らないわ。

…フラン、咲夜。貴方たちは小悪魔と共にOEBYの襲撃の監視を頼むわ」

「…パチュリー様、一体どちらへ?」

「…決まってるわ。咒番6號式…ミレ・トフェニ=ニスト・ペグダムの咒式降誕炉(ラ・ヴァース・シュライン)胎内(トフェニ・クレイドル)よ。

―――奴を倒すわ。…リヒトと共に」

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