19章 エニルクスの襲撃
ラスボスは絶対にオズマ・トフェニ=エデンではありません。
そうしたら展開が面白くなくなるので。
幻象となり、異次元世界から幻象召喚された3人は、そのまま紅魔館の大図書館に移動した。
美鈴も異次元に飛ばされたものの、幻想郷に着いた瞬間に彼の背中で眼を覚ました。
「…あれ、ここは…」
「目が覚めたわ!美鈴が!」
彼に背負われた美鈴がゆっくりと眼を擦って起きたことに気づいたレミリアはそんな彼女を介抱する。
ゆっくりと立とうとする彼女の片手を受け持って、静かに美鈴を幻想郷に復帰させた。
寝ぼけ眼の彼女は今まで何が起きたのか分からず、ただただ欠伸をしているだけであった。
「…ふぇ?ここは…」
「美鈴、ここは紅魔館よ。…貴方はトフェニに異次元に飛ばされていたのよ」
「…そうだったんですか!?」
ハッと眼を覚まし、彼女は今まで自分の身に起きていたことを悟った。
辺りを見渡し、沢山ある本棚―――そこから大図書館であることを把握した。
「…私を助けて貰い…申し訳ありません…」
「いいのよ美鈴。…それよりも、パチュリーや咲夜がいないわね…」
その時、外から聞こえる喧噪…聞き覚えのある声が聞こえた。
やたら館内は静かだ。…いつもはせっせと働く妖精メイドも、またいなかった。
彼は―――察した。…襲撃だ。
「外に何かいる。…きっとOBEYの奴らだ」
「―――この喧噪…その可能性が高いわね。…急ぎましょう!美鈴は休んでなさい!」
「お嬢様…お言葉に甘えます…」
美鈴はそのまま椅子に腰かけ、目を瞑った。
異次元から復帰した彼女が幻想郷と言う世界に許容されるまでは遠い。
リハビリも兼ねて、彼女は得意の昼寝をした。
そんな美鈴を後に、彼らは急いで外に出る。そこは―――予想通りの光景が広がっていた。
広がる戦火。響き合う剣同士の金属音。…そこには魔法で戦うパチュリーや投げナイフで応戦する咲夜、雑魚散らしを行うフラン―――そう、全員は戦っていたのだ。
そして中心でバイクを背景に不敵な笑みを浮かべる女性―――スーツ服姿を見せる彼女はそんな3人を嘲笑っていた。
「…流石は紅魔館組ね。…ここまで抗えるなんて。でも主のいない紅魔館なんて、電池が無い懐中電灯みたいな物でしょう?」
「クッ…!…貴方にそう言われるなんてね…!」
そう反応を示したのは―――咲夜であった。
沢山の武装兵を壁に、奥でゆっくりと佇む彼女を睨み乍ら、迫りくる兵士たちをナイフで撃退して行く。
―――手を前に出すだけで、彼女の前には幾らでも壁は出来上がった。
所詮、OBEY兵なぞ只の使い捨てに過ぎなかった。…侵略のための道具としか思っていなかったのだ。
「…貴方ね!阿求!」
目の前にあった壁を彼が幻象召喚したファルシオンの雷鳴で一気に打ち砕かれ、自分の前に姿を現したのは―――いないと思い込んでいた主…レミリアと謎の人物…リヒトであった。
その2人を見据えては驚愕を少しだけ表情に表した阿求は、面倒な顔をした。
「…いつの間に来たのね。…厄介な奴らが」
「そうよ。何か悪いかしら?」
「お、お嬢様に、リヒト様ッ!」
現れた救世主に咲夜はすぐさま反応した。
今まで苦戦していた敵を一蹴して現れた彼らにフランやパチュリーも反応を示した。
しかし、彼女たちは彼女たちで別のOBEY兵に攻められていた。
「…お、お姉さまにリヒトさん!」
「2人は…阿求…目の前にいる奴を倒して!」
「分かったわ!パチェ!」
パチュリーの言葉を受け、2人は目の前に立つ存在に武器を向けた。
当の彼女はそんな状況にため息をついた後、自身が持つ武器―――ガンブレードを片手に2人を睨んだ。
陽の光を反射する鋼鉄の光沢―――その先を2人に向けて。
「エデンの世界の秩序に逆らうなんて…阿呆ね。…他の奴らは平穏なのに」
