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38章 シュヴァルツシルトの灰燼

更地を走らせたバイクはそのまま紅き館前に到着する。

やはり自分たちの本拠地が醸す安心感は存在したが…煙臭かった。

そして目を凝らして見れば…館の中が燃え盛っているのだ。

黒煙は立ち昇っていき、その姿は…レミリアを絶望に失墜させるまでであった。


「…どうして…どういうことなのよ!?」


「一先ずは中に入ろう。原因が分かるかもしれない」


「そうね。行きましょう!」


2人は燃え行く館に潜入することを決意した。

外観は何ともなくとも、中は想像を絶するほど悲惨な光景であった事…。

事実を前にして、やはり狼狽を隠せない彼女に彼は優しく肩を叩いた。


「…絶対、犯人を見つけよう。…こんな酷い事をした奴を」


「…うん」


彼に甘えることしか…彼女は出来なかったのだ。

今まで住んでいた館が何者かに放火され、柱は崩れ、家具やカーペットは燃えていく。

そこに形成していた、今までの思い出が全て…リセットされるのか。

たった1つの出来事で全て…無になってしまうのか。

彼に支えられながらも、彼女は目の前の出来事を受け入れた。…心の容量はギリギリであったが。


―――世界の秩序を守る為。


機械的な秩序や平和の為に、安穏であったこの世界を貪り、そして跋扈する奴らが…彼女は許せなかった。

その意思は今まであったものの、やはりこの事象を前にして感情を動揺せざるを得なかったのは事実だ。

久遠の彼方に存在する平和は、何時になったらその姿を見せるのか。

それも、そこまでに存在する多くの"壁"と言う難関の中に、思い出の焼却を含有しているのだから。


過去を思い描かせる色彩は、炎と言う黒色の絵具で塗り替えられた。

思い出が残る机も、椅子も、本棚も、全て、全て…。

炎はそんな彼女を他所に燃え続けている。非情な光景に、彼も苛立ちを隠せなかった。


太刀の白銀はその紅色を映している。

冷淡な様子も欠け、世界の盈虧えいきに憎悪を覚えさせる。

下を俯き、全てに悲観してる彼女の手を取り、安心させる。

実を震わせていた彼女の怒りも一先ずは落ち着き、事案を解決するための捜索を始めることとした。


2人はそのまま燃え行く館内を手分けして捜す内、パチュリーがいつも管理している大図書館で気になるものを見つけたのだ。

其の場に訪れていた彼が視界に捉えたもの…本棚の奥の奥の隙間の僅かな間に隠れて身を潜ませていた、妖精メイドであった。

息を殺して、永遠に続く"その時"の終焉を待つかのようにして―――。


彼はその場所に立ち入る為、燃え行きを見せる木製の本棚を太刀で破壊し、その場に姿を見せた。

姿が小さな妖精メイドにとって、彼は巨人のようにも思えた。が、其れが見覚えのある姿…リヒトであったのだ。

妖精メイドは背中に生えた小さな翼を過敏に動かし、わざわいの中に現れた救世主の暖かな身に飛び込んだ。

―――怖かったのだ。

小さくて、円らな目から流れ落ちる涙の冷たさが掌に乗る。炎の熱さより鮮やかに伝わったその冷たさは―――畏怖の表れでもあったのだ。


「…怖かったのか」


「…はい」


「…何があってこうなったのか、全てを教えてくれ。

―――――安心しろ、私は…お前の味方だ」


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