10章 ホワイトボルトとガイオステンペストの帷幄
ホワイトボルトと名乗る甲冑の男はそんな彼にいきなり斬りかかった。
重厚感を保つ甲冑の男の一撃を太刀でさらりと受け流し、攻撃を避ける。
しかし彼は気づいた。…挟み撃ちされているという事実に。
「…挟み撃ちか…」
「悪いが、これがエデンの示した結果だ。…受け止めろ」
もう1人の甲冑の人物はそんなリヒトに対して拳銃を取り出し、銃口を手向ける。
一方では剣、もう一方では銃と彼は武器同士の挟み撃ちにされていた。
彼はそんな状況にどうするべきか考えた。
悩んだ。必死に、只管に。安全策を…考えた。
その時、彼は思いついた―――。
「…悪いが私にはもう1人いる!…幻象召喚!―――『イルシス・ワンダー』!」
靄と共に現れた、巨大な機械の壁。
彼の背中を守るように、ホワイトボルトの前で立ちはだかった。
「…これで1対1に持ちこんだつもりか!?」
「そうだッ!」
彼は太刀を構え、一気に相手に斬りかかった。
太陽の輝きを受けて煌めく刀身を主として、彼は飛びかかった。
しかし拳銃で攻撃を受け止められ、火花が迸った。
「…貴様、なかなかやるな…。…これが紅魔館組の最後の希望と謳われた存在か」
「そんな風に謳われた覚えは無い」
一気に力を込め、彼は相手を力押しした。
力負けした彼は後退し、態勢を整える。
ホワイトボルトは目の前に聳え立つイルシス・ワンダーが放った殲滅光線を受け、大爆発に巻き込まれてそのまま吹き飛ばされてしまった。
そして着地地点がリヒトの目の前であった。
「…イルシス・ワンダーは消えたな…。…よくやってくれた」
倒れているホワイトボルトに止めを刺そうとした彼にガイオステンペストは阻止に入る。
倒れていて抵抗出来ない彼を救うため、ホワイトボルトが持つ剣を手に取り、リヒトの剣戟を受け止めた。
「…厄介だな…!…幻象召喚!―――『オーディン』!」
白馬と共に姿を現した騎士はそんな鍔迫り合いを見計らい、一気に疾走した。
そしてすれ違いざまにガイオステンペストに剣の一撃を被らせる。
「―――剣の一撃を葬ってやろう!天空剣!」
「ぐっ…!」
狼狽えの声を見せた彼はその場で地面に跪き、リヒトはもう1人の姿を探した。
ホワイトボルトはそんな彼に、ガイオステンペストから武器を返して貰って背中から斬りかかった。
―――不意打ちだ。
しかし、その瞬間に時間は停止し、2人の間に現れたのは…咲夜であった。
追いかけてきた彼女も戦いに加わったのだ。
「…リヒト様、誠に遅れてしまい、申し訳ございません」
「…時間停止か」
「…はい。私の能力で…今、時間を停止させております。この間に…態勢をお整え下さい」
「―――感謝する」
リヒトは背中ギリギリで斬りかかりそうになったホワイトボルトを尻目に、太刀を構え直した。
そして咲夜はそんな彼を見て…能力を解除した。
時間は再び動き出し、ホワイトボルトの攻撃は空振りで終わってしまう。
「な、何故だ!?」
「…貴方はここで終わりにしてあげましょう!」
咲夜も負けじと投げナイフの雨をホワイトボルトに浴びせるが、彼は悉く回避してしまう。
得意げになっていた彼の先にいたのは―――リヒトだ。
「…得意げになるな」
◆◆◆
襲撃者をやっつけ、倒した2人は疲弊していた。
枢機卿が一気に2人で来るとは想像もしていなかったからだ。
そしてOBEY軍は枢機卿の撃退に反応し、怯えてそのまま紅魔館の敷地前から去っていった。
雑魚を散らしていたフランも、敵の撤退に気づいてリヒトたちの元に駆け寄った。
「やったね!またやっつけたね!」
「…何処までも執拗な奴らだ…。…それがまた、全員が悪では無いってのも酷い」
「聖匣ですから、ね…。…みんな、オズマ・トフェニ=エデンの被害者なんですよ…。
…奴の惆悵芥蔕裁判の不公平な裁判の結果、全員…」
「…聖蹟になってしまう運命を持つ兵士たち…。
―――我々は全員を…機械の神々から救い出さなければいけないのか」
◆◆◆
「…幻象召喚!―――『レミリア・スカーレット』!」
その瞬間、靄と同時に静かに眠っていたレミリアがベッドの上で姿を現した。
一度幻象にして肆律を行う事―――。
それが彼女を助けられる、唯一の手段なのだ。
「…レミィへのエニルクス因子の移植は成功してるわ。
―――後は肆律をして、エデンからの応答を待つだけよ」
ベッドの上で静かに寝て佇むレミリアの左腕が仄かに赤く輝く。
その場所こそ、エニルクス因子を埋め込まれた場所なのだ。
エニルクスの許可を貰い、惆悵芥蔕裁判にかけられたレミリアは残照した記憶を抱いておらず、機械仕掛けのエデンが示す答えは早かった。
―――ゆっくりと、彼女は瞼を開いた。
「…み、みんな…どうしたのよ、一体…」
「レミィ…助かったのね…!」
「お姉さま…!」
全員は聖櫃化されたレミリアの帰還にたいそう喜んだ。
妹や親友、従者はそんな主の復活に心の底から―――。
…しかし、彼は違った。
何処か遠い目をして、当て外れな方向を向いていた。
―――レミリアも、自分を喜んでくれる彼女たちよりも、そんな彼が気になった。
記憶も無い、只自分たちに協力してくれている未知の存在―――『リヒト・スカーレット』。
スカーレットを名乗らせたレミリアへの意識を遠のかせて、彼はその場に…静かに…。
―――寂寥感が、そこには存在した。
―――聖櫃化に怯えた、恐怖のトフェニ政権。
トフェニの思う壺であったこの世界で、恐怖を知らない存在でもあった。
「…リヒト…」
哀しさを醸す彼の後ろ姿を見て、レミリアは助けてあげたかった。
支えてあげたかった。だが、今は自分を押し上げることが精一杯であった。
嬉しさの声が、空回りに聞こえる。
彼女は、リヒトとの2人きりの空間に閉じ込められていたような感覚に至っていた。
真っ黒な闇の世界。
そこで彼は背中を向けたまま―――何も言わずに去ろうとした。
彼は何を考えているのか。
レミリアは肆律されたての体で―――そう感じた。
 




