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39章 自由への闘い

彼女は事の萌櫱ぼうげつを一から十まで説明した。

エニルクスの頂点として降り立つ2つの存在…ゼア系譜エニルクスの『明羅』、ミレ系譜エニルクスの『東風谷早苗』の2人が紅魔館を襲撃、其の圧倒的な力の前で降伏せざるを得なかったらしい。

そして咲夜たちは全員、古代図書館とか言う場所に連れていかれたらしいのだ。

旧来よりスペルカードシステムに準拠してきた紅魔館勢にとって、トフェニの強大なる力を司る2人の前では最早…象の前の蟻であったのだ。


館内は全て2人のエニルクスによって荒らされたというのか。

怒りなんかでは無い、憎しみでも無い…彼に起こった感情は、目の前の事象である破滅への啓迪けいてき…終焉へのカウントに対しての許せない気持ち…。

―――美しさ…『幻想』を取り戻す為…。


―――そうだ。これは…"自由への闘い"、だ。


「…リヒトー!何かあったかしらー?」


「ああ、此処に」


2人の元に駆け付けたレミリアも、隠れていた妖精メイドから話を聞いた。

事の全てを聞くと、彼女は部下であるメイドの頭を優しく撫で、彼に真剣な眼差しを送った。

その意義を理解した彼は太刀を右手に、全てを賭けた戦いを…決意した。


…彼女は自身の館がどうなろうと…確かに思い出が詰まった屋敷だったが、別に焼かれただけではまだ良かった。

…自身の部下として仕えている存在を攫い、調子に乗っている奴らが…許せなかったのだ。

彼女は紅魔館の主。其れである以上、自身の仲間は助けないと威厳は保てない。

カリスマを維持する為にも…そう、エニルクスを倒すのだ。

しかも、今の2人はエニルクス…明羅と早苗にも対抗出来る程の力は顕在しているのだ。


―――元の幻想郷に戻す為にも…彼女は…。


「…行くわよ。…これは私たちの闘いよ」


「…ああ」


妖精メイドには燃え行く館から早めに避難することを勧めたと同時に、2人は倒壊する柱を避けながら外へ向かった。

やはり外は暑苦しい館内と比べて透き通っているような涼しさに思えた。

2人はすぐさまバイクに乗り込むと、その後ろをさっきの妖精メイドが後部座席の彼女の右肩に掴まった。

やはり孤独は寂しさや不安が募るものなのか、主であるレミリアの中で座る。


当の彼女は鼻で少しだけ笑うと、自分の部下の軟弱さに少し呆れた。

それと同時に、如何に自分が頼りにされてるか…責任の重さを理解したのであった。


彼は2人を背後に、そのままバイクのアクセルを踏み切った。

曾て立ち寄った場所…古代図書館。そこには…2人が聖櫃化ヴィルドガンズから助けた人々を避難させた場所でもあった。

憔悴感がわずかに残る。静かなその世界は…今、変遷しようとしていた。


◆◆◆


摂理府営高速道路を曾てダイナマイトで爆破させられ、落下して気を失った際に助けて貰ったリグルの家。

そこで摂理府の遣いであるガーディアンと戦った際に発見した穴から繋がっていた、古代図書館。

ひっそりと佇んでいた地下の図書館内に、全員が連れ去られたと言うのならば…。

…そう、他の避難していた全員も…。

―――恐ろしさを感じてしまった彼は家の前でバイクを泊めると、3人はその地に降り立った。


跡形もない家。残っていたのは、大きな悲鳴。

穴の奥から聞こえる、恐怖が奏でるオーケストラは悍ましささえ感じた。


「…行くしかない」


瓦礫に滴る、静かな雫。

其れが…無常感漂う世界に堕ちた瞬間―――白亜と漆黒は調和された。

希望をトフェニ、絶望をエニルクスとして…世界に蔓延る終わりなき輪廻スパイラルを断ち切る意思…。


「…貴方はここで待ってなさい。…貴方もバイク位は運転出来るでしょう?」


妖精メイドは首を縦に振ると、彼女は優しく微笑んだ。