「実際に行動に移さなくとも、思ってることは私たちと同じよ」
「…現実逃避、好きなんだね」
◆◆◆
一気にガンブレードで斬りかかった彼女に対し、動きを見せたのは彼であった。
太刀を巧みに扱って、ガンブレードの重たい一撃を受け止める。
しかし、彼女は自身が持つ改造剣に取り付けられたトリガー…それを引っ張った。
ガンブレードの刃で火薬が爆発し、衝撃が彼の太刀を吹き飛ばした。
彼は反動を受け、隙を狙われてしまう。
「終わりよ!」
しかし、彼女のチャンスは悉く2人目の紅き槍によって塞がれてしまう。
舌打ちをした阿求に対し、レミリアは彼に言い放った。
「リヒト!今よ…太刀を!」
「済まない!」
すぐさま飛ばされて地面に刺さる太刀を取りに戻る彼を見届けた彼女は目の前の攻撃を取り払った。
力負けしそうになった彼女に襲い掛かる、鋼鉄の連撃。
グングニルで応戦するものの、猛攻に狼狽せざるを得なかった。
嘲笑を口元に、グングニルを火薬爆発の衝撃で吹き飛ばした彼女は、何も持っていないレミリアを見据えた。
「…お終い、ね」
ガンブレードの一撃が彼女の身体を貫こうとした―――刹那。
一筋の叫ばれた声―――彼の声であった。
「―――幻象召喚!…『オーディン』!」
靄がかかり、その中から白馬に乗った騎士がそんな阿求をすれ違いざまに斬り込んだのだ。
黒塗りのスーツ服に赤い線が刻まれ、血が滲んでいく。
彼女はレミリアに止めを刺そうとした一撃をキャンセルし、そのまま右膝を一瞬地面に付けた。
「遅れた!」
「リヒト…助かったわ」
「―――これでお互い様だな」
2人が集まり、負傷している彼女は負けじと立ち上がった。
ガンブレードを構え、苦痛の表情を見せても尚―――立ち塞がった。
「私はエニルクスだ…。…こんな場所で負けはしない!」
諦めずにガンブレードの一撃を放つ彼女に対し、反応したのは彼だ。
太刀で攻撃を防ぎ、阿求の行動を止めてしまう。
その隙を狙ったレミリアは左手にスペルカードを構え、声高らかに宣言した。
「―――スペルカード!紅符、ブラッディマジックスクウェア!」
◆◆◆
レミリアの攻撃を直面に受け、衝撃でそのまま地面を転がっていく阿求。
彼女は何とか立ち上がり、紅に滲ませたスーツ服と共に、バイクに乗り込んだ。―――逃走だ。
「…今からOBEYへ援軍申請しないと…!」
そのまま彼女は旅立ったが、彼らは最期に彼女が言い残した言葉をしっかりと聞いていた。
結界前からは阿求の撤退に即してOBEY軍も撤退したが、素直に喜べる状況では無かった。
戦いが終わり、異次元世界から復帰した2人の元に集まった4人。全員はとても嬉しそうであった。
「…よく戻ってきたわね、良かったわ…」
「ありがとう、パチェ。…美鈴は無事よ、今図書館で待ってるよう促したわ。きっと寝てるわよ」
「―――でも本当に良かった。…貴方たちが心配で仕方なかったのよ」
「…私も、なのか」
空を見上げていた彼はパチュリーの"たち"と言う言葉に疑問を抱いた。
それは自分もその"心配"に含まれるのか―――上手く輪の中に溶け込めないでいた彼は考えていた。
「当たり前よ。…だって、貴方は…"私たちの仲間"、じゃない」
「…」
仲間…そう、彼は彼女たちの仲間なのだ。紛れも無い、列記とした…。
心の底が何故か暖かくなった。どうしてなのか…彼は分からないが、安心感が生まれた。
「…ふふっ、これからも頼りにしてるわよ…リヒト」
そんな自分に向けられた、彼女の優しい笑顔。
彼は―――そんな笑顔を守ってやろうと決意した。例え、それがどんな敵であろうとも。
―――自分の信じる正義が定義付けられた今と言う瞬間、彼は口を開いた。
「…そうか」
「何よ…またカッコつけちゃって」
終わりなき旅路。
それは世界を変えるまで―――永遠に続きそうであった。




