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31章 懺悔の星

彼はバイクのアクセルを踏み切って、次なる咒式降誕炉(ラ・ヴァース・シュライン)へと向かう。

咒式7號炉のトフェニ―――ミレ・トフェニ=レトワール・メビウス…。

…"次元"を司るトフェニは、そこに顕在していた。

水平線の向こうにうっすらと見えてきた神殿…それこそが2人の目指していた世界…。


「…見えてきたわね」

「―――ああ」


簡単な会話を交わした2人の乗るバイクは焦りを示唆しているかのように猛スピードで大地を駆け抜ける。

閑静な空間を突っ切るかのように走行するバイクはエンジン音と言う轟音を立てて…。

―――終わりなき静寂。果てしなき空乏。…そこに、2人は佇んでいた。


◆◆◆


白亜の神殿前にバイクを停車させ、2人は降り立った。

次元を司るトフェニだけあって、咒式降誕炉(ラ・ヴァース・シュライン)は不気味さを漂わせていた。

其れは恐ろしさや悍ましさでは無い、別の次元の"何か"…口言葉では上手く揶揄出来ないようなその存在…慙愧もまた、想像もまた…。

そこにあった、心情では読み取れても表面には表せぬ存在こそ…レトワール・メビウスの本当の恐ろしさとでも言えるのだろうか。


―――オズマ・トフェニ=エデンの惆悵芥蔕裁判(エデン・ジャッジメント)によって"人生"と言う名の輪廻(スパイラル)を覆された聖匣(アーティファクト)

所以にして、彼らは聖櫃化(ヴィルドガンズ)を祝福して受け止めるのであろうか。


「…ここが咒式7號炉…ミレ・トフェニ=レトワール・メビウスの塒よ」

「…そうか」


これ以上の会話を交わす必要性など見当たらなかった。

恐怖を感じまいが、いずれ戦わざるを得ないのは事実であった。どの(くじ)空鬮(からくじ)など無い、全てが全てである。空虚に従うは、2人の宿命でもあった。


中へ静かに足を踏み入れると、脇には聖蹟(アステル・ギア)が立ち並んでいた。

この世の何もかもを憎んでいるが如し顔つきは、咒式降誕炉(ラ・ヴァース・シュライン)をより一層恐怖に仕立て上げる化粧道具でもあった。

…其れは残酷の運命。…逃れられぬ現実。…トフェニが現れた世界で、力の無き者は無残に聖櫃化(ヴィルドガンズ)される運命だと…。


奥に見ゆるは、荘厳な空間の佇まい。

薄暗い世界を映す視界の中に急に入り込んだ光は、この世界には無い希望を虚偽として示唆しているかのようであった。

光でさえ、真逆の闇であること。…彼はこの齟齬を胸に抱いていた。

以前まではトフェニに対して過大なる恐怖を持っていた彼女も、胎内(トフェニ・クレイドル)を前にしようが怯える振りも見せない。

この腐り切った世界の扶養を行う為にも、戦う事は使命でもあったのだ―――。


「―――何故にもがき、そして生きるのか。

―――何時かは終わる生に、お前たちは何を求むるがうえなのか。

―――人生は繽紛として散る。…その定めから我々は救ってやったのだ。…感謝するがいい」


胎内の中で佇むトフェニは、やって来た2人の"愚か者"に対して言い放った。

黄金を背景に御座せし機械神は、言葉に嘲りを含有して言い放った。

それは今までで5体のトフェニを倒してきた2人に対しての挑戦状であったのかもしれない。摂理府が運営するOBEYの兵士減少による事象は大きいが、それをたった2人が引き起こしていたのならば…笑えたのであった。


「…感謝!?貴方たちに感謝してる奴なんか、誰一人いないわよ!」


彼女の鮮烈な声が一筋となって聞こえ渡る。

電流を走らせ、そこに(たたず)んでいた夢も未来も消失した機械…"トフェニ"。

何も知らない癖して恰も有象無象を知ったかのように喋る機械神を、彼女は悉く嫌った。


「―――恐れるな、未来はすぐそこに顕在している。

―――お前たちの求める仮想は現実になるとも限らないが…我々は織り成して見せよう」


「―――お前たちに任せておいて、この世界は荒廃の一途を辿った…違うか!?」


「―――寧ろお前たちは摂理府を倒して、一体何をするのだ?

…漠然とした開けし未来を前にして、お前たちは何をする?」


問われた2人は、その後の出来事を全く頭に入れてなかった。

目の前の出来事だけを視界に捉え、その後の未来に対しては現を抜かしてしまった。

狼狽えは、2人の気持ちの動揺を比喩している。


「…未来は…私たちが決める…。…貴方が干渉する権利なんて無いわ!」


「―――そうか、ならば干渉させて貰おうか…!」


「…馬鹿げた諧謔はよせ」


彼がそう言うや、2人はそれぞれ構えた。目の前に存在する機械神も、多くの宝飾に囲まれた空間で電気を走らせ、多くの装置を起動させる。

エネルギーが湖の中に存在する大地そのものから送られ、星に寄生した神は煙を噴出させる。

吝嗇な考えを持ちし愚か者を前にして―――神の天罰を与える為…。


絶望に反駁せし存在は、其の眼で馬鹿者の残滓を捉えていた。

…が、実際は"馬鹿者"が"馬鹿者"では無い事実…世界は2人を認めていた。


―――広きも狭きも、"偽りの希望"は考えへの矜恃の忌憚なのだ。

個人的なリヒトさんの名言


「…馬鹿げた諧謔はよせ」



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