地獄へ立ち向かう為にも、新鮮な空気…と言っても不味いものだが、深呼吸して態勢を整える。


2人は決心すると、薄煤けた穴に再び入り込んだ。

全てを…そして、幻想郷を救うためにも…。


◆◆◆


古代図書館。やはり中は広大であったが、人が密集していたのは事実であった。

トフェニに管理されていた世界では反旗を翻せなくする為、能力を奪い去っていたのだ。

結界内で隔たれていた紅魔館勢にその波は襲い掛からなかったが、エニルクスに敗北して尚、縄で結ばれて監禁されている。

スーツ服姿をぼんやりとした空間に置かせる2人。


そこに2人は駆けつけ、全員を助けようとした。

能力を奪われた者達は、2人のエニルクスを前に地面に尻餅を付いて、怯えていた。

太刀を清閑を輝かせて構える彼は、2人に一気に斬りかかった。

しかし、右側のスーツ服が咄嗟に反応し、太刀を右手で掴んでしまったのだ。


斬れない。鋼のような手は太刀をも掴み、易とも余裕そうな表情を浮かべていた。

口元に笑みを含有している。緑色の髪を靡かせて、彼を嘲笑いながら見つめていた。


「…いきなり襲い掛かってくるなんて…行儀が悪いですね」


「散々好き勝手に監禁やら聖櫃化ヴィルドガンズやら画策している奴に言われても、何とも」


すぐに力一杯で太刀を差し抜き、2人の前で対峙した。

他の全員は、そんな救世主の登場に目を丸くして、静かに佇んでいた。

…左腕に輝かす捺印スティグマ。それこそが…2人がエニルクスである何よりもの証拠であった。


「…で、私たちに歯向かおうって訳?…流石、脳漿無しは言う事が違うねッ」


左手に日本刀を携えた、侍の雰囲気を漂わすスーツ服姿の彼女は、彼を馬鹿にした。

彼はそんな2人に瞋恚を覚えた。生意気な口を利かせなくしてやろう、とも思っていた。

世界を混沌な程…滅茶苦茶に荒らしたエニルクスを…赦す訳にはいかなかった。


「…それは貴方たちの事じゃないかしら?」


彼女は明羅が悪びれた風に言い放った言葉をそのまま…ブーメランのように返した。

しかし、明羅はレミリアをも嘲笑っていた。

何が可笑しいのか…彼は不思議にも思っていたが。


「…クックック…現実逃避はやめろ。…見てて滑稽なだけだ」


「貴方たちの行う事は…見ていて胸糞が悪くなるだけね!」


レミリアがそう…鮮明に言った時、早苗は銃口を2人に対して向けた。

引き金の部分に人差し指を持ってきており、何時でも銃弾を穿てる状況でもあった。

2人は戦闘態勢を整え、何時でも戦える構えを取った。


緊迫した空気が流れる。

同じ数同士の人数で対峙し、何処となく恐怖や畏怖も感じられた。

決闘をただただ傍観している、捕らえられた仲間たち。

所詮は―――只の観客者に過ぎなかったのだ。


「…明羅、行きましょう」


「…ああ」


明羅が懐から取り出した拳銃の銃口はそのまま2人に向けられた…ものではなかった。

フェイントをしてから、そのまますぐ横のミレ系譜エニルクスの頂点である彼女に向けられたのだ。

…敵同士の裏切り。早苗は明羅の行動が理解出来ないでいた。


「…明羅…!」


「…悪いけど、脳漿無しはお前の事だよ…早苗」


その瞬間、一発の銃声が彼女の頭蓋骨を貫通した。

溢れ出る血が、その一撃の凄まじさを物語る。

緑色の髪の彼女はそのまま膝から崩れ落ち、古代図書館の煤けた地面に倒れてしまった。

まさかの事態に、2人は動揺を隠せないでいた。


「あ、貴方…!?」


「…次はお前たちの番だ」


明羅は銃口を2人に向ける。

―――第二の被害者に祀り立てあげる為にも…果てしなき野望を抱きながら。


「クックック・・・フハハハハハハ!!!」

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